改正保険業法のポイント、「実態に即した契約書の修正がカギ」~ 法律事務所あかつき・岡本大毅弁護士インタビュー ~
6月1日、改正保険業法が施行された。保険契約者の保護などが目的で、2016年以来、約10年ぶりの大型改正だ。
改正の背景には、旧ビッグモーターによる不正請求や保険会社間のカルテルなどの不祥事があるとされる。また、プルデンシャル生命(株)(TSRコード:292497075、千代田区)などの金銭詐取問題が現在でも大きく報じられている。
法改正への対応や保険代理店が陥りやすいトラブルなど、確認が必要なことは今後も多い。保険業界に詳しい、法律事務所あかつき・岡本大毅代表弁護士に注意点などを聞いた。
岡本大毅 弁護士
2005年 関西学院大学法学部卒業
2006年 旧司法試験合格
2008年 弁護士登録(第二東京弁護士会)
2014~17年 オリックス生命保険 法務部へ出向
2018年 第二東京弁護士会民事介入暴力対策委員会 副委員長就任
2020年 法律事務所あかつき開設
保険コンプライアンス、労働事件、反社会的勢力への対応に関するなどの著書執筆も多数手掛けている。
生命保険会社を含む複数社で社外監査役・社外取締役(監査等委員)を務める。
―インタビューの始めに、弁護士を志した経緯は
大学時代は法学部に所属していた。大学3年生となり、周囲が就職活動を始めた頃、就職よりも学部に関係のある資格を取得しようと思い、どうせなら弁護士を目指そうと考えた。中・高・大とエスカレーターで進学し、受験疲れもなく、むしろ頭を使いたいと考えていたため、旧司法試験の受験に躊躇はなかった。当時は法科大学院(ロースクール)の制度導入が始まった2年目だったが、旧司法試験の受験を選択した。

インタビューに応じる岡本弁護士
―法律事務所あかつきの特徴は
大きな特徴は、保険、労働、債権回収、不当要求対応といった専門性を有し、企業法務に特化していることだ。「訴訟に強くありたい」という思いから裁判案件を積極的に受任している。そのため、裁判対応のみならず、裁判に至った場合の見通しと法令・裁判例への当てはめの精度には絶対の自信がある。こうした見通しなどを踏まえ、戦略的に事件処理方針を検討し、企業および事業者に対し、オンリーワンで上質なサービス提供を心掛けている。
また私自身、保険会社の社内弁護士への出向経験がある。そのため、保険法や保険業法の知見はもとより、金融庁や財務局等の監督当局の指導や見解、さらには保険業界特有の実務や歴史的背景を踏まえた深度のあるリーガルアドバイスができるようになった。
現在も保険会社や保険代理店から継続的に相談や依頼を受けている。また、第二東京弁護士会民事介入暴力対策委員会で副委員長も務めていることもあり、反社やクレーマーへの対応などの専門性を有している。

法律事務所あかつき
―6月1日に施行された改正保険業法のポイントは
ポイントは大きく以下の5点となる。
①特定大規模乗合保険募集人の体制整備義務の強化
②特定大規模乗合損害保険代理店の兼業業務に関する体制整備
③保険会社等の委託先管理等の強化
④保険契約者等への過度な便宜供与の禁止
⑤保険仲立人の活用促進
また、この改正に関連して、いわゆる「ハ方式」の販売手法(注・顧客の意向でなく、代理店の基準や都合で特定の商品を推奨する方式)が廃止されることは、実務的な影響が特に大きい。なお、この改正に関しては2028年3月1日から施行される。
ハ方式の廃止によって、乗合代理店(複数の保険会社の商品を扱う保険代理店)は、顧客の意向を十分に把握し、比較可能な同種の商品から推奨販売を行うことが重要となる。
このため、乗合代理店は施行日までに改正に向けた体制整備を構築することが求められる。現実的には施行日を待たず、PDCAを回して、必要十分な精度にまで高めておくことが望ましいと考える。
各保険会社が代理店向けに規程や契約書の雛形を用意することなども想像される。これらをうまく活用するべきだが、雛形を形式的に取り入れるだけでは十分でないことは言うまでもない。実務・実態に即した雛形の修正が避けて通れない。身の丈に合わない規程は、形骸化を招く。業界に精通した弁護士など専門家に相談することをお勧めする。
―法改正以外に代理店が注意すべきことは
保険業界には、「戻入」と呼ばれる特殊な慣習がある。代理店手数料は、構造的に一定の保険契約の継続を前提に支払い水準が定められるのが一般で、早期解約など所定の事由の発生で、すでに支払いを受けた代理店手数料の返還・戻入の必要が生じることがある。
大口の契約では1件で何百万円、何千万円単位での代理店手数料が発生するが、そこで戻入が発生すると、代理店側は多額の戻入に対応せざるを得なくなる。代理店が受け取った手数料をすでに所属募集人(販売員)に払い出していた場合、戻入部分を回収しなければならない。所属募集人が退職している場合も想定した就業規則の定め・枠組みを用意・適用しておくことが重要だ。
また、委託型募集人の適正化による雇用への変更に伴う労務問題などが顕在化している。
今回の改正を契機に、就業規則をこうした業界特有の事情に対応できる内容に作り込んでおくことが肝要だろう。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年10月23日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)