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パワー半導体製造のJSファンダリが破産 ~ 事業性の見極めとファイナンサーの流儀 ~

 事業性をどう見積もったのか――。
 7月14日に東京地裁から破産開始決定を受けた(株)JSファンダリ(TSRコード:138924732、東京都)の決算推移を見た与信担当者が訝しむ。
 電力制御などに使われるパワー半導体やウエハー製造を手がけ、一見すると事業性は高い。ただ、実情は火の車だった。設立からわずか4年で破産に追い込まれたJSファンダリのこれまでを東京商工リサーチ(TSR)が追った。



 パワー半導体製造のJSファンダリは、日本政策投資銀行が出資する(株)マーキュリアインベストメント(TSRコード:296526460、東京都)や、(株)産業創成アドバイザリー(TSRコード:298239582、東京都)などの出資で2021年4月、設立された。本社は東京に置くが、生産拠点は新潟三洋電子(株)(TSRコード:203222105、新潟県、商号は当時)の工場を新設分割により取得。500名を超える従業員を雇用し、操業していた。
 新潟三洋電子にも源流がある。東京三洋電機(株)(TSRコード: 270039473、群馬県)だ。東京三洋電機のLSI生産拠点として設立された新潟三洋電子は2011年に米半導体メーカーのON Semiconductor.Corp.の日本法人に買収された。
 三洋電機(株)(TSRコード: 570239605、大阪府)は2000年代半ば以降、半導体部門の売却も模索していたが、新潟三洋電子はこの流れで米半導体メーカーの傘下となった。新潟三洋電子は、2013年にオン・セミコンダクター新潟(株)へ商号を変更するが、厳しい業績が続いた。TSRの企業データベースによると、2013年12月期~17年12月期のうち、4期が最終赤字に沈んだ。17年12月期の債務超過額は100億円を超えた。
 こうした状況下の2020年8月にON Semiconductorグループは、オン・セミコンダクター新潟の売却を公表。冒頭の国内ファイナンサーの座組でJSファンダリとして再出発することとなった。

JSファンダリの新潟工場

JSファンダリの新潟工場

原価が売上高を上回る

 ただ、この新会社も惨憺たる業績が続いた。半導体市場は、3~4年周期で好不況を繰り返す。技術革新のスピードが速く、設備投資や在庫の見極めが難しい業界でもある。
 JSファンダリが事業を開始した当時、半導体市場はダウンサイクルの時期にあたり、日本や中国の在庫調整で、半導体出荷額は大きく減少する時期にあった。
 そのため、2023年8月期の売上高は36億4,974万円に対し、売上原価は50億3,792万円に達し、総利益(粗利)段階で赤字を計上。当期純損失は39億9,504万円に達した。
 この状況は続き、2024年12月期(決算期変更)の売上高は26億231万円に対し、売上原価は83億4,657万円、当期純損失は67億136万円に沈んだ。市況変動が大きく、想定した実績を上げられず、海外向けの高付加価値製品へのシフトや量産化も進まなかった。

業績立て直しと資金繰りの維持

 赤字経営からの脱却を目指し、JSファンダリは製品の受注拡大で利益率の改善を図る事業再構築プランを策定した。また、LBO(レバレッジド・バイアウト)レンダーの金融機関からは元利金返済の猶予を要請。マーキュリア傘下のファンドに対して、額面総額10億円近い社債を新規発行した。ただ、いずれの施策の焼け石に水だった。その後も業況は回復せず、収支改善には至らなかった。
 このため、事業譲渡を模索すると同時に、香港のJBC VICTORY COMPANY LIMITED(DUNS:655886746、以下JBC)との間で2,000万米ドルの融資契約を2025年5月27日に締結した。ところが、JBCから予定通りの融資が実行されず、一縷の望みは絶たれた。
 関係者のひとりは、「JBC との間で融資契約を結び、最終的にはJBCに事業譲渡を予定していた。計画の第一弾として融資計画を進めていたのに約束を反故にされた」と憤る。
 JBC側の真意はつかめない。ただ、国内大手電機から米半導体メーカー、国内ファイナンサー連合へと経営権が目まぐるしく変化するなか、一貫して厳しい業績が続いた。半導体業界は単年度決算で業況や信用力を判断することは出来ないが、出資・融資による大型投資と減損、事業譲渡が続くなかで多額の資金が消えていった。
 産業政策や安全保障の観点を抜きにした場合、JSファンダリの事業にどれだけの価値があったのか、将来キャッシュフローの算定は希望的観測が入りすぎていなかったのか。



 取引先の与信担当者は、「赤字は把握していたが、市況に左右される部分も大きく、出資者からのサポートを安心材料としていた。事業再生の手法は多様化しているのに、破産以外の手立てはなかったのか」と不満を漏らす。
 破産開始決定を受けた7月14日、東京の本社が入居するビルの一室はしずまりかえっていた。そこは、巨額の投資と運転資金が必要な独立系ファンダリ専業会社のイメージからは想像しがたいほど、こぢんまりとしていた。今回のファイナンサーの顔ぶれは誠実で真面目に事業再生に取り組むイメージを受ける。鼻息荒くユニ コーンを目指して本社造作に多額の費用を垂れ流すベンチャー企業のファイナンサーとは違う。なのに何故――。
 JSファンダリの500人超の従業員が解雇され、破産の影響は地域経済に大きな影響を与えている。7月16日、小千谷市などは緊急対策本部を立ち上げ、従業員の再就職支援を始めている。
 事業性評価に隙が生まれると、甚大な結果を生む。今回それが生じてしまった。


JSファンダリの本社入口(東京)

JSファンダリの本社入口(東京)




(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年7月22日号掲載「取材の周辺」を再編集)



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