公開日:2012.03.09
上場会社3,543社「震災関連損失」調査 ~震災関連の特別損失額の合計4兆703億円~ 東京電力の震災関連損失が約5割を占める
2011年3月に東日本大震災が発生し、サプライチェーン混乱など様々な被害をもたらした。上場会社3,543社のうち、震災以降、本決算・中間決算の損益計算書において特別損失で震災(災害)関連の損失を計上したのは1,356社(構成比38.2%)で、上場会社の約4割を占めた。
特別損失の合計額10兆4,820億円のうち、震災(災害)関連損失額は4兆703億円(構成比38.8%)に達した。震災関連損失の内容別では、『災害による損失』は1,265社が計上、金額は1兆6,371億円(構成比40.2%)と最大だった。次いで、東京電力や東北電力による『災害特別損失』が2社、同1兆3,786億円(同33.8%)、東京電力の『原子力損害賠償費』が1社、同8,909億円(同21.8%)だった。
産業別での震災関連損失計上額では、東京電力が含まれるサービス業他が2兆7,972億円と最大。次いで、製造業が8,861億円、金融・保険業が1,004億円となった。
前年同期に火災事故などの災害関連損失を計上したのは33社(金額70億円)だったことからも、東日本大震災が産業界に大きな影響を及ぼしたことを裏付けた。
※震災関連損失とは・・・災害による損失、災害特別損失、災害損失引当金繰入額、震災に伴う停電時休業手当、災害支援費用、震災関連費用、原発事故損失、災害義捐金、原子力賠償費、震災に伴う操業度差異、災害対策引当金繰入額、操業停止損失、災害対策関連諸費用。類似表現も含む。
※3月~6月決算企業の「震災関連損失」の損失額は、本決算及び中間期の合算数値。
震災関連損失は1,356社が計上 損失額は4兆703億円
震災以降に決算を迎えた上場企業3,543社のうち、震災関連損失を計上した1,356社の損失計上額は4兆703億円だった。前年同期に比べ社数は41.0倍、損失計上額は581.4倍に達している。
震災関連損失の内容別では、『災害による損失』は1,265社が計上し、損失額は1兆6,371億円(構成比40.2%)と最大だった。次いで、東京電力、東北電力が2011年3月期及び2011年9月中間期の各決算で計上している『災害特別損失』で、損失額は1兆3,786億円(同33.8%)。東京電力が2011年9月中間期で計上している『原子力損害賠償費』で、損失額は8,909億円(同21.8%)。
一方、災害義捐金が42社(損失額93億円)、震災関連費用が14社(同231億円)、災害支援費用が14社(同15億円)など、支援に積極的に取り組んだこともわかった。
『災害による損失』が最も大きかったのは、JXホールディングス(東証1部)の1,374億円。仙台・鹿島の製油所が被災し、震災直後は被災地で石油製品の供給に支障を来たした。
次いで、住友金属工業(同)が743億円。鹿島製鉄所の設備が損傷を受け、一時操業が全面停止した。日本製紙グループ本社(同)が711億円。石巻工場、岩沼工場、勿来工場が甚大な被害を受けた。
こうした震災の影響は各企業とも大きかったが、協力会社などの支援により大半は夏場までに再稼動にこぎつけた。
産業別 サービス業他が震災関連損失額の約7割を占める
産業別の震災関連損失は、電力会社が含まれるサービス業他が2兆7,972億円(構成比68.7%)と最大。次いで、製造業が8,861億円(同21.7%)で、この2産業で震災関連損失の約9割を占めた。その他、金融・保険業が1,004億円(同2.4%)、運輸業940億円(同2.3%)、卸売業576億円(同1.4%)だった。
震災関連損失のうち、災害による損失では、製造業が8,481億円と損失計上額が最大。次いで、サービス業他が4,901億円、金融・保険業が1,002億円と続く。
製造業で災害による損失が大きかった主な企業は、住友金属工業(損失額743億円)、ルネサスエレクトロニクス(同622億円)、日産自動車(同607億円)、信越化学工業(同263億円)、新日本製鐵(同237億円)だった。
決算からも震災直後のサプライチェーンの寸断が、企業の生産活動の混乱を物語っている。
上場区分別 震災関連損失額は東証1部上場企業で98%
上場区分別では、東証1部が4兆25億円と損失額は最大で、以下、JASDAQが343億円、東証2部が269億円と続く。
東証1部・2部、地方上場、JASDAQでは、震災関連損失で災害による損失が主体であるが、マザーズは災害義捐金、震災関連費用などのその他が63.3%を占めた。
東京電力の損失額は2兆964億円 1社で全体の約5割を占める
震災関連損失計上額トップは、福島第一原発事故に起因した東京電力の2兆964億円(2011年3月期1兆204億円、同9月中間期1兆759億円)。次いで、同じく東北電力の1,731億円(同833億円、同897億円)、JXホールディングスの1,374億円(同1,260億円、同114億円)だった。
東京電力は、2011年3月期では、災害特別損失1兆204億円を計上。また2011年9月中間期で災害特別損失1,850億円、原子力損害賠償額8,909億円の計1兆759億円の損失を計上。2011年3月期及び2011年9月中間期での震災関連損失計上額は2兆964億円で、全体の震災関連損失額4兆703億円の約5割を占めた。
6位は東日本旅客鉄道で、被災エリアで長期間の運休を余儀なくされ2011年3月期に587億円(うち、災害損失引当金繰入額569億円)、2011年9月中間期に122億円(災害損失引当金繰入額)と合計709億円の損失を計上した。9位は七十七銀行で、2011年3月期に506億円(災害による損失)を計上し、12月に金融機能強化法に基づき公的資金を導入した。
東日本大震災から一年を経過する。震災直後は、サプライチェーンの寸断などから製造業は大きな影響を受け、また福島第一原発事故に起因した計画停電などの電力問題もあって、社会的にも言うに及ばず、産業界でも幅広い業種で事業活動などに制約を余儀なくされた。
この影響は、上場企業全体で4兆703億円という莫大な経済的損失となって表面化した。円高の高止まり、市況の停滞など売上が伸び悩むなか、「東日本大震災」関連倒産件数は636件(2月末集計時点)発生し、震災の影響は直接・間接に広範囲に波及している。大手企業がこれら損失を取り戻すには、業績拡大だけでなく徹底したコスト管理にも取り組むだろう。このシワ寄せは中小企業に押し寄せ、ボディーブローのように企業体力を奪う。震災は、日本の産業界全体に損失を及ぼしたが、今後はこれをバネに従来の企業活動を見直し、新産業などの育成も急がれる。
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