早期事業再生法の施行迫る、法律施行の背景と概要は ~経済産業省 田尻 雄裕氏インタビュー ~
2025年度の企業倒産は1万505件(前年度比3.5%増)で、2年連続1万件を超えた。
企業倒産が増勢をたどるなか、法的整理でも、事業再生ADRなど準則型私的整理でもない「第三の手続」として早期事業再生法が注目されている。この法案は2025年6月に成立し、今年12月11日に施行される。
早期事業再生法は、債務者が窮境状態に陥る前の早い段階から利用が可能だ。金融債権者の3/4以上の同意による多数決と裁判所の認可を条件として、権利変更が可能となる。
東京商工リサーチ(TSR)は、早期事業再生法の概要や背景を、経済産業省 経済産業政策局 産業組織課の田尻雄裕氏に聞いた。
田尻 雄裕(たじり ゆうすけ)氏
2018年経済産業省入省後、成長戦略や自動車産業、中小企業の事業承継・M&A等に係る政策立案に携わった後、2025年7月より現職にて、早期事業再生法の制度設計を担当。

インタビューに応じる田尻 雄裕氏
―早期事業再生法の成立に至った経緯は
コロナ禍以降、金融機関を除く法人の債務が増加し、過剰債務により事業再構築が実行できない企業が存在している。
これまで長年定着してきたデフレ経済下では、値上げもなく、賃上げも起こらず、金利負担も小さいままだった。こうした環境下では、低収益の事業でも存続が可能で、既存事業の維持やコストカットへの注力といった企業行動が促されてきた。
しかし、近年ではインフレサイクルが定着しつつあり、価格転嫁や高付加価値化に取り組む必要が出てきた。こうしたマクロ経済環境の変化自体は、望ましい動きと考えられる。
一方で、コストや金利上昇への対応が難しく、抜本的な事業再生を実施する必要のある企業・事業が増えてくることが想定される。
こうした問題意識の下で、早期事業再生法(円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律)が成立した。
―早期事業再生法の特徴は
法的整理手続でも、私的整理手続でもない第三の手続きとして、位置づけられている。
早期事業再生法は、法的整理と異なり、対象債権は金融債権に限定し、官報等に公示されない。これによって、取引先に対する信用不安を回避し、事業価値を維持したまま手続を進めることができる。
実際、2024年6月に実施されたアンケート調査(※1)では、企業が事業再生の際に重視する点は、「現在の事業、取引に影響を与えないこと」が74.3%で最も高いとの結果もある。
一方、私的整理では、債権者の全員同意が必要だったが、早期事業再生法では、議決権の3/4以上の同意(※2)と、裁判所の認可で成立するといった多数決原理が導入されている。
手続開始のタイミングは「経済的に窮境に陥るおそれのある事業者」としている。具体的には、現在パブリックコメント中のQ&A案において、「経済的に窮境に陥るおそれ」とは、「2年以内に支払不能に陥る可能性が高い場合」や「低い収益または赤字の状態が継続しており、将来的に元本償還ができなくなるおそれがある場合」等が該当することを例示する方向で検討している。
倒産に至ってしまう場合、事業価値の毀損が進み、債権者にとっても回収率が低くなってしまうことも多い。早期に事業再生に着手し、抜本的な対策やスポンサーの選定といった対応を実行することができれば、事業価値の維持や倒産の防止の可能性は高まる。これは、債務者・債権者ひいては従業員や取引先等にとっても重要な対応と考えられる。
l※1 東京商工リサーチ「業績予想」「値上げ」「過剰債務」に関するアンケート調査(2024年6月リリース)
※2 単一の債権者が議決権の3/4以上を有する場合、議決権者の過半数の同意も必要。
―事業再生を取り巻く環境が変化している
事業再生の歴史を振り返ると、バブル下の過剰債務問題が社会課題であった2000年代前半には様々な制度が成立した。例えば、法的整理の枠組みとしては、2000年に「民事再生法」、2003年に「会社更生法」が施行された。私的整理の実務としては、2001年に「私的整理に関するガイドライン」が公表され、準則型私的整理手続の基礎となった。
その後、2008年のリーマン・ショックを経て、コロナ禍までの間は緩和的な金融政策が続いたが、足下では、金利のある世界が戻ってきた。これまで培われてきた実務を踏まえつつ、事業再生の制度をさらに発展すべきフェーズにあると考えている。
早期事業再生法以外の事業再生に関連する制度としても、今年5月には中小企業を対象とした中小企業活性化協議会による事業再生支援や経営改善計画策定支援の規定やFAQ等が改訂され、計画策定後の出口の明確化や伴走支援体制の強化等、支援の実効性を高めるための制度変更がなされている。
また、今年5月には金融庁所管の事業性融資の推進等に関する法律(事業性融資推進法)が施行され、企業の将来性を含めた事業全体を担保とする企業価値担保権の設定が可能になった。金融庁は日ごろから事業者と金融機関が対話し、信頼関係を構築することの重要性を強調している。
こうした動きも踏まえつつ、当方としても、早期事業再生法の施行に向けて、制度周知に努めるとともに、早期での事業再生の実行の重要性の浸透を図っていきたい。

インタビューの最後、田尻氏は「多数決で権利を変更できることで、有益な場面も多く想定されるが、多数決か否かにかかわらず、債務者と債権者が協議するなかで、適切な計画を作成することで、再生を実現していくことが重要だ」と強調した。
「第三の手続き」の早期事業再生法は、ことし12月までに施行される。関係者への周知徹底が急がれる。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年6月17日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)