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事業再生は「地域性」と経営者の「覚悟」 ~ 黎明期からの事業再生家、FAソリューションズ・福島朋亮社長 インタビュー ~

 事業再生や事業承継、M&AなどでFA(ファイナンシャル・アドバイザー)を手掛けるFAソリューションズ(株)(TSR企業コード:296367087、東京都中央区)。公認会計士の福島朋亮・代表取締役社長は、大手監査法人やM&Aアドバイザリー会社を経て、2004年に独立した。
 同時期の2003年4月、47都道府県に中小企業再生支援協議会(当時、以下協議会)が設置された。事業再生の黎明期から最前線に立つ福島社長に事業再生や事業承継の現状を聞いた。



―独立の経緯は

 大学卒業後、1991年に大手監査法人に入所し、1994年に公認会計士登録した。入所当時は通常の監査業務を手掛けていたが、海外に行きたくて提携していたドイツの事務所に駐在させてもらった。駐在先も監査法人だったが、主要業務は営業とクレーム処理だった。クライアントを探索する一方、日系企業の社長と税務面の議論を交わした。
 ドイツでは地域の「アイデンティティ」が非常に重要視される点に感銘を受けたが、これが現在の地元の事業の再生の遠因になるとはその時は思いもしなかった。ある日系企業は、工場を隣接する町に移転したら従業員の6割が辞めてしまった。彼らの地元意識をそこまで深く感じていなかった事象で、非常に勉強になった。
 ドイツでの20代後半から30代前半までの4年間は非常に濃密だった。帰国後、マニュアル化が進む監査業務に嫌気がさし、2003年にグループ内のM&Aアドバイザリーの子会社に転籍した。ここが転機だ。地方のスーパーの再生支援に携わったのだが、そのスーパーは地元に固定客を確保していたが、金融債務が数百億円、取引先も千社近くあった。支援に積極的なスポンサーが見つかったので、一般債権者を巻き込まない私的整理を進める予定だった。
 ところが、独占交渉権を与えた途端、突然スポンサーが方針を転換した。安易に独占交渉権を与えたことが重しとなり、難航した。スーパーの社長も方針転換に納得せず、別のスポンサーを探し始めるなど事態は混乱を極めた。資金ショートが迫り、金融機関と交渉を続けながら民事再生法の適用を申請した。
 この時に学んだのが、事業再生で大事なのは「地域への影響を一番に考える」ということ。幸い、そのケースでは地域にとって重要な店舗を閉鎖しないで済み、取引先も引き継げ、従業員も守ることができた。
 一方、「(経営者は)同じ地域から出ていくことが責任を取ること」と考える金融機関から、連帯保証人である経営者の自宅の売却を迫られた。当時は経営者保証ガイドラインもなく苦労したが、地域性を重視するドイツでの経験が生きた。経営者が意識する「その土地の大切さ」を尊重し、金融機関と長期間の交渉の末、個人保証の解除まで、まとめることができた。
 そういったM&Aアドバイザーとしての経験から、事業再生に興味を持つようになったが、在籍していた会社は再生に欠かせない論点である個人保証の解除は弁護士に任せるべきと消極的だった。ここでは中小企業の再生はやりきれないとなり飛び出した。ちょうどその頃、全国で協議会が動き出していたこともあって、手探りの事業再生が始まった。

―FAソリューションズの事業について

 私的整理を求める声は多く、地域に根ざした小さな会社も救えると信じ、全国各地の協議会の方とも情報交換しながら法人化した。業務は税務顧問などの継続的な業務ではなく、事業再生のコンサルティングに主軸を置いた。
 監査はマニュアルに沿った業務であるべきだが、事業再生には同じものがなく、経験と知識がものを言う。計画などの数字を組み立てる際には第三者のチェックは必須と考えた。設立当初から3人の同志を集めることができたことからチームワークも重視した。その後、2007年に中小企業再生支援全国本部が作られた。その頃はFAソリューションズも、「第二会社方式」の会社分割を絡めた債務カットや通常のリスケジュールといった事業再生の依頼を途切れることなくいただけるようになり、徐々に仕事が回ってくるようになった。

―FAソリューションズの特徴は

 M&Aでは普通の発想だが、事業再生ではあまり取り入れられていなかった第二会社方式を、ずいぶん前から手掛けてきた。事業価値を算定して適正な譲渡価格を設定し、税務や事業承継などの問題を絡めながら対応する。
 グループ会社の事業再生を得意としているのも特徴だ。部門ごとにバラバラの課題や税務の問題をパズルのように組み立て、債務カットなのか、本業外事業の売却なのか、収益力改善なのか、最善策を見つけるようにしている。また、自社は従業員を10人以上にしないと決めている。クオリティが保てず、管理も難しくなるためだ。

―デューデリジェンス(DD)のポイントは

 税務や会計には明確な基準がある。一般的に、損益計算書で利益が出ていれば儲かっていると考える。しかし、決算の数字と実情は異なることが多い。DDはそのギャップを埋める役割を果たせると言える。


取材に応じるFAソリューションズ・福島社長
取材に応じるFAソリューションズ・福島社長
 

 継続事業の前提を置く場合と清算の場合では、売掛金や在庫、不動産などの換金価値は大きく異なる。M&Aアドバイザリーで企業価値評価を多く手掛けた経験が、金融機関からみても妥当な譲渡価格をはじき出すことに役立っている。だが、それでもDDは難しい。財産の価値は時と場合、必要とする人によって異なることが多く、自行の回収額が見えた時点で初めて「納得できない」と金融機関からコメントされることも珍しくない。
 また、財務面での窮境原因を探すことも重要だ。これは決算書を1期分だけ見てもわからない。5期分以上、時には20期さかのぼり、どういう目的で資金を調達し、償却前利益額や返済額、支払利息、設備投資額などがいくらだったのかを含め、総合的に検討しなければ経営の実態は見えてこない。歴代の経営者や会社の歴史など、窮境原因ができた過程も再生を考えるに当たり重要な論点になる。

―再生計画案の作成時に重視することは

 主語を意識することが大事だ。計画を作る上で、誰がやるのかを決めないとうまくいかない。相談に来る経営者の一部は、事業再生の専門家に任せたことで安心し、自分は何もしないこともある。我々は税務や債務カットなどでの支援はできるが、実際に事業再生のアクションプランを作り上げ、やり遂げるのは会社であり、経営者だ。
 「コロナが落ち着いたら売上が戻る」とコロナ禍でよく聞いたが、どうやって、誰が戻すのかを落とし込まないと、ズルズルと落ち込んでいくことになるだろう。「戻る」ではなく、コロナで変化してしまった顧客の思考を分析して「新たに作る」という発想が必要ではないか。

―私的整理ができる企業と倒産企業の違いは

 経営者の覚悟が重要だ。中途半端な気持ちでは難しく、今までなんとかなってきたから「まだ大丈夫だろう」と考えている企業は危ない。経営者が覚悟を決めれば、経営者保証ガイドラインを利用して清算型(廃業型)私的整理が可能となることも多い。一方で、いくつも条件を付けると手続きが難航し、税金の滞納などから破産しか選択肢が残されていなくなってしまうこともありうる。
 また、実質無利子・無担保(ゼロ・ゼロ)融資を受けた経営者の一部は、借りた時にすでに返済が無理だろうと考えていたとも聞かれる。返済が始まるのを受け、破産や廃業は今後増えると予想している。

―いわゆる「私的整理の法制化」については

 「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」などの共通ルールができたことで、私的整理による事業再生は進めやすくなった。
 現状、私的整理は金融機関全行の同意が必要で、ある意味法的整理より縛りが厳しいと思われる。そのため、どこに出しても文句は言われず、お互い様の精神で均衡が成り立っている面がある。
 これが多数決になると、収拾がつかなくなるケースも出てくるだろう。裁判所を介すれば公平にできるかもしれないが、公表する必要も出てくるため、簡単ではない。

―事業承継に必要なことは

 ある経営者が、「(後継者候補の)息子と話が合わない経営者が多いのは当たり前だ。話が合うなら、息子の考えは30年遅れている。伝統や歴史を持ち出して、後継者のやることに文句をつける経営者の方が問題だ」と話していたのが印象的だった。
 後継者に求められるのは、今までの土台を活かしながら新しく事業を作り上げることだ。プラスアルファを生み出せないと、過去の財産を食いつぶすだけになることも多い。事業を引き継ぐというより、M&Aで事業を買ったという意識を持つことが必要だ。
 この考え方は、借金が多いという理由で事業承継から逃げる息子にも言える。いま、会社にある債務と同じ金額で、その事業を買えるのかどうかということだ。
 後継者が誰になろうと、金融機関や事業再生コンサルタントのアドバイスを受けながらアクションプランを作り、うまく承継できているケースは多い。前社長は一度任せたら、口を出さないことも重要だろう。

―FAソリューションズの今後の展開は

 事業再生をやっていると会計士や弁護士は同じ顔ぶれが多い。地方では案件が少なく、東京や大阪に人材やノウハウが偏っている印象だ。この業界に携わって20年。人材育成の観点からも、事業再生にやり甲斐を見いだせる人に自分のノウハウを伝授していきたい。
 FAソリューションズには現在、7名の従業員がいるが、完全なテレワークだ。監査法人と同様のイメージで、業務上の資料はすべて電子化し、どの場所でも仕事ができるようにしている。
 今後は、デジタルを活かしながら、地方の会計士と地域の事業再生を一緒にやっていければと思っている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年6月6日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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