公開日付:2021.07.02
高機能化したAIをどのように活用するか
(TSR・河原社長) 近年は、TSR(東京商工リサーチ)でもデータの様々な活用方法を探っています。大学など学術機関との協業も必要になっています。
(日本IBM・山口社長) 分析業務は、今後リサーチ会社に求められる役割ではないでしょうか。学術分野では多くの論文が存在するので、そうしたものを読み込んでAI、例えば弊社の「Watson」などを活用し、解析・洞察するのもひとつの方法です。
(河原社長) Watsonはどのように活用されていますか?
(山口社長) 現在は、このような対談形式の会話も交わせるよう開発を続けています。本当に相手がWatsonかどうかわからなくなるほどです。例えば、「弊社の将来が明るいかどうかをしっかり説明してほしい」と言うと、あらゆるデータを持ってきて「こういう状況だから、日本アイ・ビー・エム(IBM)の今後は明るい」と説明します。一方で、「弊社が10年後厳しい状況になるとの前提で話してほしい」と言えば、同様に様々なデータをもってきて「こういう情報があるから良くない」と答えます。
「なぜ?」と問いかけると、さらに理由を述べます。人間の能力と同じことができるのですが、情報量と処理の速度が違うので、「2分で説明しなさい」と言うと、しっかり1分59秒で述べてくれます。人間ではなかなか、即時には対応できません。「リサーチ」という世の中のニーズに、高機能化したAIをどう活用するかでスピード、処理能力は変わります。
(河原社長) 人の手ではすぐに導き出せないような複雑な情報の分析が可能なのですね。TSRでの情報分析にも大いに役立てそうです。
(山口社長) AIは、今あるデータを全部入れてその中で分析し、チャット形式で回答を得るというのが、よくあるイメージです。これは3~4年前に実現しています。すでにAIは次のフェーズに入っています。
いまの若者は「量子ネイティブ」世代!?
(河原社長) 学術機関との提携では、TSRは一橋大学との繋がりからスタートしました。共同で特許も取りました。現在は東京大学や早稲田大学とも提携しています。御社の学術機関との連携は、報道で拝見します。最近はどのようなプロジェクトに取り組まれていますか。
(山口社長) 日本の企業や学術機関との協業も多いですが、我々は基礎研究も頻繁にやらせていただいています。最近だと、東京大学の医科学研究所と一緒にコロナウイルスのゲノムがどのように変異していくのかを追跡するシステムを一緒に作りました。
これによって世界中のゲノムを分析し、ウイルスについて「これは変異型だ」「これは違う」「新たなウイルスが出てきそうだ」と判断できるようになりました。また、次の世代の量子コンピュータを東京大学に設置させていただきます。これは量子コンピュータをどう作るか、例えば量子コンピュータを動かすには、様々な化合物や素材が必要になりますが、ほんのわずかな誤差で量子コンピュータの精度は変わります。日本企業は非常に精密で高い力を持っており、東京大学と協業で量子コンピュータの開発を研究するプロジェクトを進めていきます。
(河原社長) 量子コンピュータを使うための取り組みも行われていますね。
(山口社長) すでに国内に量子コンピュータを設置済みで、近日中にお披露目できる予定です。新しい化合物の研究やゲノム解析、金融のリスク管理など、あらゆる分野での活用を想定しています。
(河原社長) 量子コンピュータは従来のコンピュータと全く違うと聞きます。ただ、何が違うのかが私たちにはわかりません。
(山口社長) 「量子力学を勉強しないと正確にはわからない」と担当者たちは言いますが、今までは0か1の2進数で動いていたコンピュータに対して、量子の世界は0と1だけではなく、中間のビットが存在します。分かりやすく言えば、その組み合わせの中で極めて高度な計算能力を発揮できるということです。数百年もかかる計算を数時間で完了し、アウトプットもスピード感も従来のものとは大きく異なります。
(河原社長) それが一番端的ですね。「従来のコンピュータとまったく違う」ということは御社の講演でも伺っていました。
(山口社長) これからは、従来のコンピュータと量子コンピュータ、両方が動くことになるでしょう。通常のオペレーションは従来のコンピュータに任せ、量子コンピュータが向くと想定されるものは、データを量子コンピュータに飛ばして処理させ、その後、通常のコンピュータに返すという働きが期待できます。
医療関係だと、電子カルテの情報は従来のコンピュータで処理し、その中の病気などのデータを量子コンピュータに飛ばして分析をする流れもできてくるでしょう。「餅は餅屋で」ということですね。
(河原社長) 量子コンピュータの活用で、決まっているものはありますか。
(山口社長) 海外の自動車メーカーと共同でEV(電気自動車)向けの新しい電池を開発しています。どうしたら長時間稼働できる電池を作り出すことができるか、という分析に量子コンピュータが活用されています。これは従来のコンピュータやエンジニアによる仕事だけでは難しい作業です。量子コンピュータを用いて「こういう化合物を用いて、こういう考え方だと実現可能だ」ということがわかります。
(河原社長) 最適解を導き出せるわけですね。
(山口社長) そうです。これまでは考えられなかったことを見つけ出してくれます。一方で、セキュリティー面では課題があります。暗号化、量子暗号と言われていますが、暗号をどう解くかということも「できないことはない」。そのため、解読されない複雑な暗号を作る必要があります。
(河原社長) なかったものを生み出すには、技術者の採用、育成も課題になりそうです。
(山口社長) 量子コンピュータに関するインターンシップを募集したら、驚くような倍率の応募がありました。2年前、軽井沢で学生向けの量子コンピュータに関するシンポジウムを開き、多くのアジアの学生に集まっていただいたのですが、量子コンピュータを使って「こういうシナリオはどうか」と彼らに提示したら、皆、すぐに使いこなしていました。彼らの世代は“量子ネイティブ”です。私たちの世代は「今までのコンピュータとどこが違うのだろう!?」と、まず思います。「違いが知りたい」と。あの感覚が彼らにはありません。過去のコンピュータを知らないわけですから、量子コンピュータがコンピュータだと思って入ります。その時に、「ああ時代は変わったな」と実感しました(笑)
企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を活用するには・・・?
(河原社長) 近年、報道でも頻繁に見かけるようになったDX(デジタルトランスフォーメーション)についてもお伺いします。ビジネスの世界でも話題にのぼるDXですが、大企業や世界的な企業の事例ばかりを目にするため、中小・中堅企業の中にはピンと来ないケースもあると思います。DXをどのようなシーンで活用できるのかご紹介いただけますか。
(山口社長) DXには2つの定義があります。1つは「デジタライゼーション」。今やっていることを、デジタルを使って処理するということです。もう1つは「デジタルトランスフォーメーション」で、デジタルを使って変革をする、ということです。この2点の組み合わせです。
前者は、例えば今まで伝票をチェックし、処理していた作業を、すべてコンピュータに任せて自動化する。それは紙ではなく“デジタル”に処理方法が置き換わっただけで、ビジネスのやり方は従来と変わりません。デジタライゼーションに関して、多くのツールがリリースされています。皆さんがよく耳にされるRPAと呼ばれる自動化ツールもこの1つです。
一方、トランスフォーメーションは「変革」です。端的に言うと、仕事のやり方自体や市場を変更するなど、仕事そのものを大きく変えることがDXです。DXはビジネス自体の変革で、経営そのものの話になります。
メディアなどで良く目にするのが、「よし!DXを皆で導入しよう」と言う話題です。その際、「こういう自動化ツールを入れました」との事例とともに紹介されることもありますが、厳密にはこれはDXではなく、「業務をデジタル化した」ということになります。
(河原社長) この辺の違いを経営者含めて、知らない方は多いと思います。私も説明いただかないと今一つ分からない領域でしたね。
(山口社長) ただ、今のDXにこだわらず、様々な会計ソフトやコンピュータを導入する上でも、積極的にご利用いただける商品がたくさん出てくるようになりました。そこで、一番の問題は「人材」だと思います。そうしたデジタルツールを扱える人材がまず必要になります。人がいないとツールを活用することができません。まず、扱える人材を1人でも2人でも確保していくことと、経営者の方々がデジタルツールに対して、いかに理解を示してくださるかということが肝要です。
(河原社長) デジタル人材の人手不足が叫ばれていて社会問題化していますね。一方で、「働き方改革」もフォーカスされ、業務の効率化があらゆる産業で課題となっています。
(山口社長) オランダのロッテルダム港での取り組みを紹介させてください。潮の流れや波の高さ、天気、船がどこを走っているか、コンテナがどれだけ港にあるか、人がどれだけいるかなどの情報をすべて取り込み、バーチャル化した港を作ります。この「バーチャル港」の中で、「この船をここにこういう形で入港させると一番効率が良い」と作業の効率化を図るのです。実際に港全体で船の停泊を1時間短縮できました。また、それによって、現地で働く人たちの課題となっていた「余計な待ち時間」がなくなり、1日あたり停泊可能な船の数も増やすことができました。生産性も上がるし、品質も上がる。さらに、働き方の変化が可能になる。これは、先ほど話題に上がりましたDXの代表例と言えます。
(河原社長) 中堅・中小企業が作業効率を上げて、働き方改革を図るには、大企業に比べてハードルも高い印象があります。どのような取り組みやシステムの導入が望まれますか。
(山口社長) 弊社が直接お届けしたり、また多くのソリューションを持つビジネスパートナーと共に解決策を提供したりしています。それはシステム構築やクラウド上での業務サービスなど多岐に渡っています。各企業様が販売されている製品に弊社の技術を組み込む形の協業も増えています。企業規模に関係なく、ご一緒させていただく領域がどんどん広がっている印象です。工場の生産管理をさらに「見える化」するソフトウェアや人事管理システムなどもあります。そうした製品にはIBMのAIである「Watson」が組み込まれているものも多くあります。
今後も、一見すると目には見えなくともあらゆる形で中堅・中小企業のお役に立てればと思っています。
また、新たなデジタルツールを導入いただく際には、「難しいソフトを使うんだ!」とあまり意気込むのではなく、「ビジネス環境が良くなったな」と緩やかに変化を感じられた方が、より良く活用できるのではないかと思います。
(河原社長) コロナ禍でリモートが広がり、働く場所を問わなくなりました。この1年あまりで企業経営も加速度的に変容しています。アフターコロナのビジネス環境をどのように展望されていますか。
(山口社長) かつては、皆「フィジカルな仕事」をしていました。それが、コロナ禍を機にデジタル化の波が急速に広がり、一瞬のうちに世界企業になることもできる世の中になりました。小規模の会社でも、商品をバーチャルの世界に持っていけば、世界企業とも提携できる時代です。
データ化されてデジタル上の世界に乗っかったら、会社自体はどこに存在するかを問わず、物理的な住所は関係なくなりました。すると、社員もどこに住んでいるか、どこで仕事するかは関係なくなります。これは大きなチャンスが生まれる可能性があるとも言えます。スタートアップ企業をはじめ、バーチャル化によって、一瞬のうちに成長されている企業は増えています。従来のビジネス環境では、そこまで急速に成長できなかったでしょう。それがDXでの「トランスフォーメーション」であると思います。アイデアをどんどん出して、データを分析し、どこかと提携・共創すればビジネスがより良くなる、こうしたビジネスのバーチャル化や発想の転換は、今後さらに進んでいくものと思います。
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