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【独自取材】原状回復に300万円、大家さんの怒り

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公開日付:2020.03.04

 「滞納家賃は保証金でなんとか相殺できるかもしれないが、こんなに清掃費用がかかるなんて、無責任甚だしい!」
 都内でオフィスビルを所有する80代の大家は東京商工リサーチ(TSR)の取材に、憤りをぶつけた。


化粧品の通販を手掛けていたA社

 富裕層が集う都内有数の商店街にある手入れの行き届いた7階建てのオフィスビル。ここに化粧品の通信販売会社A社が入居していた。ただ、A社は2月に入り、関連企業のB社とともに東京地裁へ破産を申請した。
 負債は滞納した税金を中心に、10億円以上にのぼる。当然、ビルの賃料も滞納していた。大家が負担する清掃費用は、見積段階で300万円に達する。大家は無責任な社長とA社を相手取り、訴訟も視野に入れている。
 A社の社長は、2012年に代表を兼務するB社名義でこのビルに入居した。それから5年ほどはA社の経営も順調だったようで、社長は週に何度かビルに足を運び、「何時間かパソコンで何かをやって帰る」日々が続いた。
 「2018年に入ったばかり」の頃、社長が4、5人ほどの社員とおぼしき女性たちを引き連れてビルにやってきた。
 「これから社員も出社するからビルのカギを作ってほしい」と大家に要望した。当時は詳しい説明をされなかったが、社長が大家に紹介した女性は、ビルを借りているB社の社員ではなく、賃貸契約を交わしていないA社の社員だった。何カ月も経って、配送する品物の送り状でこのことに気付いたという。賃貸した部屋はB社ではなく、A社の事務所として使われていたのだ。

溢れる商品

 女性たちがきてから、これまで別のビルでA社が手掛けていた通信販売事業が本格化した。
 「配送施設は別に借りており、発送業務はしない」と説明を受けていたが、気付けば「1階の共用ロビーに個人客向けの商品が山積みになっていた」と大家は振り返る。社長は「頑としてA社の仕事をこのビルでやっていることを認めなかった」という。
 さらに、社長は運送業者を絶対にオフィスのフロアに上げなかった。毎日、代わる代わる複数の運送業者がビルを訪れる。各フロアはテナントが入り満室だったこともあり、「他の入居者の邪魔になるからやめてくれと言っても彼(A社社長)は聞く耳を持たなかった」。
 大家の目には、A社が運営する通販事業に不可解な点が映っていた。ビルから送られる荷物は、大きさや重さもさまざま。たまたま目にした荷主の住所や名義はA社でなく、別の企業名が記されていた。
 「こちらの住所を書く項目に、銀座だったり千葉だったり、ここと全く違う。どんな商売をしているのだろうと少し怖かった」と振り返る。
 こうしてA社が実質的に移転してから1年が過ぎた頃、銀行員がビルを訪れた。話を聞くと、銀行はA社への融資をストップするという。さらに、2019年6月には税務署の職員も大家を訪ねてきた。A社、B社ともに多額の税金を滞納し、入居時にB社名義で払った約100万円の敷金を差し押さえると告げられた。
 ここで大家は、A社について「とうとう終わりだな」と思ったと述懐する。そこから夏にかけ、A社の経営状態は「目に見えて悪くなっていった」。
 納品代金をいつまで経っても支払わない社長に腹を立てた取引先の社員らが怒鳴り込み、大手運送会社は未払いが続いて荷物の集荷を断わり、事業の行き詰まりは傍から見ても明らかだった。

家賃の支払いもストップ

 10月に入ると家賃の入金が止まった。大家が社長と最後に会ったのは、その1カ月後。「よその町にオフィスを移転して仕事すると言ったきり、姿を見せなくなった」という。
 オフィスは、社長が立ち去ったままの状態で残された。大家は「すぐA社に弁護士が介入したので荷物を移動させてくれるかと思ったが、年明けの2月までこの状態が続いた」と怒りをぶつけた。
 2020年2月、A社とB社が破産を申請し、開始決定が下りた。
 裁判所の決定が出るまでA社とB社が入居するビルの部屋は、そのままの状態だった。
 破産後に荷物を運び出すことになったが、搬出費用はすべて大家が負担した。
 「リースのコピー機やパソコン類はそのまま。リース会社に連絡し、在庫の化粧品やサプリメントの入った段ボールを運び出したり大変だった」と苦い表情で振り返る。
 荷物は他のテナントに迷惑にならないように土日を利用し4回に分けて運搬した。3台のトラックで荷物を運び、処理費用も膨れ上がった。カーペットの汚れも目立ち、床の張替えなど清掃費用もかさむ。
 「見積もりを取ると300万円近い金額。引っ越しシーズンも重なり、費用はさらに増すかもしれない」と肩を落とす。
 「事業に失敗し、そのせいで1カ月家賃が未払いになった、そこには同情の余地もある。だが、3カ月以上も一切荷物を運び出さず、放置して去る無責任さは経営者としてありえない」と憤る。
 300万円にのぼる費用は、到底保証金では賄えない。未払い家賃も敷金で相殺できるかどうか。踏んだり蹴ったりの忸怩たる思いだ。

社長同士の会話

 A社とB社の“社長”はどういう人物なのか。A社の経営悪化が明らかになった頃、大家は“社長”と2人きりで話したことがある。その時のエピソードを訥々と語りだした。
 大家自身も建築会社の代表を務める立場にあり、“社長”に自らの経験を交えて語りかけた。「もう、今の事業をあきらめ、一回リセットしてみたらどうか」と提案したことがあった。だが、“社長”は考えるそぶりを見せるどころか、こう言って退けた。
 「原価200円ぐらいの化粧品のセットが3000円にも5000円にもなる。大家さん、これは儲かる仕事なんですよ」。
 そこには購入する客や取り扱う商品への責任感や愛着は、一切感じられなかった。
 大手運送業者が数十万にのぼる未払金を社長のもとへ徴収に行ったときのこと。低頭平身で「なんとか支払ってほしい」と懇願する業者を社長は自らの非を詫びるどころか大声で罵倒し追い返したという。
 「商品の苦情の電話には、懇切丁寧なふりをして商品の継続をお願いする一方で、取引先には横柄な態度を取っていた。そういう人間は、手を変えて何度商売に臨んでも成功しないだろう」。
 長年、入居企業の移り変わりを見てきた大家は、冷静な顔でつぶやいた。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年3月5日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

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