限りある労働力の適正化に向けて ~ 雇用者数平均からみる地域産業の変化~
生産年齢人口の減少や人員配置の見直し、より良い労働条件への転職など、働く人の移動が進み、業種間の雇用に偏りが生じている。
2025年度の全国の企業倒産(負債額1,000万円以上)は、1万505件(前年度比3.5%増)と4年連続で前年度を上回った。このうち、人手不足に起因した倒産は442件(前年度比43.0%増)発生し、従業員退職が108件(同40.2%増)と4割を占めた。
業種や地域の雇用者数の偏りをみるため、東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースから業種別に雇用者数平均(雇用者数(※1)÷企業数)を算出し、分析した。
集計方法は、日本標準産業分類(中分類)に基づき、2023年4月(以下、2023年)と2026年4月(同、2026年)の雇用者数平均を都道府県別で集計した。なお、集計対象は算出結果に影響を与えやすい「大企業」、「国家公務」「地方公務」「外国公務」を除く、中小企業(※2)の雇用者数に限定した。
※1 雇用者数は、パート・アルバイトを除く「正社員」
※2 中小企業は、中小企業基本法の定義により抽出
人材の二極化
2023年と2026年の雇用者数平均を比較し、全国で雇用者数平均が増加した業種は全96業種のうち、36業種だった。なかでも、「航空運輸業」で増加幅が大きかった。
「航空運輸業」はコロナ禍で旅客・貨物ともに需要が落ち込み、採用中止や採用数を抑制した企業が多かった。だが、コロナ禍後は一転してマーケットが回復し、雇用者数平均が増加したとみられる。

一方、雇用者数平均が減少した業種は57業種だった。特に、減少幅が大きい上位には、「水道業」「銀行業」「ガス業」が並んだ。
「水道業」「ガス業」などの公共インフラは、スマートメーターの導入が進み、検針員による巡回・検針の機会が減少している。「銀行業」は、支店統合による人員配置の見直しが影響したとみられる。ただ、対面回帰の動きもあり、今後、平均値が変動する可能性を残している。
約6割の業種で雇用者数平均が減少したが、最も減少幅が大きかった「水道業」でも14.07人/社の減少にとどまり、生産年齢人口の減少による自然減の可能性を残している。

大企業の進出が雇用者数平均に影響か
都道府県の特徴を分析した。
全国では、「銀行業」152.94人/社が最も多かった。次いで、「鉄道業」138.67人/社、「協同組織金融業」109.92人/社、「水道業」75.09人/社、「航空運輸業」67.15人/社と続く。
上位業種のうち、「航空運輸業」を除いた業種で雇用者数平均が減少した。

2024年後半に本格的な量産を開始したTSMCが進出した熊本県は、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」の雇用者数平均が最も高かった。2023年の雇用者数平均は351.10人/社だったが、2026年は408.66人/社へ57.56人/社増加した。雇用者数平均からみても、半導体製造の集積地帯へと変貌していく地域のインパクトが表れている。
2026年の上位業種のうち、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」「非鉄金属製造業」「鉄道業」「生産用機械器具製造業」を除いた業種で、2023年比で雇用者数平均が減少した。「電子部品・デバイス・電子回路製造業」「非鉄金属製造業」が大きく盛り上がる一方で、他業種の雇用者数平均に影響を与えた可能性がある。
2026年7月28日、「令和8年熊本地震」が発生した。度重なる天災に屈しない地域産業の成長を期待したい。

北海道は、2023年(137.44人/社)と2026年(128.34人/社)ともに、「協同組織金融業」が最も多かった。2026年の上位業種のうち、「航空運輸業」「ガス業」「電子部品・デバイス・電子回路製造業」「鉄道業」で、雇用者数平均が増加している。
半導体製造のRapidus(株)(千歳市)は、2027年から量産開始を予定している。現在、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」の雇用者数平均は、0.47人/社増と微増だが、熊本県の先例にならうと、量産開始の前後から同業種の雇用者数平均の増加が見込まれる。
「通信業」(25.43人/社減)「道路旅客運送業」(10.03人/社減)は、大きく雇用者数平均が減少した。

石川県は、2024年1月に発生した、「令和6年能登半島地震」の影響で、これまでの就業環境が一変した。熊本県と同じく、県内の雇用者数平均では「電子部品・デバイス・電子回路製造業」が134.80人/社と最も多かったが、2023年比で11.97人/社減となった。
また、「鉄道業」も51.34人/社減と、減少幅が大きく、地域の足への影響も懸念される。

今後の動向に注目
コロナ禍は、企業は人員配置を、雇用者はライフスタイルを、見直す契機にもなった。雇用者数平均が減少した業種は、産業の衰退だけでなく、労働力の適正化・省力化の広がりが影響した可能性がある。
働く意思のある人を包含する労働力人口は増加するが、生産年齢人口は減少している。このギャップの中で、労働力の適正化が進んでも人手不足に苦慮する業種は出てくる。
また、大企業の進出が地域の雇用者数平均に影響を及ぼすことも否定できない。だが、産業間の偏りは民間だけでは解消しにくい。
政府の「地域未来戦略」が打ち出す「3つのクラスター計画」で、17の戦略分野や地域産業に関わる業種と人手不足に悩む業種の乖離をどう是正するか、目が離せない。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年8月3日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)