• TSRデータインサイト

2023年の「早期・希望退職者募集」は41社 人手不足のなか3年ぶり増加、黒字企業が半数を超える

~ 2023年上場企業「早期・希望退職者」実施状況 ~


 2023年に「早期・希望退職者」を募集した上場企業は、41社(前年38社)で前年を3社上回った。社数が前年を上回ったのは3年ぶり。全体の対象人数は3,161人(前年比45.3%減)と、半減した。
 募集開始の直近決算で、黒字企業は21社(構成比51.2%)と半数を超えた。物価高や円安に備えた構造改革に加え、コロナ禍で変化した市場ニーズに対応した実施が目立った。
 業種別では、情報通信が11社(前年比266.6%増、構成比26.8%)で、前年の3社から急増。2000年に統計を開始以来、初めて最多となった。コロナ禍で大きな打撃を受けた観光や運送(交通インフラ含む)の募集はなく、外食も1社にとどまった。社数では、情報通信やアパレル関連、医薬品、電気機器が目立つが、コロナ禍の影響を引きずるアパレル関連以外はアフター・コロナのフェーズに突入しているようだ。

 2023年の「早期・希望退職者」の募集は、対象人数が判明した29社で、3,161人(前年5,780人、判明31社)で前年から45.3%減と半減した。これは前年1社あった1,000人以上の大型募集がなく、小規模の募集が多かったため。
 2023年は新型コロナの5類移行で、コロナ禍が直撃した業種はアパレル関連を除き、落ち着いて推移した。深刻な人手不足が加速するなかでの人員削減策は、一見奇異に映る。だが、コロナ禍以降の市場や需要の変化に加え、コストプッシュのインフレ加速など、新たな時代に対応するため人員調整による事業の構造改革への活発な動きも透けて見える。
 コロナ禍前の2019年(35社)と比べ、2023年(41社)は6社増えた。これは早期・希望退職者の実施が、新規事業への進出など資金余裕のある企業と業績不振から抜け出せない企業との二極化が拡大している可能性がある。

※ 本調査は、希望・早期退職者募集の実施を情報開示し、具体的な内容を確認できた上場企業を対象に抽出した。
実施が翌年以降の企業は除く。原則、『会社情報に関する適時開示資料』(2023年12月31日公表分まで)に基づく。

主な上場企業(年次推移)希望・早期対象者募集状況


業種別 「情報通信」が初の最多

 2023年に「早期・希望退職者」募集が判明した上場41社の業種別は、最多が情報通信の11社(前年3社)だった。情報通信の最多は初めて。情報通信は、募集開始の直近通期決算は全社が赤字か減益だった。
 次いで、電気機器(同4社)、アパレル関連(同4社)と医薬品(同3社)が各5社だった。コロナ禍で2021年に募集が相次いだ航空・鉄道を含む運送は3年ぶりに募集がなかった。

上場41社の業種別

損益別 黒字と赤字が拮抗

 2023年に早期・希望退職者の募集が判明した上場41社の募集開始の直近通期損益は、黒字が21社、赤字が20社と拮抗した。黒字企業は、21社のうち、14社が東証プライム上場だった。
 一方、赤字の20社では東証プライムは5社にとどまった。赤字企業は、東証スタンダードが10社、東証グロースが4社、地方上場1社と、比較的規模が小さな企業に集中した。
 赤字の業種は、情報通信(6社)、アパレル関連(3社)、サービス(3社)など。

上場41社の損益別

募集人数 100人以上は11社、1,000人以上はゼロ

 募集人数(募集時点の人数が非開示の場合、応募人数を適用)では、最多は100~299人の9社(構成比21.9%)。次いで、1~29人の7社(同17.0%)、30~49人と50~99人が各5社(同12.2%)と続く。
 300人以上は、中外製薬(応募人数374人)と大正製薬ホールディングス(同645人)の製薬2社だった。
 若干名の3社を含め、募集人数100人未満の企業が20社(構成比48.7%)と約半数を占めた。事業所やセグメントを限定した募集、規模の小さな上場企業の募集が集中したことも影響した。

上場41社の募集人数



 2023年の上場企業「早期・希望退職者」募集は、前年を3社上回る41社(前年38社)だった。コロナ禍の2020年(93社)や2021年(84社)と比べ半減したが、人手不足が深刻さを増すなかで募集企業が増加したことは、企業の意識が変化している兆候ともいえる。
 コロナ禍で募集が相次いだ観光は、インバウンド需要と国内旅行の復活で業績が急回復している。一方で、物価高や円安の影響で内需型産業を中心に、人員削減での経営改善を強いられる企業もある。その結果、需要が減少予測のなか、事業所閉鎖や新規事業への参入で従業員に求めるスキルが変化するなど、事業セグメントの移行に伴う募集も目立った。
 経済産業省は、リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業で企業のキャリア相談や転職支援の後押しを進めている。業績悪化だけでなく、市場やニーズの変化に対応した募集も広がっている。2024年は、大企業や中堅企業でも募集が増える可能性が出てきた。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

制御機器メーカーのIDEC(株)が早期退職募集を実施=国内従業員の300人が退職

制御機器メーカーのIDEC(株)(TSRコード:570011370、大阪府、東証プライム)がセカンドキャリア支援制度を実施し、今年6月までに国内従業員の約300人が退職していたことが東京商工リサーチの取材でわかった。

2

  • TSRデータインサイト

上場企業の「早期・希望退職」募集 1-8月で1万人超え 募集の大型化で前年同期比1.4倍増、前年1年間を上回る 

今年1月から8月31日までに判明した上場企業の「早期・希望退職」募集の対象人数が、1万人を超えた。募集の大型化が目立ち、3年ぶりに1万人を超えた2024年の年間募集人数1万9人をすでに上回った。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-8月の「人手不足」倒産が237件 8月は“賃上げ疲れ“で、「人件費高騰」が2.7倍増

2025年8月の「人手不足」が一因の倒産は22件(前年同月比37.5%増)で、8月では初めて20件台に乗せた。1-8月累計は237件(前年同期比21.5%増)に達し、2024年(1-12月)の292件を上回り、年間で初めて300件台に乗せる勢いで推移している。

4

  • TSRデータインサイト

分配金遅延の「みんなで大家さん」、出資者が返金求め訴訟提起へ

不動産投資商品「みんなで大家さん」の出資者への分配金が遅延している問題で、投資商品を扱う企業に対して5名の出資者が1億円の返還を求め、東京地裁に訴訟を提起する。出資者側の代理人事務所は、リンク総合法律事務所。

5

  • TSRデータインサイト

銀行員の年収、過去最高の653万3,000円 3メガ超えるトップはあおぞら銀行の906万円

国内銀行63行の2024年度の平均年間給与(以下、年収)は、653万3,000円(中央値639万1,000円)で、過去最高となった。前年度の633万1,000円(同627万5,000円)から、20万2,000円(3.1%増)増え、増加額は3年連続で最高を更新した。

TOPへ