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経営再建中のJDI、新体制と急ピッチの構造改革

 ディスプレイ機器メーカーの(株)ジャパンディスプレイ(TSRコード:294505385、東京都港区、以下JDI)の動向が注目されている。JDIは2012年4月、国内大手電機メーカー各社のディスプレイ事業会社が統合して発足した。期待を込めて「日の丸液晶」と称されたが、その後も過当競争とコモディティ化が進む事業環境に対応できず、11期連続の最終赤字を計上した。2025年6月、新体制の下で早期の黒字転換と持続的な成長に向けた取り組みに着手している。 
 新たな動きを見せるJDIの担当者に、現状と今後の展望などを聞いた。


ジャパンディスプレイのロゴ

ジャパンディスプレイのロゴ(TSR撮影)


―11期連続の最終赤字だ

 JDIの2025年3月期の連結業績は売上高1,880億円(前期比21.4%減)、当期純利益は▲782億円(前期は▲443億円)と大幅な赤字を計上し、11期連続の最終赤字となった。
 分野別の売上高では、車載向けディスプレイが1,258億円(前期比5.5%減)、スマートウォッチ・VR等が535億円(同27.1%減)、液晶スマートフォン用ディスプレイが85億円(同73.5%減)だった。
 コア事業の車載向けディスプレイ分野は、低採算品の販売終了や、最終顧客の需要減により減収となった。スマートウォッチ・VR分野はスマートウォッチ用OLEDディスプレイとVR用液晶ディスプレイの需要減により減収だった。ノンコア事業の液晶スマートフォン用ディスプレイは、2023年には撤退を決め、戦略的に事業を縮小させている。
 車載向けディスプレイ事業は、2025年10月1日、新たに新設分割する(株)Autotechに事業を継承する予定だ。新設分割により、独立した経営判断と、迅速な意思決定が可能になり、資金調達の可能性を広げる。
 JDIは今後、高成長が見込まれるセンサー事業の拡大と、ディスプレイ技術を活用した先端半導体パッケージング事業への参入を決定した。これまでのディスプレイ専業メーカーから脱却し、センサーと先端半導体パッケージングを新たな事業の柱に加える。
 センサーや先端半導体パッケージングは今後成長が見込まれる市場で、JDIの技術を応用することで、競争優位性を確立できる。
 これらの事業では、生産体制をファブレス化し、外部企業との協業等を通じて、競合他社との差別化を図る。高付加価値ディスプレイ、センサー、先端半導体パッケージの量産、生産性向上のための設備投資には、3年間で、250億円を見込んでいる。

JDIを取りまく環境



―財務状況の健全化に向けての取り組みは

 JDIは、長期にわたる赤字の継続と純資産額の減少により継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる疑義(GC注記)が付記されている。早急に黒字化を目指し、アセットライト化(※1) と生産効率の向上を進めている。
 BEYOND DISPLAY戦略に基づくセンサー販売の増加や半導体パッケージング事業の効果で、2026年度は約124億円の利益改善効果を見込む。2025年2月、2026年3月をめどに固定費負担の大きい茂原工場のパネル生産を終了し、石川工場に生産機能の集約を発表した。JDIの国内生産は、石川工場に集約する。
 茂原工場の生産終了を発表した3カ月後の2025年5月、希望退職者の募集による人員削減を発表した。JDIは2025年3月時点で約2,600名の国内従業員がいたが、そのうち約1,500名を削減する。工場や人員の削減、物流費や販管費の削減などで固定費を大幅に削減し、564億円の利益改善を見込んでいる。これらの大幅なコスト削減と収益向上施策の効果で、損益分岐点を80%改善する見込みだ。
 茂原工場での量産化を目指していた次世代OLED「eLEAP」は、茂原工場の生産終了に伴い自社生産を停止したが、「eLEAP」のファブレス事業展開に向けて協議を進めている。

※1 一般的に外部への製造委託などにより財務負担を軽くする意味で使われる

―いちごトラストの支援状況は

 2020年3月、いちごトラストと資本提携契約を締結し、第三者割当増資でいちごトラストが筆頭株主となった。その後、2023年1月からいちごトラストが支配株主となった。
 いちごトラストから、運転資金の借入も実施し、残高は650億円だ。借入金返済のため、茂原工場の譲渡と一部の特許権などを含む知的財産権の譲渡を進めていく。現時点で、新たに計画している借入はない。ただ、6月25日、いちごトラストを割当先とする第三者割当で新株予約権発行を決議し、最大956億円の資金を調達する。新株予約権の行使価額は1株あたり25円、行使期間は2025年7月15日から2028年11月30日までだ。


―東証の流通株式比率に抵触している

 2025年3月31日時点のJDIの流通株式比率は20.1%で、プライム市場の上場基準である35%以上を満たしていない。改善期間内の2028年3月末までに上場維持基準を満たす必要がある。改善期間内に適合していることが確認できなかった場合、監理銘柄に指定され、上場廃止になる可能性がある。
 上場維持のためには、78.2%の普通株式を保有するいちごトラストの持株比率を低下させる必要があり、現在協議を継続している。    
 だが今後、新株予約権やE種優先株式の普通株式を対価とする取得請求権が行使された場合、いちごトラストの保有株式比率は最大で91.6%に達する可能性がある。
 新たな保有先となり得る投資家の獲得に向けた関係構築にも取り組んでいる。ただ、投資家の関心を得るには、業績改善と企業価値の向上が不可欠であると認識している。



 かつて、日の丸連合とも呼ばれたJDIだが、中小型ディスプレイ市場で、海外勢との激しい競争に晒されている。この間、官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)を通じ、4,000億円以上の投融資が行なわれた。
 BEYOND DISPLAY戦略は、JDIにとって生き残りをかけた切り札ともいえる。先端半導体パッケージング事業やセンサー事業に経営資源を振り向け、工場の集約などで固定費削減を同時に進め、黒字転換を目指す。
 ディスプレイ専業メーカーから脱却し、成長を手繰り寄せられるか。新たな経営体制で明間純新社長の経営手腕が試されている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年7月11日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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