• TSRデータインサイト

Xアイコン
facebookアイコン

【社長が事業をやめる時】 ~消えるクリーニング店、コスト高で途絶えた白い蒸気~

 クリーニング店は、どこか懐かしい気持ちを呼び起こさせる。ふわりと香る洗いたての匂いがそうさせるのか。共働き世帯や仕事や育児に追われる世帯には心強い存在でもある。しかし、厚生労働省によると、全国のクリーニング店は2023年度で7万670店、2004年度以降の20年間で5割以上減少した。
 この現実を突きつけられるようなクリーニング店の倒産を聞きつけ、現地へ向かった。



 3階建ての本社家屋は閉鎖されていた。入口には破産の告示書が貼られ、その横には「30日をもって閉店といたします。長い間ありがとうございました」と、お客さんへの感謝を伝える紙が貼られていた。
 創業から半世紀以上、地元に住む人たちに寄り添い、一時は複数の店舗を展開した。各店舗で預かった衣類を本社工場でクリーニングし、1990年代後半には2億円近い年商をあげた。だが、クリーニング需要が落ち込み、年々経営が厳しさを増す中で、コロナ禍に見舞われた。一段と利用者の減少に拍車がかかり、年商はピーク時の3割にまで落ち込んだ。次第に採算も合わなくなり、2024年末に店舗を閉鎖、翌年に破産を申請した。
 向かいの商店の店主に話を聞いた。すると、「商店街の組合などでも特に交流はないが、昔からあるので印象は残っていた。営業していた時は屋上の煙突から白い煙がモクモク立ち昇っていた」と思い出しながら語ってくれた。
 クリーニング洗剤などを納品していた業者は、「少なくとも約10年取引があったが、2024年夏に注文がなくなり異変を感じた」という。また、同業のクリーニング業者もおよそ10年の付き合いがあり、破産した店が扱うことが難しかった着物や皮革製品を代わってクリーニングしていたという。
 
 この業者は、クリーニング業界の現状についてこう語る。
 「光熱費や人件費の高騰が直面している最大の課題だ。ここ数年は電気代やガス代が月ごとにじわじわと膨らみ、従業員の処遇改善にも対応しなければならない。おそらく、あの会社も同じように急激に変化する時代の流れに取り残されていったのではないだろうか。昔から地域で親しまれたお店だが、宅配クリーニングや大手チェーンとの競争も加わり、時流に適応するのは想像以上に難しかったと思う。私たちも決して他人事ではなく、同業者として胸が痛む出来事だ」



 半世紀以上に渡り、ボイラーの煙突からゆらりと立ち昇っていた白い蒸気。もう立ち昇ることはない。時代の流れとは言え、取り残された風情がもの悲しい。

Xアイコン
facebookアイコン

人気記事ランキング

ランキング1位
  • TSRデータインサイト

三井住友銀行の「メインバンク取引社数」増加 ~ メガバンクで唯一増加、新設・中小企業向け脚光 ~

東京商工リサーチ(TSR)がまとめた「2026年メインバンク調査」で、三井住友銀行がメガバンクで唯一、社数が増加した。他に先駆けてデジタル総合金融サービスをリリースし、取引社数の増加につなげた。

2

  • TSRデータインサイト

「テレビ番組制作会社」の倒産 過去最多タイ コスト上昇と番組制作の予算削減で苦境

2026年1-8月のテレビ番組制作会社の倒産は14件で、同期間では最多の2010年に並んだ。このペースで推移すると、年間では2009年と2012年の21件を抜き、過去最多を更新する可能性が高まっている。

3

  • TSRデータインサイト

「一人で悩まず、まずは早めの相談を」 ~ 中小企業活性化全国本部 インタビュー ~

中小企業の伴走者として、中小企業活性化協議会の存在感が高まっている。 東京商工リサーチは、全国47都道府県の活性協を支援する中小企業活性化全国本部にインタビュー。再生支援の現場経験も豊富な松田正義氏、佐藤友泰氏、茂木俊裕氏の3名から話を聞いた

4

  • TSRデータインサイト

2026年1-8月の「税金滞納」倒産181件、前年超える 税金滞納が事業再建の障壁、破産が97.7%を占める

2026年8月の「税金滞納(社会保険を含む)」倒産は、26件(前年同月比73.3%増)と大幅に増加、4月から5カ月連続で前年同月を上回った。1-8月累計は181件(前年同期比58.7%増)に達し、8月で前年の年間160件を上回り、納税(納付)に苦慮する企業が多いことを示している。

5

  • TSRデータインサイト

倒産前の「事業譲渡」 コロナ後に高水準 2025年度は213件、旅館,ホテルが最多

主力事業を他社に譲渡した後、倒産手続きに入る「事業譲渡後の倒産」が、2025年度は213件発生した。2024年度は227件で、2年間の平均は220件となり、前回調査(2019年度-2023年度)の同189件を上回り、増勢が続いていることがわかった。

TOPへ