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資産価値に注目した「承継支援」と「廃業支援」  ~ 新生青山パートナーズ インタビュー ~

 2024年(1-12月)の「後継者難」倒産(※1)は463件(前年比7.6%増)に達し、5年連続で過去最多を更新した。また、社長の平均年齢は63.59歳(前年63.35歳)に上昇、調査開始の2009年以降で最高となった。高齢化が進むなか、事業承継は避けて通れない。だが、必ずしも財務内容や事業運営が良好で、M&A対象になる企業ばかりではない。
 こうしたなか、企業の「資産価値」に着目し、事業承継を念頭にした投資を手掛ける新生青山パートナーズ(株)(TSRコード:016945018、以下SAP)が注目されている。
 東京商工リサーチ(TSR)は、事業の概要や事例、設立背景などをSAPの代表と、事業承継や廃業支援で実際に代表取締役に就任した2名に話を聞いた。

※1 後継者不在が一因の倒産

インタビュー出席者は以下の通り。

 新生青山パートナーズ(株)
  ・田中慎也氏(代表取締役、兼SBI新生銀行事業承継金融部営業推進役)
  ・島根伸治氏(代表取締役、兼青山財産ネットワークス上席執行役員 事業承継アドバイザリー・ファンド事業部長)
 (株)スドー
  ・戸田望水氏(代表取締役)
 建材メーカー
  ・橋本光裕氏(代表取締役)

―SAPの概要は

(田中)2016年1月にSBI新生銀行と(株)青山財産ネットワークス(TSRコード: 292852754、東証スタンダード)との合弁で設立された。もともと、SBI新生銀行は不良債権投資や事業再生などに取り組んできた。そのなかで培った事業再生の知見を活かし、バイアウト取引ができないか検討した。そして、銀行法や会計上の制約があることから青山財産ネットワークスと共同投資形態を取ることとした。
(島根)青山財産ネットワークスは財産コンサルタントとして事業承継や転廃業のコンサルティングを行っていたが、SAP設立によりバイアウトのメニューを加えた。
 一般的に、低収益や赤字の企業は買い手が少なくM&Aが難しいことが多い。SAPは事業価値ではなく資産価値に依拠することで、この領域の取組が可能となる。特に、廃業を前提とした取り組みにも対応することができる点が強みだ。苦労されている経営者の肩の荷を下ろして貰うことができ、社会的意義は大きいと考えている。
 

―ペット用品輸入販売の事業再生を支援したと聞く

(田中)創業70年のペット用品メーカーの(株)スドー(TSRコード:400612046)について、2年前に創業二代目の前代表者から事業承継の相談があった。赤字が続いていたが、会社に資産があるうちに株式と経営を譲りたいと考えてのことだった。
(島根)SAPの投資は、すべて被買収企業の現地マネジメントに経営を任せる手法の「ハンズオフ」で行う。今回の事業承継は、事業再生の知見が深い戸田氏に代表に就任して頂いた。投資後、遊休不動産等非事業用の資産の換価等がうまく進んだことから投資回収は順調に進んだ。また、並行して戸田氏による経営改善が進み黒字転換を達成されたことからSAPの役目は終えたと判断し、先般戸田氏のマネジメント・バイアウト(MBO)により投資終了とした。今後は引続き戸田氏の下、次のステージで飛躍されることを望んでいる。


田中社長(左)、島根社長(ともにSAP)

田中社長(左)、島根社長(ともにSAP)



―就任の経緯、スドーで実施したことは

(戸田)業績悪化で事業承継を模索していると聞き、SAPから打診され引き受けた。長年、経営コンサルティングを手掛け、事業再生案件なども多数経験した知見を活かせると考え、代表取締役に就任した。ペット用品業界はニッチな産業で、スドーは売上高の規模としては中堅にあたるが、上手く事業を回していくことが出来れば勝ち筋があると考えた。
 就任後、まず手掛けたのは徹底したIT化だ。社内組織が硬直化しており、網羅的な情報共有がされておらず、業務が属人化していた。現在はシステム導入が進み、リアルタイムで受注や出荷などの情報を把握できる体制が構築できた。結果、顧客の問合せや様々な要望に対して、迅速な対応と解決・提案ができるようになった。社内のコミュニケーションに関しても、Web会議やチャットツールを浸透させ、IT環境を整えた。これまで34名の体制であったが、構造転換を進め、現在は22名で運営できる体制になった。効率化と固定費の削減により、黒字に転換した。
 黒字化に伴いSAPがエグジット(EXIT)を検討することになった。自身としてはもっと上昇できると十分に感触を持っていたことと、資金調達も可能と考えたことからSAPにMBOを提案、協議の結果実施した。

―スドーの今後の展望は

(戸田)目先としては、コロナ期以後、新商品の開発がうまくできていなかったが、今般この体制も整ったことから、反転攻勢でどんどん開発を進めていきたい。少し先の展望として、今後はホールディングス体制を取り、M&Aでの買収を進め、水平・垂直の両方向で事業領域拡大を模索していきたい。
 

―廃業支援の実績は

(田中)建材メーカーの例がある。かつては事業が好調であったが、長らく減収が続いており近時、原材料や人件費の高騰などで採算が悪化し、赤字が常態化していた。M&Aを検討するも、業績不振が続いていたことから買い手が見つからず、SAPに相談があった。
 資産価値と赤字の関係から、先述の事案のように投資後に事業再生を模索する時間の余裕がないと判断、廃業を前提とした買収提案を行った。デューデリジェンスと平行して、円滑に廃業をできるように、事業停止や資産処分、従業員の再就職支援など一連の計画を策定した。その他、SAPは株主として廃業を実行する経営陣の側面支援することとし、廃業の実務については、事業再生等の経営経験が豊富な橋本氏を代表に選任、前社長と協力して遂行していただくこととした。
 新旧社長の尽力により円滑に事業停止や従業員退職、資産換価処分も終了した。現在通常清算の手続を行っており、SAPは清算配当を受領して投資終了となる見込である。
(島根)多くの経営者は事業が赤字に陥っても、事業を継続させようとすることが圧倒的に多い。だが、本件は前社長が早期に廃業を決断したことにより、円滑に廃業支援を進める事ができた。もし、決断ができず、赤字の資金流出が続けば同じ対応はできなかったと思われることから、見事な決断であったと考える。また、前社長には、廃業がひと段落ついた段階でご退任いただいているが、現在セカンドライフを満喫しているとのことだ。

―就任の経緯、実施したことは

(橋本)私は、銀行や事業会社に長年勤め、現在はコンサルタントとして独立している。SAPに声をかけて頂き、今までのM&Aや事業再生の知見が活かせると感じ、本件に参画した。廃業について社内外のアナウンスは前社長が実施し、その後の従業員への個別の説明はじめ廃業全般の実務に関しては私が主導して進めた。従業員には割増退職金を支給し、希望者には会社の費用負担で外部の再就職支援サービスを実施することとした。
 従業員にしてみれば、廃業が完了するまでの当面の間は雇用が約束されること、さらには大手の人材会社の再就職支援サービスが受けられることで、安心感が広がり大きなトラブルは発生しなかった。

―廃業ならではの苦労もあったのでは

(橋本)廃業は一見簡単そうにみえるが、実は経験がない方にとっては非常に難しい。顧客対応も従業員対応も一つやり方を間違えると、大変なことになる可能性がある。本件では、工場が区画整理地にある不動産で一部が借地になっており、素人では処理が難しい事も多かった。SAPは廃業に精通していることから事前に問題点がよく検討されており、結果、計画通りにソフトランディングさせることができた。


 
戸田社長(左)、橋本社長

戸田社長(左)、橋本社長



―SAPの今後の展望は

(田中)現在は首都圏を中心に展開しているが、地方にも需要はあると考えている。地銀などとも連携し、顧客のニーズに対して問題解決する仕組みを構築したい。
(島根)実績として、14社中、12社の投資が完了した。12社のうち、9社は赤字から黒字への転換や、B/Sをスリム化すること等により再譲渡を実現し、事業継続という顧客の希望に沿う事が出来た。
 残り3社も意向に合わせ、円滑な廃業支援を実施した。この取り組みを通じ、社会全体の生産性を向上させることに寄与したい。



 SAPは企業の資産価値に着目し、独自の目線で事業承継の取り組みを進めている。良質な不動産や過去の利益の蓄積などで資産価値は優良でも、足元は業績不振が長引き赤字や資金流出が続いている企業は少なくない。
 廃業も視野に入れた事業承継は、悩める中小企業の新たな選択肢になる。SAPが今後、実績をどう積み上げるか注目される。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年12月5日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)


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