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コロナ禍で注目の「私的整理」、公平性がカギ

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公開日付:2021.08.17

 長引くコロナ禍で「過剰債務」の問題が浮上している。そうしたなか、金融機関などと事前調整し、倒産手続きを取らずに再生を目指す「私的整理」が注目を集めている。
 倒産による事業価値の棄損や地域経済への悪影響を避けるため、私的整理の重要性は増している。ただ、透明性の高い私的整理と安易な私的整理が「新型コロナ」に隠れ、混在し、区別が付きにくくなっている。
 事業再生ADRや中小企業再生支援協議会など、一定の公平な枠組みが担保される私的整理とは別に、会社独自の私的整理を推し進めようとしてトラブルも発生している。「私的整理」という言葉の曖昧さも背景にあるようだ。
 手厚いコロナ関連支援で、倒産件数は低水準だが、事業再編や再構築が進まない企業は水面下で増えている。私的整理は原則公表されず、安易な私的整理がモラルハザードを引き起こしている。


 倒産が急増した2001年。過剰債務などで自力再建が困難な企業を対象に、法的整理による事業価値の毀損を避けるため「私的整理に関するガイドライン」が作成された。
 ガイドラインは、私的整理の全部を対象とはせず、債権者と債務者の双方が経済的に合理性のある場合のみに限定している。
 対象条件の債務者が、主要債権者にガイドラインによる私的整理を申し出ることで私的整理が開始される。事業再建計画案を作成し、3年以内に債務超過の解消や黒字転換することなどに加え、破産や民事再生法など法的整理よりも債権回収の増加が期待できることも必要だ(例外あり)。再建計画案が債権者全員の同意が得られない場合、ガイドラインによる私的整理は終了し、法的整理に移行することもある。

事業再生ADRや支援協など公的再生スキーム

 私的整理の一つの事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)は、中立な専門家が債務者と債権者の間に入り、調整することが特徴だ。
 当事者間の私的整理とは違い、第三者が関与することで公平性も高い。さらに法的整理では上場廃止に繋がるが、事業再生ADRは上場を維持できる。しかも、倒産と異なり申請後も開示されない(例外あり)。
 最近では今年3月、新型コロナの影響を受けたブライダル大手のワタベウェディング(株)(TSR企業コード:641093977、東証1部)が申請し、受理されている。
 中小企業の再生に向けた支援スキームには、中小企業再生支援協議会(支援協)もある。各都道府県にある支援協に相談し、再生計画策定の支援を受けられる。国が設置する機関が間に入ることで、金融機関など債権者との調整が進みやすいのが特徴だ。ただ、事業再生ADRでも、支援協に駆け込んでも、すべての私的整理が可能とは限らない。金融機関が納得する再生計画を策定できないと、調整が難航し、法的整理に移行するケースもある。

私的整理が実らず倒産

 婦人服販売の(株)コイケ(TSR企業コード:400660636、名古屋市)は今年5月、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債は72億円だった。
 消費低迷などで業績が厳しかったところに新型コロナがとどめを刺し、資金繰りが悪化した。債権者説明会で会社側は「私的整理という選択肢もあるが、全金融機関の同意を取り付けるには時間が足りない」と説明した。
 水晶デバイス製品製造の九州電通(株)(TSR企業コード920064574、長崎県)は6月9日、負債約34億円を抱えて東京地裁に民事再生法の適用を申請した。海外生産への投資負担や新規事業の失敗など経営が悪化し、支援協スキームでの私的整理による再建を目指していた。しかし、スポンサー探しが奏功せず、再生計画案の策定をいったん中断。暫定リスケによる再生計画の立案を進めていた。だが、一部の金融債権者の協力が得られず、破産を申し立てられた。

当事者間の私的整理でトラブルも

 ある上場会社の子会社が、休眠に伴う会社独自の私的整理案を債権者に提示した。子会社は飲食店を展開していたが、上場親会社の支援が限界に達したという。しかし、私的整理のやり方が稚拙だった。債権者集会の通知に同封する形で、債権者にいきなり「債権放棄」を求めた。さらに、集会では不適切なリース契約も発覚した。ある債権者は「上場会社の子会社が、こんな安易な私的整理を強行しようとするのは不誠実だ」と絶句する。
 この子会社は、その後、多重リースの存在を認めて破産に追い込まれた。

コロナ禍の貸付条件の変更はほぼ100%

 リーマン・ショックの影響緩和のため、金融機関に返済条件の変更に極力応じるよう求めた中小企業金融円滑化法がある。2013年3月に終了したが、その後も同法の精神は生き続け、支援は継続された。
 2020年3月、金融庁はコロナの影響を重く見て、中小企業金融円滑化法の枠組みを事実上復活させた。
 金融庁によると、2020年3月10日から2021年6月末までの銀行による中小企業の貸付条件の変更等は、実行が約50万件、申し出を断る「謝絶」はわずか約5000件。実に99.0%が貸付条件を変更できた計算だ。
 ある上場会社の関連会社は、借入金返済の2年近いリスケを金融機関に要請した。債権者の1人は「確かにコロナの影響を受けているが、上場の関連会社が簡単に2年間もリスケを要請することにびっくりした」と、リスケ利用に驚きを隠さない。
 別の未上場の大手サービス業は、半年など期間を決めたリスケを要請したが、一向に業績は改善せず、リスケを繰り返し、もうすぐ1年を経過する。取引先は「コロナの影響で、借入金の約定返済は難しいだろう。ただ、甘い再建計画でずるずると再リスケが常態化するなどモラルハザードを感じる」と語る。

 私的整理やリスケ、取引先による支払猶予などは原則非公開だ。だが、法的倒産による事業価値の毀損や根保証に伴う代表者個人の破産を恐れ、無理して事業を続け、傷口を広げるケースもある。
 透明性が高く、債権者に公平な再建計画が策定された私的整理で事業再生が可能なら、利害関係者はWin-Winになる。万が一、法的手続きに移行した場合も、事前調整が進んでいれば再建スピードが早まるメリットもある。
 取引先に迷惑をかけないように最後まで事業継続に奔走する経営者がいる一方、コロナの影響を錦の御旗にして安易な私的整理やリスケを求めるケースも目立つ。
 新型コロナ破たんは8月中にも累計2000件に到達する見通しで、先行きの不透明感は増している。不公平・不誠実な「私的整理」がはびこると、私的整理のイメージ低下に繋がりかねない。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年8月18日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

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