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ガールズバーとギリシャの哲人

 ガールズバーが私を悩ませている。ツケ払いが溜まっているのではない。どの業種コードにすればいいのか、見当がつかないのだ。

 東京商工リサーチ(TSR)に入社して7年、信用調査報告書をつくる調査部から倒産関連を扱う情報部に異動して3カ月が経過した。
 生まれたすべての企業が成長し続けられる訳ではない。衰退して窮境に陥り、債務整理(倒産)せざるを得ない企業もある。情報部ではこうした企業の生涯を取材し、倒産DB(データベース)に格納(登録)する。
 商号や所在地、負債総額、倒産法、窮境要因など登録する項目は多岐に渡る。倒産手続きは粛々と進むが、企業の一生は様々だ。無秩序に見えるこれまでの活動履歴と最期の処理方法を統一されたフォーマットにはめ込まなくてはならない。

 大学時代、一般教養科目で履修した哲学の授業が頭をよぎる。哲人たちは雑多に存在する世界を言葉によって体系的に整理して理解しようとした、そんな講義だったと思う。古代ギリシャ時代だ。ロゴス?プラトン?アリストテレス?いくつか単語が浮かんだが、点と点が結びつかず、考えるのを止めた。

 今日、ガールズバーの倒産取材が私に割り当てられた。現地へ出向き、関係先への取材も終え、倒産DBに必要事項を登録していく。商号、所在地、負債総額、倒産法….順調に登録作業が進んだ私の手が止まる。業種――!?ガールズバーの業種コードは何なのか。総務省の日本標準産業分類に準拠して構成された4桁の「TSR業種コードマニュアル」を読み込む。どこにも見当たらない。「バー、キャバレー、ナイトクラブ」が近いように思う。ただ、キャバレーの響きが引っかかる。語感から進駐軍の影響を受けて国内で広まった業態のような印象を受ける。進駐軍と言ってしまった。情報部はなぜか古い言葉を使う人が多い。私もそれに染まってきている気がする、あー嫌だ。

 そういえば、シーシャバーは飲食店なのか、バーなのか。猫カフェやコンカフェ(コンセプトカフェ)も悩ましい。調べてみると、日本標準産業分類は1951年の開始以降14回にわたって改定されている。ただ、どんどん出てくる新しい業態に追いついていない気もする。

 調査員時代、銀座でクラブを経営する企業を取材した時の記憶が蘇ってきた。経営者は「うちは会社もホステスもしっかり納税していますから」と何回も念を押した。その真意は別にして、納税しているということは納税申告書に業種コードを記載しているはずだ(当たり前だ!)。そんなことを考えて固まっていたら、「それ、7661(ナナ ロク ロク イチ)」と後ろから声が聞こえた。情報部歴20年超のベテランだ。全ての業種が頭に入っているのか、歩く業種コードじゃないか。

 アドバイスを踏まえて倒産DBの入力を終えた。世の中の出来事を集計できる形に整えるのは難しい。古代ギリシャの哲人たちも同じ苦労をしていたのだろうか。



(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年7月8日号掲載「私の周辺」を再編集)

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