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【破綻の構図】老舗出版社(株)商業界、経営の変調は10年前から

 1948(昭和23)年発刊の経済誌「商業界」等を出版していた老舗出版社、(株)商業界(TSR企業コード:291467199、港区、中嶋正樹社長)は4月2日、東京地裁から破産開始決定を受けた。負債総額は8億8,000万円だった。
 初代の主幹は「店は客のためにあり 店員と共に栄え 店主と共に滅びる」という商人哲学を遺した倉本長治氏。スーパーマーケットやチェーンストアを日本に紹介し、戦後の小売・流通業界に多大な影響力を誇っていた。
 だが、市場規模がピーク時(1996年の2兆6,563億円、出版科学研究所調べ)から半減した出版業界で、売上減少に歯止めをかけられないまま破産に追い込まれた。


 商業界は1948年8月に港区麻布富士見町で設立された。1950年11月に倉本長治氏が社長に就任。1966年3月に港区麻布台の商業界会館に本社を移転し、2011年8月に中嶋正樹氏が社長に就任した。
 1948年9月創刊の「商業界」(2017年の公称発刊部数8万2,000部)を中心に、月刊誌「販売革新」(同約8万部)、「食品商業」(同10万1,000部)、「ファッション販売」、「飲食店経営」、「コンビニ」、「日本スーパー名鑑」など、多数の書籍を出版していた。
 国内の小売・流通業向けの出版・教育セミナーを展開し、1950年代から続く合宿型の「商業界ゼミナール」には、全国から800名の経営者等が参加していた。開催は2020年2月までに88回を数えた。

 だが、1996年にピークを迎えた出版業の市場規模は2017年には半減し、当社も出版不況の波に飲み込まれた。売上高はピークだった1996年6月期の約21億円から、2010年6月期は12億5,000万円に半減。中核事業の月刊誌の落ち込みが激しく、不振の出版事業を補うため2017年に「商業界ONLINE」を立ち上げ、インターネットでニュース配信事業を開始した。
 また、小売・流通業界での知名度の高さを生かして各種セミナー事業にも力を注いだ。
 合宿型の「商業界ゼミナール」のほか、月1回(2日間)で3カ月にわたり商店経営のノウハウを教授する「リテール・マネージメント・スクール」や企業研修、多彩な通信教育(スーパーマーケットやファッション、フードサービス分野など)にも力を入れた。しかし、自社の経営不振を改善できない会社のセミナーに過去の威光はなかった。

 売上高は2019年6月期には7億円にまで低下した。同期の売上構成は、出版部門4億200万円、広告部門1億6,000万円、セミナー部門8,600万円、ITメディア・オンライン部門1,100万円、通信教育部門400万円など。出版・広告部門が81%を占め、他の事業で出版事業の売上減少を補えていなかった。
 業況を打開できず、不採算の月刊誌「ファッション販売」や「飲食店経営」、「コンビニ」を2015年以降、段階的に事業譲渡した。また、製作原価や人件費を中心に販管費の削減にも取り組んだが、2019年6月期は7,000万円の最終赤字を計上し、同期末で3億2,900万円の債務超過に陥った。
 改善策の効果もないまま、破産直前の2020年2月末の試算表(8カ月)の営業利益は700万円の赤字だった。このため、2020年3月末に従業員の解雇に追い込まれ、ホームページで休業を告知していた。

商業界会館

‌商業界が入居していた「商業界会館」

経営の変調は10年前から

 35年前に商業界と出会い、「商業界ゼミナール」に30回参加したスーパーマーケットの経営者(以下、A会長)に話を聞いた。商業界ゼミナールは1950年代に箱根の旅館で始まったが、A会長が35年前に初めて参加した合宿ゼミナール会場も箱根の旅館だった。当時、2,000人が参加したと言う。
 その後、「商業界ゼミナール」の会場は箱根から熱海に移り、10年ほど前から幕張プリンスホテル(現・アパホテル&リゾート東京ベイ幕張)に移った。A会長は、幕張に会場が移った頃から様子がおかしくなったと語る。
 「ゼミナールの運営が機械的で、マンネリ化してきた。カリスマ講師がいなくなったことが一番大きかった。読売新聞出身の渥美俊一氏が商業界では最後のカリスマ講師だった。渥美氏はチェーンストア研究団体のペガサスクラブを運営し、商業界でも講師を務めたが、2010年7月に83歳で他界した。2003年8月に商業界社長に就任した結城義晴氏は熱い人物で、商業界を改革しようとしたが、社長就任からわずか4年後に独立してしまった」と残念そうに語った。
 商業界の破産申立書によると、この10年間で売上高は約44%、売上総利益は53%減少した。一方で、借入金は1億5,000万円増加している。A会長が感じた経営の変調は、この10年間の業績悪化と歩調が合う。

親会社でビルの所有者「商業界会館」は存続

 商業界の筆頭株主は、本社が入居する「商業界会館」を所有する(株)商業界会館(TSR企業コード:292783787)で、「商業界」の株式の80.7%を保有している。東京タワーに近く、飯倉交差点の一等地に約200㎡の土地の上に建つ8階建ての商業界会館に担保設定はない。商業界は商業界会館に賃料を毎年1,650万円を支払ってきた。商業界は消滅したが、商業界会館は存続する。

 70年以上続いた商業界の倉本長治氏が唱えた商人哲学「店は客のためにある」は、昭和から令和に代わっても無用ではないだろう。だが、商業界は受講者に経営ノウハウを講義しながら、皮肉にも自社の経営を立て直せなかった。
 「商業界ゼミナール」を信奉する受講者は、合理的な経営戦略が趨勢の中で、『商売十訓』とともに今回の破産劇をどう受け止めるのだろう。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年5月7日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

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