2027年3月期「期初予想非開示」65社 ナフサなどの調達不安から、最多は「化学」
~ 3月期決算上場企業「業績予想非開示企業数」調査 ~
米国とイスラエルによるイラン攻撃を発端とする中東情勢の影響で、企業環境に大きな影響が生じている。この余波を受け、自社を取り巻く環境の先行きを見通せず、 2027年3月期の業績予想を非開示とした企業が65社に達することがわかった。
上場企業は決算発表と同時に、当期業績予想を開示する。だが、2027年3月期決算の企業を中心に、世界のエネルギー市場を混乱させた中東情勢の余波が広がっている。6月15日、米国とイランが戦争終結に向けた合意に署名したと報道されたが、開示した企業でも想定と異なる情勢変化により業績の修正を行う企業も今後出てくる可能性が高い。実際、既に製造に必要な原料不足の影響が緩和されるなどの理由で、期初予想から1カ月程度で業績予想を上方修正した企業もある。
本調査は、中東情勢など外部環境による影響をより可視化するため、外部環境に関係なく毎年ほぼ全ての企業が業績予想を非開示とする証券業種「証券、商品先物取引業」、および上場廃止予定の企業を集計対象から除外した。また、売上高、営業利益、純利益など、1項目でも予想を開示した企業は除いた。
東京証券取引所(以下、東証)は、「業績予想開示に関する実務上の取扱いについて」で、将来予測情報の開示に関する基本的な考え方を示している。
そこでは、「投資者の投資判断に有用な将来予測情報の積極的な開示を上場会社に対して要請」している。ただ、将来予測情報の開示の具体的な方法は、決算短信等における「次期の業績予想」の形式に限定されるものではない。
個社の事情を踏まえ、投資家の判断材料として将来の業績予想に有用と思われる情報を定性的な記述で行うことを想定。投資家への積極的な情報開示を促している。
※ 本調査は、自社開示、金融庁・東証などの公表資料に基づき、2027年3月期業績予想を非開示とした企業を集計した。
※ 5月末までに2026年3月期決算を公表した企業を集計対象とした。決算発表を6月以降に延期した企業は集計対象外。
※ 売上高、営業利益、純利益など1つの項目でも予想を開示した企業は除外した。
※ 上場廃止予定を理由に非開示とした企業、TOKYO PRO Marketだけの上場企業、不動産投資法人(REIT)は除外した。
※ 証券業種「証券、商品先物取引業」の企業は、外部環境に関係なく毎年ほぼ全ての企業が業績予想非開示のため、除外した。
※ 本調査は、今回が初めての実施。過去のデータも今回の調査の一環で収集した。発表時点で上場している企業が対象。
トランプ関税で非開示の前年を大きく上回る
2026年3月期本決算で、次期(2027年3月期)の業績予想を非開示としたのは65社(前年比75.6%増)だった。トランプ関税が打ち出された2025年同期は37社だったが、今回の中東情勢の影響の広がりを示した格好となった。
2027年3月期の業績予想を非開示とした理由は、中東情勢の影響を明記した企業が40社と目立った。この他、中東情勢の影響以外で、資産整理に伴う特別利益・特別損失の確定に時間を要する企業、具体的な内容を示さず「未確定な要素が多い」とした企業などがあった。

証券業種別 2027年3月期の業績予想非開示は「化学」が急増
2026年3月期の本決算発表で、2027年同期の業績予想が非開示の企業を証券業種別にみた。最多は、「化学」の17社(前年比14社増、構成比26.1%)で、4分の1を占めた。
「化学」の17社すべてが、非開示の理由に「中東情勢」が一因と明記した。なかには、「当社製品製造に不可欠なナフサ由来の原材料等の調達の不安定さ」、「原料不足による生産量の減少と原料高による採算悪化」など、具体的な影響に踏み込んで記載する企業もあった。
「電気・ガス業」は6社(前年比4社増、構成比9.2%)で、各地域の電力小売大手が目立った。6社のうち、東京電力ホールディングス(株)(プライム)、中部電力(株)(同)、東北電力(株)(同)、沖縄電力(株)(同)の大手電力会社4社は、いずれも中東情勢の影響が不透明であることを非開示の理由とした。なお、東京電力ホールディングスは、柏崎刈羽原発の再稼働時期を見通せないことを理由に非開示とした2025年3月期、2026年3月期の各期初予想に続き、3期連続で非開示とした。
「卸売業」は6社(前年比4社増、構成比9.2%)だった。6社中3社が中東情勢の影響が不透明であることを非開示の理由と明記した。
一方、トランプ関税の影響が不透明として2026年3月期の期初予想を非開示とした企業が4社だった「輸送用機器」は、2027年3月期の期初予想を非開示とした企業は1社にとどまった。
トランプ関税の影響は、関税発動前の駆け込み需要やその後の反動減、およびトランプ政権による政策の変更などにより、先行き不透明感が強まったが、生産能力への影響は軽微だった。
しかし、今回の中東情勢の混迷は、ナフサなどの生産に必要な原材料の調達問題が大きく、需要の変動を問わず、生産能力に直接的な影響を及ぼす可能性があり、原材料の仕入価格や自社製品の販売価格も不透明さを増している。こうした事情が、トランプ関税の影響があった2026年3月期の期初予想と比べ、2027年3月期の期初予想を非開示とする企業が多い背景にあるとみられる。

市場別 「スタンダード」が39社で最多
市場別では、「スタンダード」が39社(前年比2.0倍、構成比60.0%)で最多。次いで「プライム」が20社(同42.8%増、同30.7%)、「グロース」は5社(前年25.0%増、構成比7.6%)だった。
証券業種別が化学の企業に絞ると、「プライム」が9社、「スタンダード」が8社で、プライムがスタンダードを上回った。
「グロース」市場に上場する企業は、情報・通信業など直接的に中東情勢の影響を受ける企業が相対的に少ないため、期初予想非開示企業も少ない傾向にあるとみられる。

期初予想の開示方法に工夫の余地
上場企業の期初予想は、会社の目標であり、投資家の投資判断にもなることから、通期の業績予想、および第2四半期までの業績予想を、特定の数値で開示することが一般的になっている。
しかし、昨今は国際情勢の変化、AIなどの新技術の台頭などで、企業が先行きを予想することは難しくなっている。
日本の上場企業の期初予想は、「保守的」と指摘され、四半期ごとの決算発表の度に業績予想を上方修正する企業も少なくない。一方、業績伸長を予想しながら、期末に下方修正が定着する企業もある。2月以降の中東情勢の混迷から期初予想が非開示の企業が増加するなか、期初予想の開示方法のあり方は再考すべきタイミングかもしれない。
米国の上場企業は、米国の証券取引所などが予測情報の開示を要請せず、自主開示的なものとなっている。日本の上場企業との大きな違いは、業績予想を特定の数値ではなく、レンジで開示する企業が多い点だ。
日本でも、近年はレンジで業績予想を開示する企業もあるが、まだまだ少数派だ。レンジでの開示は、現在のように先行きが不透明な情勢下では、影響をより幅広く投資家に説明する方法として有効かもしれない。また、レンジ開示以外に、より確度を高く見通した翌四半期のみの予想を開示する企業もある。
ただ、期初予想は、今後の景気動向の指標の1つとして、投資家や取引先企業などのステークホルダーから、実績以上に注目されることもある。先行きが不透明な現在、上場企業は開示方法も含め、今後の見通しを丁寧に説明することが必要だ。