失業なき労働力移動の行方 ~窮境状態にある業種と「人手不足倒産」発生率の相関~
ヒト、モノ、カネ、情報――。
経営資源の配分は、各企業がその時々の最適を探っている。赤字法人率が6割を超え(※1)、人手不足に陥る企業も少なくない。今回は4つの経営資源のうち、「ヒト」「カネ」に注目し、業績が窮境状態に置かれ、かつ人手不足にも悩まされる業種に迫った。
具体的な集計方法は、日本標準産業分類(中分類)を基に、2016年度~25年度の企業倒産に占める「人手不足」倒産(5,212件)の業種別倒産発生率(※2)と、2026年3月期を起点に逆算し、経常赤字が3期以上続いている企業を「窮境」と定義。母数の10%以上が窮境と判定された業種を集計した。
なお、集計対象は算出結果に影響を与えやすい大企業と、業種「外国公務」「国家公務」「地方公務」「政治・経済・文化団体」、集計期間に人手不足倒産が発生しなかった業種を排除し、中小企業(※3)に限定した。
※1 東京商工リサーチ2026年4月23日発表「2026年公表都道府県別・赤字法人率調査」
※2 業種別倒産発生率は、業種別の企業倒産件数を分母とし、人手不足関連倒産件数(「従業員退職」「求人難」「人件費高騰」「後継者難」)で割った値
※3 中小企業は、中小企業基本法の定義による
上位3業種が労働集約型
3期連続で経常利益が判明し、かつ500社以上の業種を軸に最も窮境状態にあり、人手不足倒産も発生している業種は、「学校教育」だった。
次いで、「社会保険・社会福祉・介護事業」、「道路旅客運送業」、「金融商品取引業,商品先物取引業」、「織物・衣服・身の回り品小売業」と続く。
私立学校や自動車教習所をはじめとする「学校教育」は少子化に伴い、収益確保が難しく、地方を中心に統廃合が進んでいる。「学校教育」の赤字企業比率は18.08%で、集計期間内の倒産は17件だった。そのうち、2件が人手不足を要因としており、母数は17件と少ないものの、人手不足を要因とする倒産発生率は11.76%だった。
次いで、有料老人ホームやデイサービス事業など「社会保険・社会福祉・介護事業」の赤字企業比率は、16.41%だった。総人口に占める65歳以上の割合が約3割(令和7年版高齢社会白書、内閣府)の超高齢社会を支える。物価高や人件費高騰の影響を受け、福祉・介護サービスの低下にもつながりかねない。
集計期間内の1,780件の倒産のうち、176件が人手不足による倒産で、「人手不足倒産」発生率は9.88%だった。
バスやタクシーなど、有償で旅客を運送する「道路旅客運送業」の赤字企業比率は14.28%で、集計期間内の「人手不足倒産」発生率は13.70%だった。バス路線の廃線や、地方における乗合タクシーの利用促進は、運転士不足を表している。
タクシー業を中心とするブルーカラー業種は「稼げる」「手に職をつけられる」として、人気が高まっているといわれる。ただ、人手不足を改善できるかは、地域差を含めて不透明な状況だ。
上位10業種のうち5業種がサービス業他
上位業種には、「飲食店」や「医療業」も含まれ、上位10業種のうち5業種がサービス業他だった。
「飲食店」の赤字企業比率は13.10%で、集計期間内の「人手不足倒産」発生率は4.44%だった。大手チェーン店を中心に、モバイルオーダーやロボットによる配膳など省人化が進む。
一方で、設備投資が難しい中小企業や外国人労働者に頼る企業は人員確保に難航する。外食産業での外国人労働者の受け入れ一時停止は、当初予定していた人員確保が難しくなり、今後の人手不足に拍車がかかる恐れがある。
「医療業」の赤字企業比率は、12.74%で、集計期間内の「人手不足倒産」発生率は8.12%だった。地域医療をめぐり、経営が成り立たない状態が続くと、適切な医療サービスの提供が危ぶまれる可能性も指摘される。

非労働集約型は「人手不足」が発生しづらい
投資運用業などの「金融商品取引業,商品先物取引業」や、パチンコ店やゴルフ場など「娯楽業」は、労働集約型の業種と比べて「人手不足倒産」発生率は低い。
具体的には、「金融商品取引業,商品先物取引業」の赤字企業比率は14.26%で、集計期間内の「人手不足倒産」発生率は2.66%だった。「金融商品取引業,商品先物取引業」は「貯蓄から投資へ」と資産形成の在り方が変化する中で、業種内の競争が激しい。
一方で、「娯楽業」の赤字企業比率は11.37%で、集計期間内の「人手不足倒産」発生率は3.04%だった。
例えば、パチンコ店は風営法などの規制が厳格で、ゴルフ場は広大な土地の維持・管理に莫大な費用がかかり、体力のある企業だけが生き残りやすい。
しかし、「金融商品取引業,商品先物取引業」「娯楽業」の業績は右肩上がりだ。業績が好調な企業の影に、業績不振企業が隠れていると考えられる。また、市場から退出する際は「倒産」以上に、「休廃業・解散」という手段をとっているケースが多い。
両業種の業績は好調に映っているようで、市場の中身は大きく変化している。激化する競争や衰退する環境下で、残存者利益を得た企業で市場を占めている可能性もある。


2種類の窮境状態
集計対象の「人手不足倒産」発生率は6.44%で、赤字企業比率が高い上位3業種は、「人手不足倒産」発生率も高い傾向にある。
労働集約型の業種は、人件費の高騰をはじめとするコストアップの影響を受けやすく、窮境状態でなおかつ人手不足にも悩まされやすい。
一方で、非労働集約型の業種は人手に関わらず、業種内の環境変化が赤字企業比率の高さに表れている。労働集約型の窮境状態とは要因が異なるといえる。
集計対象外の3期連続で経常利益を取得できなかった企業にも、赤字企業が含まれているため、本集計より各業種の窮境状態は深刻だろう。
立て直すための選択肢
窮境状態におかれ、「人手不足倒産」発生率が高い業種は、業績の立て直しと人員確保に努めなければならず、賃上げも求められるなかでは人員確保も容易ではない。
業況の悪化に伴い、やむなく人員整理を行う際は、「失業なき労働力移動」も選択肢になり得る。「失業なき労働力移動」は、従業員にとっては職を失うリスクがなく、受け入れ企業にとっては、助成金を受けながら人員を確保することができる。一方、送り出す企業は、残された人員で事業を立て直さなければならず、労働力の適正化がかえって、受注(業績)不振や人手不足に悩まされる恐れがある。
生産年齢人口の減少に伴い、人手不足と叫ばれるようになって久しいが、業種によって濃淡がある。いま一度、業況と合わせて考え直さなければ、業種間の格差は広がるばかりだろう。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年8月27日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)