株高、新NISAが追い風に 手数料引き下げ競争下でも、他の収入増で業績拡大
~2026年 「金融商品取引業」業績動向調査 ~
2024年1月から始まった新NISAや株高で投資への関心が高まり、証券会社などの「金融商品取引業」の業績が好調だ。全国の「金融商品取引業」150社の2025年度業績は、売上高合計が6兆3,803億円(前年度比13.0%増)、利益合計が9,117億円(同20.7%増)で、売上高、利益ともに直近5期で最高を更新した。
株式など投資商品を扱い内閣総理大臣の登録が必要な金融商品取引業を分析した。第一種、第二種、投資運用業、投資助言・代理業の4種類に分類されるが、本調査では日本産業分類(小分類)「金融商品取引業(投資助言・代理・運用業,補助的金融商品取引業を除く)」を集計対象とし、集計対象の大半は株式、債券、投資信託を主に扱う証券業者である。
2024年1月、少額投資非課税制度(NISA)が拡充された。拡充後は「新NISA」と呼ばれ、NISAで投資可能な額の上限が拡大され、非課税となる保有期間の制限も撤廃された。総務省によると、新NISAの開始以来、NISA口座数やNISAでの買付額は大幅に増加し、2025年末のNISA口座数は2,821万に達した。国民の約4人に1人がNISA口座を開設した計算になる。

ネット証券と呼ばれるスマートフォンで簡単に売買注文が可能な証券会社を中心に、熾烈な利用者獲得競争を繰り広げている。ネット証券大手の(株)SBI証券(TSRコード:290511690)は、2021年4月から25歳以下の国内株式取引手数料を無料にした。さらに、2023年9月には新NISAの開始を見据え、対象を全年齢に拡大した。
楽天証券(株)(TSRコード:294068392)も2023年10月から国内株式取引手数料を無料にし、他のネット証券も相次いで国内株式取引手数料を改定するなど、顧客争奪戦が激化している。
一方、対面営業が中心の証券会社も、顧客のライフプランやリスク許容度に応じた金融商品の提案力、他の証券会社と異なる国・地域の株式などの投資商品のラインアップで競争力を強化している。また、大株主による売り出し(PO)などの機会では、市場外で市場価格より安く購入できる機会を顧客に与えるなどの差別化で顧客の獲得・囲い込みを図っている。
こうしたなか、個人の証券口座数の増加が投資を呼び、「金融商品取引業」の業績が拡大している。
※ 本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(約440万社)から、日本産業分類(小分類)「金融商品取引業(投資助言・代理・運用業,補助的金融商品取引業を除く)」から、2025年度(2025年4月期~2026年3月期)を最新期とし、5期連続で売上高・当期純利益が比較可能な150社を抽出し、分析した。
※ 集計対象の大半は株式、債券、投資信託を主に扱う証券業者。一部、外国為替証拠金取引(FX)を主に扱う企業も含まれる。
2022年の株安局面からの反転以降増収増益、新NISAも後押し
金融商品取引業150社の2025年度業績は、売上高合計6兆3,803億円(前年度比13.0%増)、利益合計は9,117億円(同20.7%増)で、売上高、利益ともに直近5期で最高を記録した。
コロナ禍で世界の主要国・地域の大規模な金融緩和、財政出動に伴う株高相場が2021年末に終わり、2022年度は各国の中央銀行が急激な利上げを実施し、株式市場は低迷した。
これに伴い投資家心理は冷え込み、売買手数料収入の低迷や、世界的な新規株式公開(IPO)など証券会社が手がける案件の収益機会の低迷などにより、2022年度業績は大幅減益となった。
2023年度以降は株価が反転し、現在に至るまで概ね右肩上がりに推移し、投資家の投資意欲は高い状況が続いている。このような状況の下、新NISAの開始をきっかけとする投資信託の信託報酬収入の増加、個人投資家のAI関連株をはじめとする個別株の信用取引が活発なことによる金利収入の増加などにより、手数料引き下げ競争は熾烈だが業績拡大が続いている。

信用取引による金融収益は増加する裏で、リスクも顕在化
足もとでは、特にAI関連株の値動きが激しい状況が続く。個人投資家の信用取引も活発で、証券会社の業績は堅調だが、個人投資家が信用取引で大きな損失を被るケースも懸念されている。
実際、2026年に入ると、韓国では個人投資家の積極的な株式売買に関する報道が目立つようになった。韓国の株式市場では2025年夏以降、AI関連で大きな需要が見込まれる一部の個別株の株価が大きく上昇し、株式投資ブームが起きている。
2026年4月には通常の値動きでも価格変動が激しいなか、特定の個別株で通常の値動きの2倍の変動率となる投資商品が解禁された。変動率が大きくなった投資商品に一攫千金を狙う個人投資家が相次ぎ、解禁対象の個別株の値動きはさらに激しくなった。
このような状況の下、韓国の株式市場では価格が急激に変動した際、市場がパニックに陥らないよう一時的に取引を停止するサーキットブレーカーが連日発動される異常事態となった。
報道によると、個人投資家の中には信用取引の損失が拡大し、強制決済で売却を強いられた事例も多いという。韓国政府も、変動率が2倍となる投資商品の導入に慎重な検討を欠いたとして謝罪に追い込まれた。
日本でも新NISAの開始などで、資産の形成や運用への関心が高まっている。証券会社の金融収益が広がった背景は、信用取引を行う個人投資家の増加がある。投資家がリスクを十分認識することはもちろんだが、投資はいくら留意しても損失リスクが避けられない。政府や証券会社も、十分にリスクを浸透させることが求められる。
2025年度売上高トップは野村證券(株)
売上高(単体)トップは野村證券(株)で9,813億5,500万円(前年度比11.2%増)だった。顧客から資産を預り、その管理を行う対価として収益を得るストック型ビジネスの収入増、企業向けのアドバイザリーや資金調達向けサービスが好調だったことなどが増収に寄与した。
次いで、みずほ証券(株)、SMBC日興証券(株)、大和証券(株)の順。

売上高 2025年度は8割が増収 売上上位ほど安定的に増収が続く傾向
150社の2025年度の売上高増減収別では、増収が120社(構成比80.0%)で8割を占め、前年度の75社から45社増加した。一方、減収は30社(同20.0%)で、前年度の75社から減少した。
増収企業数は増加したが、売上高ランキング上位の企業ほど安定的に増収が続く傾向にある。2025年度の売上高ランキング上位10社は、野村ファイナンシャル・プロダクツ・サービシズ(株)を除く9社が2025年度まで4期連続で増収だった。野村ファイナンシャル・プロダクツ・サービシズも2024年度まで3期連続で増収だった。
増減率は、最多は「10%以上100%未満」の98社(構成比65.3%)で、150社のうち半数以上だった。「▲10%未満」が16社(同10.6%)、「5%以上10%未満」が12社(同8.0%)で続く。
「▲10%未満」の企業は、集計対象となった企業のなかでは売上高規模が小さいために、減収額は小さくても変化率が大きくなりやすい企業が多い。

業歴別 半数が50年以上
150社を業歴別に見ると、最多は「10~50年未満」の61社(構成比40.6%)。次いで「50~100年未満」の49社(同32.6%)、「100年以上」の26社(同17.3%)の順。50~100年未満と100年以上の合計は75社(同50.0%)で、全体の半数に及んだ。19世紀に創業した企業も複数ある。

損益別 2025年度は黒字が約9割、増益が7割超
150社の2025年度の最終損益は、黒字が前年度から16社増加し134社(構成比89.3%)で約9割を占めた。一方、赤字は16社(同10.6%)で、前年度の32社から半減した。
増益企業は110社(同73.3%)で、前年度から43社増加した。減益企業は40社(同26.6%)で、前年の83社から半減した。

足もとでは概ね株高の状況が続き、信用取引も含めた個人投資家や海外投資家の日本株への投資も活発で、新NISAを通した投資信託の信託報酬収入も順調に増加しており、証券会社を中心とする金融商品取引業者の業績は好調だ。
しかし、株式など資産価格には上下動があり、大きく下落するリスクもある。足もとでは世界的に市中金利が上昇傾向にあるほか、米国AIスタートアップのOpenAIとアンソロピックのIPOが延期されるなど、株式をめぐる先行きは不透明さも増している。IPO案件の減少は証券会社の関連業務における売上の減少にもつながる。
また、世界的に株式が大きく調整することになれば、投資信託の積み立てを続けてきた個人のなかには、焦って売却するケースも出てくると想定される。投資信託の残高が減少すれば、証券会社にとっては信託報酬収入の減少につながる。
資産運用は「長期・積立・分散」が三大原則で、将来を見据えた投資であれば下落局面こそ効率的なリターンを追求するチャンスになり得る。長期的に証券会社が収益を維持するには、こうした金融リテラシーの発信も重要になるかもしれない。
新NISAも開始され、これまで資産運用の経験がなかった、または非常に少なかった初心者も金融商品を保有するようになっている。こうしたなか、有名人を語って投資を勧め金銭を騙し取る投資詐欺や、フィッシングメールによる証券口座乗っ取りなど、資産運用人口の増加に乗じた悪質な事件も目立つようになっている。証券取引等監視委員会も取引業者の投資勧誘等の適正性や無登録業者についての対処や情報発信を強化する方針だ。
資産運用人口も増加するなか、金融取引業者の情報公開の重要性も高まっている。金融商品取引法では、金融商品取引業者は毎事業年度経過後3カ月以内に内閣総理大臣に提出することが必要なほか、業務および財産の状況の説明書類を作成し、全ての事業所に備え置き、誰でも閲覧できる状態にすることが求められている。
しかし、一部の金融商品取引業者は、事業所を訪問して業務および財産の状況の開示を要求しても、開示に消極的な企業も存在する。非開示は金融商品取引法上、罰則が科される可能性もある。近年では、非上場企業や非上場の上場子会社単体でも、自社の決算内容や決算説明の詳細を自社ホームページなどで開示する企業も多く、情報開示で信用向上を図る企業も多い。
金融商品取引業者には、法令上の義務を果たすことは当然だが、利用者や社会から信頼されるための積極的な取り組みがこれまで以上に求められている。