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企業価値担保権のポテンシャルと実務上の留意点 ~ 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 インタビュー ~

 事業性融資推進法の施行から1カ月が経過した。新法の目玉である「企業価値担保権」は、これまでの融資に対する考え方を大きく変える可能性を持つが、周知や理解には課題もある。金融機関からも「手探り状態のスタート」という声があがる。
 東京商工リサーチ(TSR)は、ファイナンス分野で多くの知見を持つ、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業(渥美坂井法律事務所弁護士法人、TSRコード:294629548、東京都)の根津宏行弁護士、細井文明弁護士に専門家の立場から、企業価値担保権の特徴や実務上の留意点の話を聞いた。


■渥美坂井法律事務所・外国法共同事業

 根津 宏行(ねづ・ひろゆき)弁護士(東京弁護士会所属)/事業性評価アドバイザー
  1994年 早稲田大学法学部卒業
  1998年4月 検事任官
  1999年11月 渥美・臼井法律事務所(現:渥美坂井法律事務所・外国法共同事業)入所
  各種ファイナンス/危機管理案件を担当

 細井 文明(ほそい・みちあき)弁護士(第二東京弁護士会所属)
  1999年 東京大学法学部卒業
  2002年 渥美・臼井法律事務所(現:渥美坂井法律事務所・外国法共同事業)入所
  各種ファイナンス案件(コーポレートローン、プロジェクトファイナンス、アセットファイナンス、その他)を担当

―事務所の特色や強みは

(根津)1994年に渥美・臼井法律事務所として設立した。金融・ファイナンスに特化したブティックローファームが起点で、当初から金融分野の流動化や証券化等を取り扱ってきた。現在は国内系初の外国法共同事業としてクロスボーダー案件も強みとし、ニューヨーク、ロンドン、フランクフルト、ブリュッセル、ホーチミンなどを拠点に、国際案件も手掛けるようになった。
 また、事務所内に「プロトタイプ政策研究所」を持ち、大学教授や外部の専門家と共にAI、IT、個人情報保護などテクノロジー分野を含め最新の研究や政策提言も行っている。
 企業価値担保権も、我々が長年得意としてきたABL融資などの延長線上にあり、法律が後押ししてくれている感覚を持っている。


インタビューに応じる根津弁護士

インタビューに応じる根津弁護士

―企業価値担保権の特徴や活用分野は

(細井)最も大きな特徴は、会社の総財産(全資産)が包括的に担保対象になる点だ。
 以前から企業担保権という類似の制度があったが、被担保債権が社債に限定され、実質的に大企業しか使えない上に、担保としての効力も弱かった。私自身、20年以上のファイナンス実務の中で同制度を利用した案件を一度も担当したことがない。新制度は事実上、日本の融資実務にとって中小企業も対象とした初の包括担保の試みとも評価できる。
 全資産を対象とすることから特定の財産だけを除外することはできないが、裏を返せば細かい担保の特定手続きをせず、一括で設定できるという実務上のメリットもある。不動産を持たないスタートアップ、独自の事業性を持つ中小企業にとっては、資金調達の可能性に繋がる意義深いツールになるはずだ。

―既存担保権との調整が必要になる

(細井)既存担保権との優先関係は原則として対抗要件の具備の前後で決まるので、仮に他行の不動産担保が設定されている場合、あとから設定する企業価値担保権の利用は難しいかもしれない。実務上のシナリオとしては、企業価値担保権を設定するタイミングで、既存の他行債権をリファイナンスして担保を外すという形が多くなるだろう。リファイナンスが難しい場合の調整実務は、今後の状況次第といえるだろう。

―1行取引ではないと活用しにくいのか

(細井)制度上は、追加融資に対応するための極度額の設定が認められており、あとから他の銀行が参加する余地は残されている。ただ、金融機関同士の足並みを揃えるのは容易ではないと思われる。

(根津)企業価値の評価、つまり将来のキャッシュフローの予測は、デット(融資)というよりエクイティ(出資)の要素が大きく、ファンドの目線に近くなる。事業の伸びしろをどう評価するかは金融機関によって温度差が出るため、協調融資(シンジケートローン)にすると、全員が合意できる一番低い評価額に引っ張られてしまう懸念がある。そのため、1行単独の方が、制度のポテンシャルを発揮しやすい面はあるだろう。

(細井)一方で、ノウハウのない金融機関が、メガバンク主導のシンジケートローンに参加することで、管理などの経験を積んでいくことも想定でき、シンジケートローンでの活用自体は十分に意義があると考えている。


 企業価値担保権について語る細井弁護士

企業価値担保権について語る細井弁護士

―金融機関側にはどのような管理や体制が求められるか

(細井)月次のキャッシュフロー管理やモニタリング、これに伴う社内体制の整備が必要となる。ただし、例えば大規模なLBO(買収融資)のように厳格なコベナンツで縛ってしまえば、中小企業の使い勝手は悪くなり、本末転倒だ。成長を抑え込まないように、企業の規模や事業の内容に見合った現実的なガバナンス設計に落ち着かせる必要があり、具体的なコベナンツの水準・内容は借り手と貸し手で協議をすることが特に重要となる。

(根津)最も重要となるのは、最初の事業性評価(目利き力)だ。金融庁は、財務データをもとに計算上で将来予測を立てる評価も容認しているが、これだけでは計画が未達だった際に何が悪かったのかの検証も、金融機関側のコンサルティングも不十分だ。
 本来は、その企業が持つ独自の技術力や商流の実態を積み上げて把握する評価が必要だ。いきなり全ての金融機関がこれをやるのは難しいが、例えば金融庁が公表している「業種別支援の着眼点(運用のチェックマニュアルなど)」を活用するほか、地域の地場産業に特化して目利き力を磨くなど、アプローチはある。財務分析だけに頼らず、企業の実態を掴む。それこそが本来のバンカーの仕事であり、新制度はその原点回帰を促す法的な後押しになる。

―事業承継の場面での活用は

(細井)経営者が高齢となり、親族外の生え抜き社員などが事業を引き継ぐ事業承継の場面では、その資金調達の一方法として有効だ。後継者にとって、数億円規模の個人保証や担保を求められることは最大の心理的ハードルと言える。企業価値担保権を利用する場合、個人保証等の行使は制限される。事業をよく理解している金融機関が伴走し、個人保証なしで事業資金・成長資金を託すという意味で、適合的な制度である。

―法的・私的整理の局面で、企業価値担保権はどう機能するか

(細井)事業性融資推進法では、倒産手続きが開始された場合のルール及び、企業価値担保権の実行手続きとの関係が定められている。 
 概要を言えば、会社更生手続きが開始された場合は会社更生が優先され、企業価値担保権もその手続き内に取り込まれるため、これまでと制度上の大きな変動はない。
 一方で、民事再生手続きとの関係では、基本的には企業価値担保権の実行手続きが優先される。担保権の実行により原則として民事再生手続きの進行は中止することになっており、民事再生への影響は小さくない。
 ただ、事業価値が完全に傷んでしまい、清算価値がゼロになるような末期の段階になってから企業価値担保権の実行に動いても、回収のハードルは高く、担保実行費用すら賄えずに廃止・消滅に至るだけだ。
 この制度の本質は、事業が完全に傷む前の段階で、事前にコベナンツを介して情報を共有し、借り手と貸し手が早期に協議を行う点にある。これによって、雇用関係や主要な取引関係を維持したまま、法的倒産手続きに至る前に迅速に事業譲渡等を行い、事業を継続させるという新しい運用のプラクティスが生まれる可能性がある。

(根津)再生計画が固まり、再跳躍するイグジット・ファイナンス(出口融資)の段階や、有事の初期段階でこれまで不適格とされていた動産等も含めて丸ごと企業価値を担保に取ることで、追加融資(DIPファイナンス)を実行するといった場面では、有力な選択肢が増えたと言える。


ファイナンス実務に強みを持つ総合法律事務所

ファイナンス実務に強みを持つ総合法律事務所

―読者へメッセージを

(細井)金融機関側に比べて、事業者(借り手)側への周知にはまだ大きな格差があると感じる。
 経営者の方々の中には、会社の全資産を丸ごと担保に取られると、日々の経営や事業の自由が完全に拘束されてしまうのではないかと過剰に警戒される声もあるが、誤解だ。
 通常の事業の範囲内の活動であれば、担保権者の不当な口出しを受けることなく、自由にビジネスを継続できることが法制度の大前提だ。まずは過度な恐れをもたず、資金調達の新たな一手段としてご認識、ご利用いただけるよう、法律実務家の立場から微力ながら尽力したい。

(根津)経営者として金融機関から深く中身を見られたり、口を出されたりすることに抵抗があるという心理は理解できる。しかし、口を出さずにただお金だけを貸してくれる都合の良い相手は市場には存在しない。
 これまでの融資は、手持ちの不動産の担保価値がいくらあるか、という枠の中に縛られ、金利条件や担当者の人柄くらいでしか銀行を選べなかった。しかし、これからは自信を持っている独自の技術、人脈、あるいはこだわりといった目に見えない企業価値を、最も高く、深く評価してくれる銀行を経営者側の意思で選ぶことができる時代になった。
 また、融資を申し込む際、銀行から言われた書類を言われた通りに出す受動的な姿勢や、コンサルタントに多額の費用を払ってテクニカルな事業計画書を作ってもらう必要はない。
 自身の事業の強みは、自分たちが一番よく知っているはずだ。第三者の客観的な評価書(例えば特定非営利活動法人日本動産鑑定が提供する事業性評価書)なども上手に活用しながら、積極的に働きかけ、最高の伴走者となってくれる金融機関を選び抜く。ポジティブな経営戦略の道具として、この企業価値担保権を使いこなしていただきたいと考えている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年6月25日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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