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上場企業の「不適切会計」開示は28社・29件 上半期は3年連続で減少、要因の最多は「誤り」

2025年上半期 全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査


 2025年上半期に「不適切な会計・経理」(以下、不適切会計)を開示した上場企業は、28社(前年同期比15.1%減)、件数は29件(同12.1%減)だった。
 2008年に集計を開始以降、上半期はピークの2022年の38社(38件)から減少が続いている。なお、年間では2019年の70社(73件)がピークで、2025年上半期は2019年同期の30社(31件)に迫っており、2025年下半期の動向が注目される。

 2025年上半期(1-6月)に開示された不適切会計29件の内訳では、最多が経理や会計処理ミスなどの「誤り」で16件(前年同期比14.2%増)だった。次いで、従業員などによる着服横領が9件(同30.7%減)、子会社で不適切会計処理などの「粉飾」が4件(同33.3%減)だった。
 業種別の社数は、最多が製造業の7社(同36.3%減)。次いで、「建設業」(同400.0%増)、「運輸・情報通信業」(同28.5%減)、「サービス業」(同37.5%減)の各5社だった。また、卸売業は4社で前年同期と同数だった。
 公認会計士・監査審査会は2025年7月18日、「令和7事務年度監査事務所等モニタリング基本計画」を公表し、形式的に監査の基準に準拠するだけでなく、不正会計等を見抜く適切な職業的懐疑心を発揮する、などの品質管理態勢の実効性を打ち出している。
 一方で、企業側は監査報酬の削減などを目的に、中小規模の監査法人に変更するケースもある。監査法人交代のタイミングで、不適切会計が見逃される可能性もあり、監査法人が監査機能をいかに発揮するかを問われている。

※ 本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料に基づく。上場企業、有価証券報告書の提出企業を対象に、「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業、今後影響が出る可能性を開示した企業を集計した。
※ 同一企業が調査期間内に内容を異にした開示を行った場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
※ 業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証プライム、スタンダード、グロース、名証プレミア、メイン、ネクスト、札証、アンビシャス、福証、Q-Boardを対象にした。 
  


開示企業数 2025年上半期は28社(29件)

 2025年上半期に不適切会計を開示した上場企業は28社、29件だった。組込みソフトウェア業の(株)オルツ(東証グロース)は2025年4月25日、売上が過大に計上されている可能性が認められ、第三者委員会を設置したことを明らかにした。
 また、情報処理・提供サービス業のダイワ通信(株)(東証スタンダード)は2025年2月4日、連結子会社が売上の過大計上と簿外在庫が生じている可能性があることが判明。6月19日、東京証券取引所から上場契約違約金1,440万円の支払いを求められた。なお、監査手続きを進める中で6月2日、別の不適切な手続きが行われた可能性も判明し、再度、特別調査委員会を設置した。

不適切会計開示企業(1-6月)

内容別 最多は「誤り」の16件

 内容別では、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」が半数を超える16件(構成比55.2%)だった。次いで、子会社・関係会社の役員、従業員の「着服横領」が9件(同31.0%)。
 「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」は4件(同13.8%)だった。
 受託開発ソフトウェア業の(株)クシム(東証スタンダード)は、旧経営陣による子会社譲渡で未回収債権が発生。経営交代の過程で実施された株式譲渡や貸付などの一連の取引で、2025年10月期第2四半期に臨時損失7億1,645万円を計上した。

不適切会計 内容別(2025年1-6月)

市場別 「東証プライム」が12社で最多

 市場別では、「東証プライム」が12社(構成比42.8%)で最も多かった。次いで、「東証スタンダード」が10社(同35.7%)、「東証グロース」が5社(同17.8%)と続く。
 2013年までは新興市場が目立ったが、2015年以降は国内外に子会社や関連会社を展開する旧東証1部が増加していた。

不適切会計開示企業 市場別(1-6月)

業種別 最多は製造業の7社

 業種別では、最多は製造業の7社(構成比25.0%)だった。次いで、「建設業」、「運輸・情報通信業」、「サービス業」の各5社と続く。製造業は、従業員による架空取引や不正行為などの「着服横領」が増えた。「建設業」は、架空発注や架空取引などの「着服横領」、勘定科目の誤りや工事原価の過少計上などの「誤り」が目立った。

不適切会計開示企業 業種別(1-6月)



 2025年2月26日、証券取引等監視委員会は受託開発ソフトウェア業のピクセルカンパニーズ(株)(東証スタンダード)に対し、有価証券報告書等の虚偽記載等の検査結果に基づき、課徴金6億2,984万円の納付命令を勧告した。これを受け、金融庁は4月25日、同社に課徴金納付を命じた。連結子会社が、実体のない前渡金計上で売上の前倒しによる損失不計上の不適正な会計処理を行い、虚偽の記載や記載すべき重要事項が欠けた有価証券報告書を提出していた。
 また、同委員会は3月28日、情報提供サービス業の(株)イメージワン(東証スタンダード)に対しても、有価証券報告書等の虚偽記載の検査結果に基づき、6,507万円の納付命令を勧告した。金融庁は5月21日、同社に対し課徴金納付を命じた。減損損失の不計上や売上の過大計上等の不適正な会計処理を行っていた。
 一方、金融庁は1月17日、アスカ監査法人(東京都港区)に対し、業務管理・品質管理態勢等に重要な不備があるとして、業務改善命令および新たな契約締結を6カ月禁じる一部業務停止命令を出した。金融庁がアスカ監査法人に業務改善命令を出したのは、2017年9月に続き2度目で、監査法人の品質向上は待ったなしだ。

 コロナ禍が落ち着き、企業活動が回復するなか、2025年上半期は28社、29件の不適切会計が判明した。グローバル化が進み、海外子会社や国際取引を利用した不適切会計も発生するなど、不適切会計は複雑化している。不適切会計を根絶できない背景には、業績優先や規範意識の欠如、業務習熟度の低下など、多くの要因がある。上場企業は業績優先を見直し、コンプライアンス(法令順守)やコーポレートガバナンス(企業統治)の徹底を含め、倫理観や誠実な企業文化を問われていることを認識すべきだろう。

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