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「観光立国、地域間格差の是正から」星野リゾート・星野佳路代表 独占インタビュー(後編)

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公開日付:2020.02.27

1月、ハワイにホテル「サーフジャックハワイ」をオープンした。海外に拠点を広げる理由は

 長期的に国内需要が減少していくことに対するリスクヘッジで、新しい成長分野を模索するという目的が大きい。日本の観光消費額25~26兆円のうち、まだ80%が日本人による日本の国内観光消費だ。インバウンドは伸びたと言っても20%。インバウンドは過去10年、すごいスピードで伸び続けてきた。ただ、2014年と18年は国内需要が落ちた。このため、14年と18年はインバウンドと国内を併せたトータルの観光消費額が落ちた経緯がある。25年以降、団塊の世代が後期高齢者となったら、同様の現象がより頻繁に起こるのではないかと懸念している。
 どこまで日本国内の観光消費額だけに依存して成長できるのかを考えないといけない。外資の(ホテル)運営会社も日本に入ってきているように、当社も海外に出ていく必要がある。海外でしっかり運営し、ドルでもユーロでも収益を得る会社になる必要がある。

今後の海外展開は?

 これまで、バリ、台湾へも進出しているが、今後は北米が一番大事だと思っている。まだ場所も決まっていないが、社内で北米開発チームもできた。投資家、オーナー、そして当社が進出できる場所を選定して、3年後には「ここに行きます!」と言えるような状態にする。他の地域も(オファーを)受けていきたいと思っているが、北米はリスクをとってでも進出していかないといけない場所だ。

ライバルは

 ホテル業界でのライバルは外資系の運営会社。一番強い運営会社はアメリカに存在している。日本でも軽井沢にはマリオットが進出し、日光にはリッツカールトン、箱根にはハイアット、別府にはインターコンチネンタルが進出した。日本の地方に来る外資の運営会社は競合であると感じているので、こちらも国内で力をつけるだけではなくて、海外に出なければ勝負できない。そして彼らと互角に戦う力をつける必要がある。

従来の「星のや」に加え、近年は「OMO」、「BEB」など低価格帯の施設も話題だ

 分散とバランスが大事だ。当社は、日本人の宿泊客比率を高めようという方針。例えば、「星のや東京」(千代田区)は日本旅館だが、日本人に支持されないものは、海外でも支持されないと考えている。既存の外国からのお客様に加え、もっと日本人の目利きのお客様に利用していただき、「これは本物だ」と言っていただけることが大切だ。
 軽井沢や3月に開業予定の土浦にあるBEBは、低価格帯の宿泊料から、日本に住む若者たちの利用を通じて、将来の国内観光客を育てる重要な意義がある。

若年層への訴求策が光っているが、彼らの利用を呼び掛ける意図は

 いまの20代は、旅行参加率が落ちている。人数自体が減ってきていることや可処分所得が少ないのも背景にあるだろう。このため、これまでホテル業界は(若い世代を)あまり魅力的にみていなかった。だが、私たちは、彼らにもっと旅行してもらえる環境を整備しないといけない。その意味でも当社は、短期的な視点ではなく、彼らが30代、40代になる10~20年後を見据えて「20代の皆さんを今、旅へ連れ出す」というスタンスに舵をきった。

具体的な取り組みは

 軽井沢や土浦に展開しているBEBや都市型のOMOでは若い世代に対していろんなアプローチが出てきている。特にBEBは価格でアプローチしている。若い世代は、可処分所得が高くない。まず“価格”が彼らの商品の購買行動の重要な要素を占める。だが、今のホテル業界はイールドマネジメントが効きすぎている。繁忙期など、彼らが泊まりたいときに、当初聞いた値段とまったく違う高いプランしか出てこない。価格がシーズンや日によって大きく変わってしまう。可処分所得が高い層なら、価格が少し変わっても気にせず払うが、可処分所得に限界のある世代は価格に大変シビアだ。だから、BEBでは若い世代の価格をフィックス(固定化)した。 “エコひいきプラン”を作ってゴールデンウイークでも平日でも、若い世代向けの価格を一律にした。

1部屋3人以上で利用できるプランも多い

 たいていホテルは1部屋2人のプランがほとんどだ。当社の場合は元々リゾートを運営しているため、このようなプランにたどり着く。リゾートだと旅館にしてもスキーにしても、だいたい3~4人で行く。昔は畳の部屋で、布団を4枚敷いて寝ていた。ビジネスホテル出身の都市のホテル事業者は、ビジネスマン一人、または夫婦の利用を想定している。そこの違いだろう。
 3人で料金を割ると一人当たりの宿泊料金はかなり抑えられる。BEBでも2人組の旅行はもちろん多いが、友達同士3人や親子3人なども多い。一般的に子供連れ3人、女子旅3人は部屋を取りづらい傾向にある。3人以上のニーズに対して商品が提供できていない、という問題があった。

2018年にオープンしたBEB5軽井沢(星野リゾート提供)

2018年にオープンしたBEB5軽井沢(星野リゾート提供)

3、4人で行く“女子旅”ニーズが高まっている

 女子3人以上の旅も昔からあった記憶がある。ただそういう言葉がなかった。当時の旅行業界は大手代理店が中心の予約チャネルしかなかったから、セグメントに名前をつけてどうこう言う必要はなかった。“女子旅”のチャネル変化に合わせて広がったものだろう。90年代前半に比べ、大きい変化だ。
 今はホームページで集客する時代になり、プランも自由に設定できるようになった。ホテル・リゾート側も、よりマーケティングがしやすくなる大変革が起こっている。昔は大手代理店のパンフレットで募集するしかなく、画一的なフォーマットが決まっていた。そういう意味で、旅館側は「考えなくてよかった」。だが、逆に言うと、当時はマーケティングの必要がなかったから“考えるノウハウ”も持っていなかった。

今後“考える力”が乏しい会社は事業継続が難しくなる?

 考える力はもちろんだが、滞在の仕方、それがプランに結びついて自社のサイトで売るためには、“現場力”が重要だ。かつては、旅行代理店や経営者が考えて値付けしていた。これからは現場が考えなければならない。現場力が強い企業は、自分で発想して新しいサービスを作る。「来年の今頃は、今年がこうなったからこういうサービスを入れよう」、「このプランを出してみたら、意外に顧客の反応が良い」という企画力は現場で生まれている。その差は、今後ますます大きくなっていくとみている。

現場力とは

 当社は現場力のため人材と情報を提供する。経営情報や満足度情報を提供するほか、フラットな組織にして、自分たちで自由に発想・議論して、決める権限を現場に渡す。従来からある“トップダウンのピラミッド組織”から、フラットな組織へ。現地の権限を強めた、力を発揮できる環境を整える。これは私が海外に勉強に出た80~90年代から言われている。フラットな組織文化こそが、サービス業の環境に重要であるということ。また、現場の一人ひとりの力、接客の際に考える力をアイデアに生かすこと、これを忠実に実行してきた。
 また、興味ない人に無理やり教えることは、非効率。研修制度は充実しているが、どちらかというと、自主性に任せている。機会をしっかり提供することに集中している。

星野リゾートに進出してほしいという声が地方から多い。

 声は多いが、なかなか当社が力になれるところも少なく、様々な条件や優先順位で選んでいかないといけない。
 “観光立国”という言葉を政府が推進しているが、インバウンドが増えたり、国立公園も利用しようという良い流れがあるなか、地域によって観光格差が生じていることも事実だ。東京、大阪、京都、北海道は良いけれど、それ以外の地方にいると、そんなにインバウンドの大きな力を感じていない地域が多い。

地方に対する観光施策で必要なことは

 まず、インバウンド格差をなくしていけるような観光政策が必要だ。もともと、観光立国という言葉には日本の製造拠点が海外に移転するなか、新しい産業の担い手として観光に白羽の矢が立ったことが経緯にある。
 また、雇用も欠かせない。工場が海外へ移転していっている。だから観光が地方の雇用の受け皿になろう、と。その割には未だに国内の正社員比率は25%にとどまる。宿泊業者も、正規雇用を増やしたいが、繁忙期と閑散期のムラが大きいため難しい状況にある。正規雇用を増やして賃金を上げる。また、海外から分散して観光客を呼び込むのと同時に、国内の休みを分散、平準化することで観光需要は高まり、地方を訪れる機運は高まっていく。東京、大阪、京都だけじゃなく、私たちはもっと違うところの新しい経済の基盤になりたいし、そこでは、正社員比率を高めていく必要があるし、彼らがその職場をずっと長く続けられるだけの給与を出していかないといけない。観光産業も“雇用の担い手になっていく”ということが本来の観光立国と言う言葉が意味していたことだと思う。私たちはそこを目指していきたい。


 自社の取り組みから、国の観光政策に至るまで多様な話題に対し、鋭く、また歯切れよく語る星野社長。現状の訪日外国人客4000万人の目標に関しては「数ではなく、質ありき」を訴える。一過性ではなく、“中長期的”で持続可能な観光需要の創出、その姿勢が国内外を問わない“星野リゾートファン”から愛される所以だろう。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年2月27日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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