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経産省に聞く!産業競争力強化法の改正と「事業再生ADR」

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公開日付:2021.03.16

 2021年2月、産業競争力強化法等(以下、強化法)改正案が閣議決定された。開会中の通常国会での審議・成立が見込まれている。脱炭素やDX(デジタルトランスフォーメーション)に関わる投資への税制優遇、リモートでの株主総会の容認など、コロナ禍で落ち込む経済を構造変化の面から支援する。
 改正案には、コロナ後を見据えた事業環境の整備として、「事業再生ADR(私的整理)から簡易再生(法的整理)への移行円滑化」が打ち出された。これは与信枠の設定など審査実務に影響する部分も大きい。東京商工リサーチ(TSR)は、事業再生ADR(以下、ADR)を所管する経済産業省経済産業政策局の金指壽産業創造課長に、改正の狙いなどを聞いた。


―強化法の改正案が閣議決定された

 事業再生の面では、ADRと再生支援協議会の部分を改正する。ADRでは、すでにプレDIPファイナンス(つなぎ資金融資)と商取引債権の優先弁済の予見性向上を規定しているが、金融機関(債権者)のADR手続き参加の努力義務を加えた上で、これに簡易再生(注1)への移行円滑化を追加する。ADRが不調に終わって簡易再生に移行しようとする場合、ADR手続きの中で債権者の5分の3以上(金額ベース)が同意した再生計画案を裁判所は考慮(注2)して開始決定を判断する規定を設ける。簡易再生へ移行しても、短期間でそのままの再生計画が成立する可能性が高まる。

  • 注1民事再生手続きで、債権調査などを省略できる制度
  • 注2事業再生実務家協会が債権カットの必要性を確認した場合に限る

―ADR手続きが不調となり法的手続きに移行しても、合意される再生計画は同一だと「ADRの方がいい」との判断に繋がる

 再生計画に反対する金融機関には、5分の3が賛成している事実を改めて認識いただくことに繋がるだろう。これまでのADR手続きの中で、少数の方がずっと反対し続けるケースは少ない。例えば、金融機関の中で他の貸付先と比較して、別の貸付先の方がADRの支援対象企業よりも厳しい状況に置かれているにも関わらず、例えばリスケ等で対応されているのに、ADRの支援対象企業が債権放棄や債権減額だと行内バランスが取れないとの話を耳にすることはある。
 ただ、ADRの支援の枠組みの中では、支援対象者の債権者全体の中での比較考慮という観点から、5分の3が同意している事実を再認識、再考慮していただけるような仕掛けだ。
 私的整理は原則非公開だが、法的整理は公表され、事業価値の毀損が拡大する恐れがある。金融機関の中で、行内の他の貸付先との関係で賛成しにくい場合でも、大多数(5分の3以上)の債権者が再生計画に賛成している中で法的整理に移行すれば、事業価値に影響が及んで弁済率が更に下がる恐れがあると行内で説明できるなどの効果はあるだろう。

経産省

‌「産業競争力強化法等」改正案要旨(経産省の資料より)

―「簡易再生手続きへの移行円滑化」が説明資料に記載されているが、ADR成立率(注3)の向上が目的のように思える

 すでに優先弁済の予見性向上が規定されている「プレDIPファイナンス」と「商取引債権の保護」、今回の「実質的な多数決(5分の3)の導入」は事業再生の実効性を高めることが主眼だ。(説明資料の)書きぶりは「移行円滑化」だが、法的整理への早期移行を後押ししている訳ではない。ADRプロセスで、関係者がより再生へ取り組みやすいような環境を今回の規定で作りたい。

  • 注3正式受理後の再生計画案成立率は86%(09-17年)

―多数決によるADR成立は過去にも検討されてきた

 2014-15年に商事法務研究会が事務局の検討会(注4)で議論されてきた経緯がある。その時はむしろ、商取引債権の優先弁済が議論され、その後、規定が導入された。当時も簡易再生を意識した制度設計があるのではないか、との議論があった。多数決による成立の導入は、憲法上の制約も含めて引き続き議論が必要と認識している。ADRは裁判外での事業再生。強化法で規定しており、その中で多数決という憲法の基本的な権利を制約する規定を設けるのは相当ハードルが高い。こうしたことも踏まえ、今回の改正案では、ADRの範囲内で実態上の効果を高めるための仕組みを考えた。

  • 注4経産省はオブザーバー参加

―強化法の改正は、コロナ後の「新たな日常への対応」の文脈で説明されている

 コロナはターニングポイントだ。ウィズ・アフターコロナを意識し、これに対応するためには、事業を変えていくことも必要だ。今回の改正案では、「グリーン」、「デジタル」分野での投資促進税制等に加え、「バーチャルオンリー株主総会」の実現など規制改革の推進、ベンチャー企業の成長支援、事業再編の推進も規定している。一方、事業を変えていく中で今までの本業をターンアラウンド(事業再生)しなければならないフェーズも出てくる。ウィズ・アフターコロナに対応するために、事業・ビジネスモデルの変革をどう進めるか。TSRの集計をみても足元の倒産件数は減っているが、昨年から実施している(コロナ禍での)資金繰り支援、資本性劣後ローンなどが下支えしている部分も大きい。他方でコロナ禍の出口は、まだ見えていない。今回の改正が、事業再生を円滑化させる「転ばぬ先の杖」として機能することを期待している。

―ADRが対象とする「抜本再生」を後押ししないといけない企業が増えているとの認識か

 定量的に事業再生案件が増えている状況ではない。昨年からの経済対策も相当に機能していると認識している。今回の法改正にあたって、再生実務家や金融機関からも話を聞いたが、「今後の見通しを示すのは、非常に難しい」という方がほとんどだった。「政府の資金繰り支援、資本性劣後ローンは(破たん回避に)明らかに効いているが、それがいつまで続けられるかも含めて、再生支援としてできる制度的な手当は、やっておいた方が安全だ」との意見だった。

―リーマン・ショックと比較した場合の現状の認識は

 金融機関のエクスポージャー(貸付額)は増えているので、その意味ではリスクが上がっているとも言える。(コロナ禍で)事業環境が見通しにくく、事業者も金融機関も不安定な状況に置かれている。それでも事業者サイドは現預金を含め体力が諸外国よりあり、金融機関も現時点で切羽詰まっている状況にはない。そうした点がリーマン・ショックの状況とは異なっている。ただ、コロナ後も消費者ニーズが元に戻るということはなく、事業・ビジネスモデルを変革させる必要性は、今回の方が高い。

―コロナ禍の収束まで返済猶予の継続を求める声がある。ADRの利用への影響は

 事業性をどうみるか。例えば、飲食業などは厳しい状況が継続しているが、そうした中でも事業転換を始めているところはある。店舗のロケーション(所在地)をオフィス街よりも持ち帰りを念頭に住宅地へ移転する。また、メニューもどう変更するか、それに合わせて仕入も変え、例えば、これまでの店舗単位での調理を持ち帰り(への業態転換)を意識したセントラルキッチン化するなど。そういう具体的なものがあれば事業性は評価しやすい。経産省としては、事業者の事業性をいかに高めるのか、中小企業も含め、事業転換、事業再構築支援に注力していきたい。

―今後のスケジュールは

 2月に改正案が閣議決定された。これから国会で審議される。事業再生の部分は、公布から3カ月以内で施行となる。国会の審議日程なので、具体的なスケジュール感を申し上げる立場にないが、過去の審議の状況などを見ると、6月、7月頃に新しい制度となると想定して、準備を進めている。

―ADR部分で、さらなる改正はあり得るのか

 強化法で出来ることは限界に近付いたと思っている。さらに足りないところがある、との具体的なニーズがあれば、もちろん考えたいが、ADRとして出来ることはやり尽くした感がある。今回の改正案を補足すると、ADRの手続き実施者が法的整理へ移行後に監督委員として選任されることの予見性向上のための規定も措置されている。私的整理と法的整理のシームレス化のために、一定の効果があるものと考えている。

経産省

‌インタビューに応じる経産省・金指産業創造課長

―読者にメッセージを

 繰り返しになるかもしれないが、昨年1月からコロナ禍が始まった。昨年4月に大規模な経済対策を措置したが、その時は「持続化」がキーワードだった。今回(2020年度第3次)の補正予算では、「事業転換、事業適応」という「ウィズ・アフターコロナ」の意識が必要との認識から政策の大きな機軸も変わってきている。民間の方でも、厳しい状況が続いている中ではあるが、そうした取り組みが大事だと思っている。
 それでもなお難しい時に再生の私的整理のスキームも用意している。私的整理の良さを認識いただいて、ADRを利用いただきたい。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年3月16日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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