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「雇用調整助成金」の不正受給は累計1,845件 公表企業の倒産発生率6.61%、通常の23倍

2025年10月 「雇用調整助成金」不正受給公表企業 調査

 コロナ禍に雇用を支えた「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給件数が、2020年4月から2025年10月までに累計1,845件に達したことがわかった。不正受給の総額は593億7,499万円にのぼる。
 不正受給の企業公表は、2025年9月は16件、10月は4月と並びことし最少の14件にとどまり、2カ月連続で20件を下回った。コロナ禍の発生から6年を目前に、不正受給の公表はピークを越えたようだ。

 都道府県別の不正受給は、愛知県が291件で最も多く、300件の大台超えも近い。企業数が圧倒的に多い東京都(231件)、大阪府(179件)を大きく引き離している。
 1,845件のうち、東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースで分析可能な1,415社では、産業別の最多はサービス業他の644社(構成比45.5%)。このうち、最も多いのが飲食業205社で、休業要請や時短営業などコロナ禍の影響を強く受けた代表業種だ。この他では、建設業が192社で200社に迫り、製造業154社、運輸業102社と4産業が100社を超えた。
 不正受給を公表された企業のうち、2025年10月までに倒産が確認されたのは122件にのぼる。倒産発生率は6.61%で、2024年度全国倒産の発生率0.28%の23.6倍で、不正受給公表企業の倒産率は非常に高い。
 不正受給は重大なコンプライアンス違反で、不正を主導した代表者や関係者の逮捕などの刑事事件に発展したケースも散見される。刑事告訴に至らなくても、取引先や金融機関からの信用を失い、経営破たんのリスクは高まる。また、助成金の返還や追徴金を課せられるため、資金繰り悪化も同時に進む。落ち着き始めたとはいえ、公表企業の動向からは目が離せない。

※ 本調査は、雇用調整助成金、または緊急雇用安定助成金を不正に受給したとして、各都道府県の労働局が2025年10月31日までに公表した企業を集計、分析した。前回調査は9月30日発表。



雇調金等の不正受給公表は累計1,845件

 全国の労働局が公表した雇調金等の不正受給は、2020年4月から2025年10月31日までで1,845件に達した。支給決定が取り消された助成金は合計593億7,499万円で、1件あたり平均3,218万円となる。
 2025年1-10月の公表は300件で、月平均30件と前年同期(527件)の月平均52.7件からほぼ半減した。公表された1,845件のうち、「雇調金」だけの受給は1,074件で約6割(構成比58.2%)を占める。パートタイマー等の雇用保険被保険者でない従業員の休業に支給される「緊急雇用安定助成金」のみは242件(同13.1%)、両方の受給も529件(同28.6%)あった。


都道府県別の最多公表は愛知県の291件、300件超えも目前

 公表企業の地区別では、最多は関東の696件(構成比37.7%)。次いで、中部398件、近畿288件、九州155件、中国109件、東北87件、四国60件、北陸31件、北海道21件の順。 
 前回調査(2025年9月発表)からの増加率は、北陸が6.9%増(2件増)で最も高く、四国3.4%増(2件増)、中国2.8%増(3件増)が続く。一方、北海道は前回調査から増えなかった。
 都道府県別では、最多が愛知の291件。愛知1県で地区別3位の近畿288件を上回り、300件を超えるか注目される。東京231件、大阪179件、神奈川147件が続き、4都府県が100件を超える。
 このほか、千葉89件、福岡69件、栃木67件、広島62件、埼玉53件、京都49件、宮城48件、三重42件、新潟39件、愛媛34件、群馬33件、茨城31件の順。一方、最少は香川の1件で、次いで山形2件、岩手と島根が各3件の順で少ない。

※ 各都道府県の労働局が公表した所在地に基づいて集計しており、本社所在地と異なる場合がある。


飲食業が唯一200社超、生活関連サービス業他も100件超

 雇調金等の不正受給が公表された1,845件のうち、TSRの企業情報データベースで分析可能な1,415社(個人企業を含む)を対象に、産業別と業種別に集計した。
 産業別では、サービス業他の644社(構成比45.5%)が最多で、ほぼ半数を占める。次いで、建設業192社(同13.5%)が続き、200社に迫る。このほか、製造業154社(同10.8%)、運輸業102社(同7.2%)、小売業94社(同6.6%)、卸売業87社(同6.1%)の順で並ぶ。
 細分化した業種別では、「飲食業」が205社(同14.4%)で最も多く、唯一200社を超える。次いで、「建設業」192社(同13.5%)、人材派遣や業務請負などの「他のサービス業」135社(同9.5%)、旅行業や美容業などの「生活関連サービス業,娯楽業」111社(同7.8%)、「運輸業」102社(同7.2%)が続き、5業種が100社を超える。対面型ビジネスや労働集約型産業に多い傾向がみられる。

コロナ禍以降に創業した業歴5年未満も1割

 雇調金等の不正受給が公表された企業のうち、公表時点の業歴が判明した1,408社では、10年以上50年未満が672社(構成比47.7%)とほぼ半数だった。
 次いで、5年以上10年未満386社(同27.4%)、5年未満と50年以上100年未満が各162社(同11.5%)で続く。10年未満の合計は548社(同38.9%)と約4割を占める。一方、業歴100年以上の老舗企業も26社が公表されている。
 雇調金特例措置が始まった2020年4月以降の起業は89社で、前回調査から3社増加した。

公表企業の倒産は122件、倒産発生率は6.61%

 不正受給が公表された企業のうち、2025年10月までに確認できた倒産は122件に達した。公表された1,845件の6.61%にあたり、9月の調査から0.17ポイント上昇した。TSRがまとめた2024年度全国企業倒産の発生率は0.28%で、不正受給が公表された企業の倒産発生率は非常に高い。
 倒産した122件のうち、公表日当日や公表後の倒産は81件(構成比66.3%)だった。不正受給の発覚で取引先から警戒されて信用を失い、破たんに追い込まれている。


 コロナ禍の雇調金支給は、休業や時短営業、取引縮小など業況悪化に見舞われた企業で働く従業員の雇用維持に一定の役割を果たした。だが、迅速な支給を目的に手続きを簡略化した特例措置の隙を突き、制度を悪用した不正受給も頻発した。厚生労働省によると、非公表企業を含む不正受給は2025年9月末で4,434件、支給決定取消金額は約1,097億円に及び、そのうち250億円余りが未回収となっている。
 雇調金等は、事業主が負担する雇用保険料を積み立てた「雇用安定資金」を財源としている。しかし、コロナ禍では6兆円を上回る雇調金支給を実施するため、労働者負担分の雇用保険会計からの借入や国の一般会計からの繰り入れにより財源を補った。そのため、国民負担に支えられた側面が強く、社会保障制度の公平性を鑑みて不正受給の返還は必至だ。
 不正受給の公表後も助成金返還が進まない企業には厳しい対応が求められるだけに、公表後の動向から目が離せない。

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