企業の7.8%で退職金「増額・導入」 「減額・廃止」企業は月給などへ、資産形成は自己責任
~2026年「退職金」に関するアンケート調査~
これまで「年功序列」や「終身雇用」が前提の日本の会社では、長く勤め上げてまとまった退職金を受け取ることが一般的だった。だが、東京商工リサーチ(TSR)のアンケート調査で、2023年以降の退職金制度は「増額・導入」が7.8%に対し、「減額・廃止」は1.9%だった。近年は賃上げによる基本給の上昇を反映し結果的に退職金も増額される、または退職金を新規導入する事例が増えている。だが、退職金前払いで給与を高くして人材募集に動く企業も出てきている。2023年以降に限っても「変更していない」は70%強にとどまっており、退職金制度のあり方は曲がり角を迎えているようだ。
転職市場の拡大や働き方の多様化で、入社から定年まで1つの企業で働き続けることが必ずしも主流ではなくなった。近年は物価の上昇で、今の生活費のために退職金が少なくなっても、月額給与を増やしたいニーズも高まっている。老後資金に関する問題はあるが、少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo)、企業型確定拠出年金(企業型DC)など、運用商品を選択できる資産形成の手段も広がっている。
その一方、中小企業を中心に、賃上げの結果増額されるのみならず「退職金制度を導入した」「退職金への拠出の増額・導入を検討している」とする企業もあり、その合計は中小企業では6.2%に及んだ。
※ 本調査は、2026年6月1日~8日、企業を対象にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答6,473社を集計、分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。本調査は、今回が初めて。
Q1. 貴社の退職金制度の動向は以下のうちどれですか?2023年以降の動向についてご回答ください(単一回答)
■退職金の「増額・導入」が「減額・廃止」を上回る
2023年以降の退職金制度について、「変更していない」が72.5%(6,473社中、4,694社)で最も多かった。一方、「退職金への拠出を増額した」「退職金制度を導入した」を合計した「増額・導入」は7.8%(508社)に対し、「退職金への拠出を減額した」、「退職金制度を廃止した」を合計した「減額・廃止」は1.9%(125社)だった。今後の見通しは、「退職金への拠出の増額、導入を検討している」は3.0%(199社)で、「退職金への拠出の減額、廃止を検討している」の0.9%(59社)を上回った。

産業別 「退職金を増額・導入」は建設業がトップ
Q1の回答を産業別に分析した。「退職金への拠出を増額した」「退職金制度を導入した」を合計した退職金の「増額・導入」の最高は、建設業の12.3%(1,077社中、133社)。次いで、卸売業の8.4%(1,181社中、100社)が続き、その他産業でも6%台が目立った。
一方、金融・保険業は、退職金の「増額・導入」はゼロで、一方「退職金制度を廃止した」は3.7%(79社中、3社)だった。

Q2.Q1で「退職金への拠出を減額した」「退職金制度を廃止した」「退職金への拠出の減額、廃止を検討している」と回答された方に伺います。退職金制度を変更した理由は何ですか?(複数回答)
■大企業と中小企業で異なる結果に
「退職金への拠出を減額した」「退職金制度を廃止した」「退職金への拠出の減額、廃止を検討している」と回答した企業に理由を聞いた。
大企業の回答社数は少ないが「確定拠出年金の利用を推奨するため」が50.0%(10社中、5社)で半数を占めた。大企業は、企業型DCを導入する企業が中小企業より多く、従業員の資産形成を後押しする狙いがあるとみられる。次いで「新規採用を強化するため」の40.0%(4社)が続いた。退職金削減で生まれた原資を月給に回し、採用競争力を高める狙いがうかがえる。
一方、中小企業は、「成果主義への移行のため」が38.3%(120社中、46社)だった。物価高で利益確保が難しく、退職金ではなく賞与などの形で、従業員にインセンティブを与える狙いが透けて見える。「インフレ率と同等以上の運用が見込めないため」の29.1%(35社)が続く。
金利上昇(=債券価格の下落)が続き、債券の含み損拡大を問題視する見方もある。一方で株式はリスクを伴っている。金融市場の先行きが不透明なだけに、退職金の前払いで運用も含めた使い道を従業員に一任する企業も増えているようだ。

Q3.Q1で「退職金への拠出を減額した」「退職金制度を廃止した」と回答された方に伺います。退職金制度の変更により生まれた原資はどう振り向けましたか?(複数回答)
■「既存従業員の月給を引き上げた」が約半数
「退職金への拠出を減額した」、「退職金制度を廃止した」と回答した企業に、退職金制度の変更で生まれた原資の振り分け先を聞いた。なお、大企業からの回答を得られたのは3社で、中小企業が93社と、大部分を中小企業が占めている。
最多は、「既存従業員の月給を引き上げた」が48.9%(96社中、47社)。次いで、「中途の新規採用者の月給を引き上げた」が23.9%(23社)、「福利厚生を拡充した」が20.8%(20社)、「新卒者の月給を引き上げた」が15.6%(15社)と続く。慢性化する人手不足で、人材の採用、および定着に関わる内容が上位を占めた。
一方、「価格競争力を維持するための原資にした」15.6%(15社)、「債務返済に充てた」13.5%(13社)、と回答した企業もあった。複数回答のため、人材の採用・定着に関わる内容にも振り向けた企業もあったが少数だった。
業種別では、人材の採用・定着に関わる内容に振り向けた企業の割合は、建設業と情報通信業で目立った。一方、製造業とサービス業他は、「債務の返済に充てた」「価格競争力を維持するための原資にした」も目立ち、相対的に経営が厳しい企業が多いことを示唆する結果となった。
