「一人で悩まず、まずは早めの相談を」 ~ 中小企業活性化全国本部 インタビュー ~
中小企業の伴走者として、中小企業活性化協議会(以下、活性協)の存在感が高まっている。従来は不振企業の再生支援のイメージが強かったが、現在は役割を広げ、様々なフェーズに対応する公的な経営相談の窓口として企業活動をサポートしている。
東京商工リサーチ(TSR)は、全国47都道府県の活性協を支援する中小企業活性化全国本部(東京都港区)にインタビューした。
再生支援の現場経験も豊富な松田正義氏、佐藤友泰氏、茂木俊裕氏の3名から話を聞いた。
インタビュー回答者
・松田正義氏
統括事業再生プロジェクトマネージャー
1981年群馬銀行入行。ニューヨーク支店、東京支店、審査部等において、国内外の金融環境が大きく変化する中で、大口取引先対応や事業再生支援に携わる。その後、支店長、リスク統括部長、コンプライアンス部長等を歴任し、関連会社役員を経て、2015年より8年間、群馬県中小企業再生支援協議会の統括責任者を務める。2023年より中小企業活性化全国本部に着任し、2024年4月より現職。
・佐藤友泰氏
副統括事業再生プロジェクトマネージャー
1988年三井銀行(現三井住友銀行)入行、2016年より中小企業再生支援全国本部(現中小企業活性化全国本部)プロジェクトマネージャーを務め、2022年4月より現職。
・茂木俊裕氏
事業再生プロジェクトマネージャー
2003年中小企業診断士として独立。同年、外部専門家として協議会案件に関与。2004年千葉県中小企業再生支援協会統括責任者補佐に着任。17年間の協議会経験を経て、2021年中小企業再生支援全国本部(現中小企業活性化全国本部)事業再生プロジェクトマネージャーに着任。
―中小企業活性化全国本部の役割、ミッションは
(松田)活性協は、各都道府県に設置され、中小企業の収益力改善、事業再生、再チャレンジ等を支援する公的な支援機関である。全国本部は、47都道府県の活性協が、それぞれの地域特性や金融機関の構成等を踏まえ、適切な支援を行えるようサポートする役割を担っている。個別企業への支援において前面に立つのは各地の活性協であるが、全国本部では各協議会と意見交換を重ねながら、運営面や案件対応の面で支援を行っている。
また、各活性協の取り組みや考え方にばらつきが生じないよう、運営面でのすり合わせを進めることも重要な役割である。このほか、許認可や税務が絡むような複雑な個別案件への対応、運営や広報活動の支援等も行っている。
さらに、各活性協における案件対応が適切に行われているかを確認する事業評価も実施している。相談を受けたものの、本来であれば何らかの支援につなげられた可能性があったケースなどを分析し、今後の支援の充実に生かす取り組みなども進めている。
研修事業の充実にも継続的に取り組んでいる。金融機関向けや各専門家向けのフォーラムや、シンポジウムに加え、各活性協が地元金融機関や信用保証協会等から受け入れるトレーニーを対象とした研修も実施している。このトレーニー研修制度は、活性協が有する再生支援に関する知見・ノウハウを地域に還元し、地域における再生支援の質の向上および再生分野に携わる専門家ネットワークの構築に資することを目的として、2022年度から実施している。これまでに400名を超えるトレーニーが参加しており、今年度も100名超が受講する見込みである。こうした取り組みを通して再生支援の人材の育成を図るとともに、活性協の事業に対する理解促進にもつなげている。
インタビューに応じる松田統括
―2022年に「中小企業再生支援協議会」(以下、支援協)から再編され、活性協が発足した。どのような変化があったのか
(松田)前身組織の支援協は2003年にスタートした。当時、支援協から支援を受けるというと、周囲から「墓場行き」との印象を持たれることもあった。実際はそうではなかったのだが、2003年に支援協の発足時は「実抜計画」(実現可能性の高い抜本的な経営再建計画)を達成する計画以外は取り扱わなかった。「3、5、10」(3年以内の黒字化、5年以内の実態債務超過の解消、計画最終年度の有利子負債キャッシュフロー倍率を10倍以内にする)がスタンダードになり、これを遵守するところから始まった。このため、相談の時点ですでに「無理」と判断して断っていた時期もあった。
ところが、2011年に制度改正され、暫定リスケ計画を策定できるようになった。数値基準にこだわらない計画の策定が可能になった。これで案件数が一気に増え、最も多い年で年間2537件を取り扱った。
2018年9月の再チャレンジ支援制度のスタートも大きな変化となった。さらに2022年に活性協に切り替わり、中小企業活性化パッケージが公表され、その際に活性協の支援メニューが一新された。収益力改善フェーズ、再生フェーズ、再チャレンジフェーズの3段階を規定し、それまでは再生局面や、厳しい経営状況の事業者対応しかできなかったが、以降は、厳しくない状況でも人間ドックのような使い方や廃業支援まで可能になった。
(佐藤)このタイミングで、名称も中小企業活性化協議会となり、それまでは、再生フェーズの中小企業に対し、暫定リスケを含む再生支援を行うことが中心であったが、活性化パッケージによって、より一元的な支援を行うことができるようになった。ここが大きな転換期だったと言える。
従前、活性協は裏方で良いとの考えから広報も積極的ではなく、支援している事がわからないように非常に気を使いながら活動してきた。そうした配慮は今でも続けているが、活性協となって、支援メニューも増えたことで、より多くの人に知ってもらい、広報にも力を入れるようになった。
(松田)支援事業に携わった専門家や、窓口相談、計画策定を実施した企業向けの外部評価アンケートでは、いずれも高い評価をいただいている。ただ、我々に相談に来られる企業は、中小企業の比率からすると氷山の一角で微々たるもの。再生局面にある企業は全国で40万者。中小企業者全体(320万社)の8社に1社が再生フェーズにある。肌感覚ではさらに多いと感じている。ニーズがあるにもかかわらず、なかなか広がらない点は課題に感じている。
―パートナーとして、公的な機関としての活性協を選択するメリットは
(松田)最も大きい点は、公正中立な立ち位置と言えるだろう。再生計画の策定には大きく通常型と検証型という2パターンがあり、我々のスキームは基本的には通常型となる。
これは、活性協が委嘱した外部専門家の診断を受けてもらい、外部専門家は診断結果を報告する。これが終われば、今度は診断した外部専門家が我々と同じ公正中立の立場で計画策定を支援する。再生計画案を作るのはあくまで会社で、全責任は会社にある。これが、中立に立つ活性協の基本的なやり方だ。金融機関主導となると、どうしても金融機関が自身のペースで進めたがる。結果、活性協が入ると時間がかかる、うるさい、面倒との見方をされることもある。それでも一番の特徴は公正中立の立場だと考えている。
検証型は、会社が依頼した専門家が診断し、策定した計画書を協議会が委嘱した外部専門家が診断結果の適切性、計画の実現可能性、金融支援の必要性、相当性、衡平性等を検証し、対象債権者に提示することとなる。
このほか専門家費用の補助ができるので、事業者の負担が減る。
また、協議会が委嘱した専門家のレベルの高さも挙げられる。高いレベルの専門家とのネットワークがある点も大きな強みだ。
(佐藤)公正中立の立場で、対象の中小企業と金融機関の関係性がその後も継続していけるように計画を策定支援することも主な目的だ。金融調整を通じて金融機関に一定の負担を負ってもらうことになるが、活性協は計画作成時の調整能力に関して、評価を頂いていると自負している。金融機関の数が多ければ多いほど、活性協の調整能力が効果的ということも多い。

活性協の意義を説明する佐藤副統括
―持ち込まれた案件の難易度はどういう点が影響するか
(松田)比較的まだ痛みが少なく、不適切会計がなく、経営者も会社の状況を理解して誠実に経営に取り組んでいる案件は、取り組みやすい。
ただし、大半の事業者には何らかの不適切会計があると考えたほうがいい。問題はその悪質性だ。税務会計と財務会計は全く異なる。税務会計では、利益の先送りには厳しいが、利益の前倒しについては問題視されにくい面がある。また、経営者がよく理解できておらず、会社の会計と家計を混同しているケースも多い。
―再生がうまくいくポイントは
(茂木)これまでの再生支援の現場での経験上、再生が順調に進んだ企業には共通項があると感じている。1点目は経営者に危機感があり、それを持ち続けているということ。もう二度とこのようなことにはならないといった危機感を持ち続けているケースだ。
2点目は、専門家によるデューデリジェンスや、再生計画の策定をきっかけに、その後も数字の見える化に取り組み、数字に基づいた経営を続けている会社。
そして、最も大きいと感じる3点目は、従業員を巻き込むこと。再生は経営者の取り組みだけでは進めることは出来ず、いかに従業員を巻き込んでいくのかが重要である。従業員に感謝し大切にしながら再生を進めていくという点だ。

再生実務を説明する茂木氏
経営者と従業員の関係性は会社によって異なるため、情報開示を含め、どのように巻き込むかはそれぞれである。大事なことは、現在自分たちの置かれている状況は厳しい状況ではあるが、一丸となって取り組めば再生に向かうことができるという点を示すことだと感じている。
こうした私なりの経験則を持っているが、全国本部で調べたところ、再生が早期にうまく進んだ会社は、早く相談に来た会社が圧倒的に多いこともわかった。
(松田)素直さや誠実さもポイントだ。問題点を指摘したら直ぐに是正する。どんなアイデアでも良いと思ったら実行に移す。報告や相談を欠かさない。こうした経営者は再生も早かったと感じる。我々はあくまできっかけ作りしかできない。経営者自身がこれらを自律的に取り組めるかにかかっている。
(佐藤)素直さ、誠実さという点では、 自身に非があるのにそれを認められない経営者は難しい。非を認めずに取り繕ってばかりだと、どこかで破綻してしまう。非を認め、誠実に謝罪すれば、今は金融機関側もある程度は受け入れてくれることが多く、助けてくれる人が現れ、我々もその手伝いがしやすくなる。
―経営者が乗り越えるべき課題や、金融機関の役割とは
(松田)自身が一生懸命働いていることを免罪符にしている経営者は多い。厳しい言い方になるが、結果が出なければそれまでである。小規模事業者であるほど、経営管理に関して知識が不足している人が多い。決算書も見ず、月次の試算表も確認していない。会計ソフトに入力すらしたことない経営者も多い。
(佐藤)手元資金が詰まりそうになってようやく危機的な状況に気づく。そうなると手の打ちどころがなくなって、できることも限られてしまう。とはいえ、本業が大変で資金繰りは経理に任せっぱなしの会社も多い。だから、もっと声をあげてほしい。困っているということを遅くないタイミングであげてほしいと考えている。
日本人経営者は総じて真面目で、他人に迷惑かけたくないという気質だ。ただ、自分で抱え込んで、結局は迷惑をかけてしまうことになる。困ったら困ったと言える環境づくりが重要だ。
(松田)赤字になるのはどこかに問題があるということ。それを危機的状況と考えず放置しているケースは多い。自分自身では振り返れないこともある。それに対して金融機関も厳しく指摘しなくなった。
デットガバナンスという概念はあるものの、コンプライアンス対策の一環で優越的地位の濫用に対しては金融機関が非常にセンシティブになってしまったと感じる。
(佐藤)本来は金融機関がしっかり見ていくべき。ただ、それが難しい状況であれば、背中だけでも押してほしい。「(活性協のような機関に)相談してはどうですか?」という声掛けだけでもやってほしいと思う。
例えば本業には長けているが、マネジメントが弱いような場合は、経営をマネジメントできる人材がいれば会社は回る。経営者が全て自分でやろうとするのは難しいので、本来は貸手である金融機関もフォローすべき。私も銀行出身なので、本当はやりたかったが、そこまで時間を割けられないというジレンマも理解できる。
目利き力も試されるなかで、AI時代になっても自身で判断できる金融マンが増えていって欲しい。
(松田)いい銀行というのは結局、良い取引先を持っている銀行だ。銀行が良いのではなく、取引先が良いから銀行が良くなる。であれば、良い取引先の数を増やしていくことこそが、銀行が生き残る道ではないか。こうした視点がなければ、地域経済はますます疲弊する。
(佐藤)地域金融機関は地域の中小企業と運命共同体。特に地方では取引先が潰れても、新しい会社が次々生まれる状況にはない。経営が悪化している企業を再生できるのであればなんとか再生させ、地域経済を活性化する。その手伝いこそが我々の役目と考えている。
―経営者にメッセージを
(松田)一人の能力には限界があるから、一人で悩まないことが大切である。賢い経営者ほど、一人で抱え込まず、周囲の力をうまく活用している。活性協はどんなご相談でも応じるので、とにかく相談してほしい。時には、事業の継続だけでなく、廃業を含めた選択肢を検討した方がよいケースもある。事業の失敗が人生の失敗ではないので、やり直しはきく。ただ、決断を先送りし続けることで、やり直しが難しくなってしまう可能性もある。「もっと早く活性協の存在を知っていればよかった」というご意見を頂戴することは多い。悩まずにご相談に来てもらいたい。
(茂木)経営環境が大きく変わり、先の見えない時代ではあるが、事業の見直しが必要な場合には支援機関や専門家への相談が大変効果的である。自身のことは意外と自分ではよくわからないことが多い。外部から悪いところだけでなく、真の強みを発見してもらい、それを活用して、より良い方向に進めることである。専門家、支援機関に相談しない手はないので、是非早めに相談して頂きたい。
(佐藤)以前に比べて、活性協の支援メニューは多岐に渡っている。仮に事業状態が悪くない状況でも、相談は、一種の会社の健康診断ととらえてもらって構わない。常駐している専門家が居るので、早いタイミングで遠慮なく相談に来て欲しい。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年9月10日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)