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「無借金」企業率は21.6%、コロナ前より2.8P下落 コロナ支援のゼロ・ゼロ融資などの活用でダウン

~ 2023年全国「無借金企業」調査 ~


 コロナ禍で経営環境が激変するなか、無借金経営の企業比率(以下、無借金率)は21.6%とコロナ前の2019年から2.8ポイント下落したことがわかった。実質無担保・無利子融資(ゼロ・ゼロ融資)など、コロナ禍の様々な資金繰り支援策が実施されたほか、急激な売上減少などが影響したとみられる。
 ただ、コロナ禍でも無借金経営を維持した企業は5社に1社あり、業績の二極化が広がっている。

 
 東京商工リサーチ(TSR)が保有する財務データから、2022年(1月-12月期)の30万6,560社を抽出し、借入の無い「無借金企業」についてコロナ前の2019年調査と比較した。
 全国の無借金企業は6万6,370社で、無借金率はコロナ前の2019年の24.4%から21.6%へ2.8ポイント下落した。地区別では、無借金率は九州が24.8%で最も高かった。また、コロナ前の2019年と比較した下落率は、四国が5.1ポイント下落(27.9→22.7%)で最も下落率が大きかった。
 産業別は、サービス業他(47.0%)、金融・保険業(40.2%)、情報通信業(28.4%)が突出して無借金率が高かった一方、他の7産業は20%を下回った。最低は、設備投資が必要な製造業(12.0%)で、次いで、過小資本が多い小売業(12.8%)がともに12%台で並んだ。
 また、金融・保険業を除く9産業でコロナ前より無借金率が低下した。コロナ禍が直撃した飲食業、旅行、宿泊関連業を含むサービス業他は7.7ポイント低下し、下落幅が最も大きかった。
 売上高別では、売上高5億円未満が無借金企業の72.3%を占めたが、2019年と比べ売上高10億円未満は軒並み無借金率を下げた。ゼロ・ゼロ融資を受けたことが無借金率低下につながったとみられる。

※ 本調査は、東京商工リサーチが保有する財務データ(85万社超)のうち、貸借対照表の長短期借入金、および社債がゼロの企業を「無借金企業」と定義し、抽出・分析した。
※ 2022年1月-同12月期の財務データ30万6,560社が対象。2019年9月実施調査(2018年1月-2019年6月期)と比較した。



無借金率は全国平均21.6%、コロナ前から2.8ポイント低下

 2022年の財務データ30万6,560社のうち、無借金企業は6万6,370社(無借金率21.6%)だった。無借金率はコロナ前の2019年の調査時(同24.4%)より2.8ポイント低下した。
 地区別の無借金率は、九州が24.8%でトップ。次いで、四国22.7%、中国22.5%、関東22.0%、北陸21.5%、近畿20.9%、北海道20.1%、東北19.4%と続き、最低は中部の19.2%。西日本地区が上位に並び、無借金率には「西高東低」の傾向がみられた。
 コロナ前と比べ、全9地区で無借金率が低下した。コロナ前は全地区が20%台だったが、今回は東北と中部が20%を割り込んだ。
 また、2019年と比べた無借金率の下落率は、最大が四国の▲5.1ポイント。以下、北海道▲4.6ポイント、近畿▲4.4ポイント、中国▲3.3ポイント、東北▲3.29ポイント、九州▲3.20ポイント、北陸▲2.6ポイント、中部▲1.8ポイントで、最小は関東の▲1.3ポイントだった。

無借金企業 地区別

10産業中、9産業で無借金率低下

 産業別の無借金率は、サービス業他が47.0%でトップ。ただ、下落幅も▲7.7ポイントで最大だった。小規模の医療クリニックなどが無借金率を押し上げたが、飲食業や宿泊業、旅行業などコロナ禍が直撃した業種を含み、運転資金需要の高まりや制度融資の拡充により借入が増えたとみられる。
 次いで、金融・保険業の40.2%で、10産業の中で唯一、コロナ前(37.6%)より上昇した。
 また、情報通信業の28.4%までの3産業が全体平均(21.6%)を上回った。
 一方、ワースト1位は製造業の12.0%。設備投資のため従来から資金需要が旺盛な業種で、コロナ前も13.1%で最下位だった。

無借金企業 産業別

生活関連サービス業で無借金率の減少が顕著

 業種分類別に無借金率をみると、コロナ前に比べ最も下落したのは、「生活関連サービス業,娯楽業」の▲6.6ポイント。行動制限の影響を強く受けた旅行業をはじめ、美容業や冠婚葬祭業、劇場などの娯楽業で、対面型サービスや人が集まる業種を含むため、コロナ禍での資金需要の高まりを反映した結果となった。
 「医療,福祉事業」(▲5.6ポイント)は下落幅がワースト2位だが、コロナ前が82.2%と元々高く、今回も76.5%とダントツの首位だった。
 サービス業では、「宿泊業」(▲5.2ポイント)や「飲食業」(▲4.0ポイント)、「教育,学習支援業」(▲3.7ポイント)などもワースト上位に入った。
 このほか、「織物・衣服・身の回り品小売業」(▲5.2ポイント)や「繊維工業」(▲2.8ポイント)、「繊維・衣服等卸売業」(▲2.6ポイント)などのアパレル関連業種も揃って上位に入った。 

無借金企業 業種分類別 増減順

診療所を筆頭に、医療業で無借金企業多い

 産業を細分化した業種小分類別では、最多が一般診療所1万4,551社(構成比21.9%)で、無借金率も94.6%と高い。いわゆる“クリニック”などの無床診療所や入院設備が小規模な開業医が中心。安定した収益構造を持ち、リースの利用で設備投資も抑えた企業が多い。
 また、3位に歯科診療所4,854社、4位に病院3,180社が入り、医療業が上位に並んだ。
 このほか、2位の土木工事業5,366社や管工事業(5位、2,424社)、電気工事業(6位、2,161社)、建築工事業(7位、1,921社)が入り、医療業と建設業が上位をほぼ独占した。

売上高5億円未満が7割を占めるも、売上規模が小さいほどコロナ前より無借金率が低下

 無借金企業を売上高別にみると、売上高1億円以上5億円未満が構成比37.9%で約4割を占めた。次いで、1億円未満が34.3%、10億円以上50億円未満が12.1%、5億円以上10億円未満が8.4%で続く。売上高5億円未満が全体の7割(構成比72.3%)を占めた。
 無借金率をコロナ前と比較すると、売上高1億円未満が25.8→21.5%と▲4.3ポイントで最大の下落幅だった。そのほか、1億円以上5億円未満(▲2.6ポイント)と5億円以上10億円未満(▲1.5ポイント)でコロナ前より低下した。一方、10億円以上50億円未満(0.6ポイント上昇)、50億円以上100億円未満(1.4ポイント上昇)、100億円以上(0.7ポイント上昇)ではコロナ前より無借金率が上昇した。売上規模によって明暗がはっきりと分かれた。

無借金企業 売上高別

約半数がコロナ前より借入金「増加」

 コロナ前との比較が可能な20万279社の借入状況を調査した。借入金の総額はコロナ前から29.3%増加した。
 借入金がコロナ前より「増加」したのは8万4,748社(構成比42.3%)で、「借入ゼロ→発生」9,247社と合わせた9万3,995社が増加、全体の半数近く(同46.9%)を占めた。資金需要が旺盛になったことをうかがわせる。
 一方、「減少」企業は5万7,897社(同28.9%)で、「借入有り→ゼロ」と合わせた6万6,487社の構成比は33.1%。
 また、コロナ前から引き続き、無借金を維持した(借入ゼロ→ゼロ)のは3万8,376社(同19.1%)だった。

借入状況推移(2019年調査との比較)



 コロナ前より無借金率が低下した背景には、コロナ禍の業況悪化に伴う資金需要の増大が一因として挙げられる。加えて、「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」などの新型コロナ関連融資が借入に対するハードルを下げ、従来は自己資金のみで対応していた企業が念のために借入を導入したことも要因として考えられる。
 しかし、ゼロ・ゼロ融資は2022年9月末に新規受付を終了したため、従来は自己資金で資金繰りを賄うことができていた無借金企業が、新たに融資を導入する傾向は落ち着く可能性が高い。また、最長で5年までの間に設定された利子補給・元本据置期間の終了に伴い、返済を進めて再び無借金経営に戻るケースも考えられる。
 一方で、コロナ前の無借金率と比較してサービス業他は7.7ポイント下落し、全体(▲2.8ポイント)より大きく低下した。コロナ禍で営業自粛や需要消失に見舞われた飲食業や宿泊業などを中心に資金繰りが悪化、運転資金需要が増した様子をうかがわせる。債務返済のためにはアフターコロナ下での収益力改善が欠かせず、事業転換も視野に入れた業績回復の進展具合には注視していく必要がある。


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