企業の3割が「5年以内に拠点を新設・増床を予定」 国内は「関東」、「中部」が上位、中国は0.4%と低迷
~2025年12月「拠点開発」に関するアンケート調査~
国や自治体は、補助金や税制優遇などで企業の成長投資を後押ししている。だが、企業はこうした支援ではなく、既存事業との親和性や、進出後の社内や取引先と連携の取りやすさを重視していることがわかった。
東京商工リサーチ(TSR)は、企業向けに「拠点開発」に関するアンケート調査を実施した。これから5年以内に拠点を新設・増床する可能性があると回答した企業は、3割(33.1%)だった。開設予定場所は、海外では中国を除くアジアが4.1%で最も多い一方で、中国は0.4%にとどまり、“中国離れ”が進んでいるようだ。
拠点の種類は、「支店、事務所」が15.4%で最も多く、「本社増床」が11.2%と続く。一方で、「研究拠点」は1.4%、「物流拠点」は4.9%にとどまり、拠点開発への投資は管理・営業機能に偏っている様子がうかがえる。
拠点の開発予定場所は、企業数が多い「関東地方」が39.7%で突出。次いで、製造業の盛んな「中部地方」が19.9%、西日本経済の中心地「近畿地方」が17.7%で続く。
開発場所を選定した理由は、最高が「社内(グループ含む)との連携がとりやすい」54.0%、次いで、「取引先との連携がとりやすい」が39.9%で続く。一方で、「自治体・国の制度が魅力的」は2.9%と極めて低く、国や自治体の支援が企業を呼び込む決定要因になっていない実態が浮き彫りになった。
企業は、拠点開発について、既存事業との親和性、そして社内や取引先と連携がしやすく無理のない確実な運営をできるかを重視している。呼び込むために「建てる支援」の側面が強い補助金や税制優遇は、企業誘致という観点では効果はいま一つ発揮されていない可能性がある。
制度の実効性を高めるには、操業後の人材確保への支援、地元企業との取引を後押しするビジネスマッチングなど、拠点開発後の事業を「育てる支援」が求められる。国や自治体が事業を継続できる道筋を企業に示すことが重要になっている。
※本調査は、2025年12月1日~12月8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答6,135社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(資本金がない法人・個人企業を含む)を中小企業と定義した。
Q1.貴社では、向こう5年程度で拠点を新設・増床する可能性はありますか?(複数回答)
◇「新設・増設の予定はない」が66.8%、「支店、事務所の新設・増設」が15.4%
向こう5年の拠点開発の予定では、「新設・増設の予定はない」との回答が66.8%(6,135社中、4,103社)で最高だった。規模別は、大企業57.5%(462社中、266社)、中小企業67.6%(5,673社中、3,837社)で、コストアップなどで資金余力が乏しい中小企業が10.1ポイント上回った。
一方、開発予定があると回答した企業は33.1%(2,032社)にとどまった。拠点の種類別では、「支店、事務所の新設・増床」が15.4%(949社)で最高。このほか、「本社増床(移転増床含む)」が11.2%(693社)、「製造拠点の新設・増床」が8.1%(500社)、「物流拠点の新設・増床」が4.9%(301社)、「研究拠点の新設・増床」が1.4%(92社)と続く。
規模別では、「本社増床(移転増床含む)」のみ、中小企業が11.29%(641社)で、大企業の11.25%(52社)をわずかに上回った。「研究拠点の新設・増床」は、中小企業が1.2%(73社)に対し、大企業が4.1%(19社)と、構成比で3倍以上の差がついた。

Q2.新設・増床する可能性がある拠点の場所はどこですか?(複数回答)
拠点の新設・増設の予定があると回答した企業へ、開発予定の場所を聞いた。
構成比の最高は、「関東地方」で39.7%(1,992社中、791社)。次いで、「中部地方」19.9%(397社)、「近畿地方」が17.7%(354社)で続く。
規模別では、多くのエリアで大企業が中小企業の構成比を上回るなか、「北海道地方」で1.5ポイント、「四国地方」で2.0ポイント、中小企業が大企業を上回った。
海外では、「アジア(中国除く)」が4.1%(82社)で最大。次いで、「米国」が0.7%(14社)、「インド」が0.6%(12社)、「中国」が0.45%(9社)で続いた。
産業別では、農・林・漁・鉱業を除く9産業で「関東地方」がトップ。農・林・漁・鉱業のみ「東北地方」が29.4%(5社)でトップだった。
建設業、製造業、卸売業、小売業、金融・保険業、運輸業の6産業では、「中部地方」が2番目に高かった。

【新設・増床する拠点の種類と場所のクロス】
Q1で聞いた拠点の種類とQ2の場所のクロス集計を行った。なお、ともに複数回答のため、種類と場所が合致しないケースもある。
国内では、全ての拠点の種類で「関東地方」がトップ。次点で、「中部地方」が高かったのは、「研究拠点」24.1%(91社中、22社)、「製造拠点」26.0%(488社中、127社)、「物流拠点」25.9%(289社、75社)。「近畿地方」が高かったのは、「本社増床」18.0%(676社中、122社)、「支店、事務所」20.2%(934社中、189社)だった。
海外では、全ての拠点の種類で「アジア(中国除く)」がトップ。次点は、「支店、事務所」では「インド」1.0%(10社)、「研究拠点」では「米国」5.4%(5社)、「製造拠点」では「米国」1.0%(5社)、「物流拠点」では「EU(イギリス含む)」1.7%(5社)が続いた。

Q3.その場所を選択した理由はなぜですか? (複数回答)
◇大企業、中小企業ともに「社内(グループ含む)との連携がとりやすい」がトップ
開発予定の場所を選んだ理由では、1,981社から回答を得た。
構成比の最高は、「社内(グループ含む)との連携がとりやすい」の54.0%(1,071社)。次いで、「取引先との連携がとりやすい」の39.9%(792社)、「新規取引先の確保」の22.8%(452社)で続く。
一方、最低は「自治体・国の制度が魅力的」で、2.9%(59社)にとどまった。大企業2.1%(189社中、4社)、中小企業3.0%(1,792社中、55社)で、ともに低く、自治体や国の企業を誘致する取り組みに効果が出ていない可能性がある。
「その他」の理由では、「施設の老朽化がすすんだため」「ドミナント戦略」「災害などの影響を軽減するBCP対策のため」といった回答があった。

【新設・増床する拠点の場所と理由のクロス】
Q2の場所とQ3の理由のクロス集計を行った。なお、構成比は場所の回答社数を分母にして算出している。ともに複数回答のため、場所と理由が合致しないケースもある。
国内では、全ての地方で「社内との連携がとりやすい」がトップ。次いで、「取引先との連携がとりやすい」「新規取引先の確保」と続いた。
Q2で最も低かった「自治体・国の制度が魅力的」では、「東北地方」では6.9%(186社中、13社)、「北海道地方」では5.8%(119社中、7社)で、比較的高かった。
このほか、「人材確保がしやすい」は「関東地方」で20.5%(788社中、162社)と唯一、2割を超えた。次いで、「近畿地方」が15.5%(353社中、55社)、「九州地方」が15.1%(237社中、36社)で続く。
「イニシャルコストが低い」では、「四国地方」が13.4%(89社中、12社)で1割を超えた。
海外では、「新規取引先の確保」が全てのエリアでトップだった。
