ホテル業界 止まらない客室単価の値上げ インバウンド需要で高稼働・高単価が続く
上場ビジネス・シティホテル「客室単価・稼働率」調査
インバウンド(訪日旅行客)需要に支えられ、ホテル業界は好調が続いている。ホテル運営の上場13社(15ブランド)の2025年3月期の客室単価は、インバウンド需要の高い都心や地方都市を中心に前年同期を上回り、稼働率も前年同期並で高水準を維持している。
日本政府観光局によると、2025年上半期の訪日外国人数は、2,151万8,100人(前年同期比21.0%増)だった。6カ月間で2,000万人を突破するのは、過去最速となる。右肩上がりのインバウンド増加に対し、ホテル業界が対応しきれるかが課題となっている。
ホテル運営の上場13社のうち、2025年3月期の客室単価が判明した15ブランド(13社)の平均客室単価は、1万6,679円(前年同期比12.6%増)だった。15ブランドすべてで前年同期の客室単価を上回った。コロナ禍で最安値だった2021年同期の平均客室単価は7,755円で、114.5%増と2倍以上に上昇している。2025年3月期の稼働率は、15ブランドすべてで70%を超え、このうち、9ブランドは80%以上の稼働率と好調だった。
夏休みを迎える時期となり、国内旅行の動きも活発になる。さらに訪日外国人の数も円安を背景に過去最高を更新する勢いで増え続けている。上昇をたどる客室単価と旺盛な客室需要の狭間で、ホテル客室をめぐる熾烈な争奪戦が続きそうだ。
※本調査は、国内の上場ホテル運営会社13社の客室単価と稼働率を集計した。2025年4月に次いで6回目の調査。稼働率・客室単価は開示資料をもとに集計した。ただし12月決算の企業は、2025年1-3月期(1Q)の公表値を集計した。
※集計対象の企業・ブランドは以下の通り。藤田観光(株)(ワシントンホテル)、東日本旅客鉄道(株)(ホテルメッツ、メトロポリタンホテルズ)、相鉄ホールディングス(株)(相鉄フレッサ・サンルート)、東急不動産ホールディングス(株)(東急ステイ)、(株)共立メンテナンス(ドーミーイン)、(株)グリーンズ(コンフォートホテル、ホテルエコノなど)、西日本鉄道(株)(西鉄ホテル)、ポラリス・ホールディングス(株)(ベストウェスタン)、大和ハウス工業(株)(ダイワロイネットホテル)、(株)西武ホールディングス(プリンスホテル)、阪急阪神ホールディングス(株)(阪急阪神ホテルズ)、三井不動産(株)(三井ガーデンホテル)、九州旅客鉄道(株)(THE BLOSSOMなど)
客室単価(前年同期比) 2ケタ増が8割
前年同期の客室単価を比較した。2期比較が可能な13社(15ブランド)は、すべて客室単価が前年同期より上昇した。
上昇率は、10%以上15%未満が最多の9ブランド。次いで、10%未満が3ブランド、15%以上20%未満が2ブランドで続く。
最も上昇したのは、東急不動産HDが運営する「東急ステイ」で20.4%の上昇だった。
ビジネスホテル8ブランドの客室単価 コロナ禍の2倍
コロナ禍の2021年3月期から、2025年同期までの稼働率、客室単価を比較した。
ビジネスホテルでコロナ禍前と比較可能な8ブランドの稼働率は、2021年3月期が最低の45.8%だった。また、客室単価は、2021年同期の6,180円が最安値。
コロナ禍の外出規制の影響で、宿泊機会が大幅に減少した。これに対し、ホテル側は客室単価を低めに抑え、営業を継続したことで客室単価を押し下げた。
2023年5月の新型コロナ5類移行後は、ホテル需要が徐々に回復し、2024年の平均客室単価は1万円台に乗せ、平均稼働率も8割を超えた。その後も客室単価は上昇を続け、2025年同期は1万3,930円で、コロナ禍の2021年同期を7,750円上回った。平均稼働率は2024年同期から0.1ポイント下がった81.0%で、ほぼ横ばいで推移している。
観光庁がまとめた「インバウンド消費動向調査」によると、2024年4〜6月期の訪日外国人による旅行消費額は2兆5,250億円にのぼる見通しとなった。前年同期と比べ18.0%増で、インバウンド消費が引き続き好調を持続している。旅行消費額の費目別では、宿泊費が38.5%を占め、観光需要の回復がホテル業界の追い風になっている。
一方、人件費やエネルギーコストをはじめとしたコスト増も無視できない。このため、上場ホテル15ブランドのすべてで客室単価が上昇しており、今後もこの流れは続くとみられる。
国内旅行やビジネスの宿泊需要に加え、訪日外国人観光客も急増したことで、ビジネスホテルやシティホテルの稼働率や客室単価は高水準を維持している。ただ、需要の急増に対し、供給が追いつかない“需給ミスマッチ”は、客室不足や客室単価の値上げを加速させている。
また、深刻化する人手不足は、ホテル運営に大きな懸念材料になっている。人材の確保や賃金見直し、従業員の定着率向上などの課題が山積し、早急な対策が必要だ。
夏の観光シーズンを迎え、多くの人が夏休みに入る今、ホテル業界の動向はインバウンドや国内旅行の浮沈にもつながりかねない。押し寄せる需要に対し、ホテルに求められる本来の満足できるサービスを提供できるか。過熱するホテル業界の裏側では、静かにホテルの存在価値とサービスの質を問われる分岐点に差し掛かっている。