手遅れを防ぎ成長へ、事業再生の新たな方向性 ~「再生支援のあり方検討会」 中小企業庁金融課インタビュー ~
再生支援の早期着手と規律付け―。
中小企業支援の現場で多くの関係者が直面する壁に中小企業庁が真正面から取り組もうとしている。金利上昇に突入するなか、「延命」との批判があるリスケ(金融債務の返済繰り延べ)が持つ意味は大きく変わり、事業継続に向けて抜本的なB/S改善と稼ぐ力の向上は欠かせない。
中小企業の政策立案の本丸である中小企業庁は2025年12月~26年3月にかけ、「中小企業における事業再生支援のあり方検討会」(以下、検討会)を5回開催し、3月24日に報告書を公表した。東京商工リサーチ(TSR)は事務局を務めた同庁事業環境部金融課の担当者に、検討会の設置意図や報告書の概要、今後の中小企業政策などを聞いた。
インタビュー回答者
・佐藤諒一企画官
・本澤知子課長補佐
・白井陽一郎課長補佐(弁護士)
―信用調査などで取材をすると、窮境にある企業が少なくない
(本澤)事業者(企業)を取り巻く環境として、人手不足や原材料・エネルギー価格の高騰に加え、「ゼロゼロ融資」の返済開始、金利上昇などが複合的に立ちはだかっている。「債務超過」かつ「EBITDA有利子負債倍率が10倍超えまたはマイナス」にある事業者を「再生フェーズ」にある企業として定義し、分析したところ、国内に約40万社あり、高止まりしていることがわかった。

インタビューに応じる中企庁・本澤課長補佐
―2003年に中小企業再生支援協議会(当時、以下協議会)が設置され、07年に全国本部(※1)が出来た。支援メニューも適宜拡大してきた。今回、再生支援のあり方を検討した意図は
(本澤)事業環境や経営課題は大きく変化している。また、協議会に事業者が相談に来るタイミングが遅く、もう立ち行かない状況に陥っている先が増えているとの問題意識(※2)もある。抜本再生のうち約85%がスポンサー型(※3)で、自力再生の割合低下が顕著だ。そのような中、事業再生に関する検討会は中小企業庁では約20年開かれていなかったこともあり、支援の量を増やす、機能を増やすだけではなく、質を高め将来を見据えた再生支援のアップデートを図るべく、検討会を設置した。
※1 全国本部と各地の協議会は主従の関係ではなく、全国本部が協議会に助言指導する形を採っている
※2 初回条件変更(リスケ)後の経過年数は10年以上が31%を占める(金融庁「地域銀行による顧客の課題解決支援の現状と課題」2024年6月)
※3 全国本部の取りまとめによると、2024年度の債権放棄を伴う再生のうち、スポンサーによる支援を受けた案件の比率は84.7%。2025年度上半期は91.5%
―検討内容、報告書の概要は
(本澤)事業再生で重要なプレイヤーとなる事業者(債務者)、協議会、金融機関(債権者)、士業等のそれぞれについて、再生支援の課題を洗い出した。その結果、(1)早期着手、(2)再生支援の規律・伴走支援、(3)協議会支援力、(4)地域における再生支援機能―それぞれに課題があることが浮かび上がった。
(佐藤)具体的に述べると、(1)早期着手では、事業者が自社の財務状況を把握できていないこと(※4)や、平時より密接な関係にあるはずの金融機関や支援機関も、事業者の状態を把握しきれておらず、モニタリングが不十分なことが浮き彫りになった。
(本澤)(2)再生支援の規律・伴走支援については、繰り返されるリスケ、出口を見通せていないリスケ(※5)の存在も明らかになった。最終的にこうした対応が(再生への足掛かりや円滑な廃業など)事業者の幸せに繋がっていれば良いが、結果として抜本的な再生への着手が遅れ、課題解決の難度を高めているのが実情だ。リスケ自体は改善に必要な時間を確保する上で重要な支援であり、初期の段階で事業者に応じた効果的な支援へつなぐことが求められる。(3)協議会支援力の課題では、地域ごとにスキル、ノウハウの差があることが浮き彫りになった。(4)地域における再生支援機能の課題としては、金融機関や再生ファンド、サービサーなどの再生支援の担い手の間での連携が不足している。再生支援人材が地域によっては不足しており、能力にもばらつきがあることもわかった。
※4 再生フェーズ企業のうち、自社の財務数値を把握していない事業者は約35%(「中小企業における事業再生支援のあり方検討会」参考資料11ページ)
※5 返済条件変更を受けている事業者のうち、条件変更の継続を希望する割合は87.6%(金融庁「地域銀行による顧客の課題解決支援の現状と課題」2024年6月)
―こうした課題は初めて浮き彫りになったのか
(佐藤)事業再生に関わる方のなかでは、ぼんやりとした共通認識はあったと思う。今回、実態が可視化され解像度が上がった印象だ。支援制度ごとの使われ方などを具体的な数値で、ファクトとして提示し、現状を確認することができた。

検討内容を解説する佐藤企画官
(白井)こうした現状認識を踏まえ、事業継続が困難になる前に再生支援の早期着手に向けた予兆管理や支援の規律を強化するとともに、地域での支援機能を強化し、「成長型再生」に向けて取り組む方向性を打ち出した。
(本澤)検討会では、課題に対応する4つの柱が提言された。1つ目は、「早期着手に向けた予兆管理強化」だ。「モニタリング保証制度(※6)」なども利用し、事業者が(業況変化に)早期に気付く機会を作り、適切な支援を行う。2つ目は、「再生支援の出口の明確化」だ。再生計画の策定段階から、出口の方向性やバックアッププランを明示し、支援期間中の進捗管理や関係者間の認識共有を通じて、事業者の状況に応じた適切な支援につなげていく。厳格化することが目的ではなく、適切な支援を効果的なタイミングで提供し、より良い出口につなげていくことが重要である。3つ目は、「協議会の支援力強化」だ。協議会は窮境に陥った中小企業を支える専門機関であり、支援体制の底上げを図り事業者の経営改善・事業再生を加速させていく。4つ目は、「再生支援人材の育成・輩出」だ。再生支援人材はそもそも不足しており、特に公認会計士が足りていない。公認会計士は(弁護士を全協議会に配置したことに続き)まずは、地域ブロック単位での協議会への配置を強化していく。また、自力再生が難しい企業のスポンサー型再生が増えているので、再生M&A案件の促進に向けたガイドラインの策定やインセンティブ付与など環境整備の重要性も提言されており、現在検討を進めている。
※6 モニタリング強化型特別保証制度。認定経営革新等支援機関と連携が必要。金融機関や信用保証協会へ定期報告することで、信用保証料の補助が受けられる
―「抜本再生」と何度か出てきたが定義は
(白井)協議会の各種統計データにおいては、DDS以上(※7)を抜本再生として集計している。もっとも、再生支援の実務において抜本再生という場合には、単なる返済条件の変更にとどまらず、過剰債務の実質的な圧縮を通じて財務構造を大きく改善する取組が想定されることが多い。
(佐藤)定義や解釈が様々あるのは承知しているが、財務上のリストラクチャリングを伴うものだ。そして、B/SだけでなくP/L改善も含めた一体的な計画を伴うものが抜本再生のイメージだ。
※7 DDS(Debt Debt Swap)以上なので、DDS、DES(Debt Equity Swap)、債権カット(放棄)。事業再生ガイドラインでは、DDSを含むかについて「定義や範囲が画一的なものでなく、法的効果も様々であり、一義的には判断できず、個別に判断することになる」と定めている
―打ち出した方向性に対する反応は。規律と伴走支援強化では、収益力改善計画での金融支援が原則廃止され、プレ再生の運用が柔軟化された。協議会の実務へ影響がありそうだ
(白井)協議会から上がった声は小規模事業者への対応だ。「収益力改善支援」はDD(デューデリジェンス)を行わないので、小規模事業者が専門家費用を負担しない案件が大多数を占める。協議会としても収益力改善支援は実務上、理にかなっている面もある。事業者とのコミュニケーション、腹落ちの期間としても金融支援としてのリスケが有効な場合もある。ただ、収益力改善支援における(上記のような)有効的な活用は限定的であり、支援メニューとしてプレ再生がある以上、本格的な再生計画を見据えて事業者の財務面や事業面をきちんと見て、早期に有効な再生支援をしてもらいたいので、今回の方向性を打ち出すに至った。
(佐藤)事業者のフェーズと支援主体(協議会、民間専門家=405事業)で俯瞰する必要がある(図)。収益力改善フェーズの事業者には、協議会はこれまで「金融支援あり」で対応していたが、事業者の本当の再生という側面と協議会にノウハウが溜まった側面を鑑みて、協議会が固有で対応する役割期待をどこに向けようか、と考えた。その結果がプレ再生だ。再生フェーズの事業者への対応に協議会のバリューを注いでもらって、その前のフェーズの対応は民間が主体で担ってもらう、というのが今回の大きな趣旨。早期の経営改善は民間主体で、地域の金融機関にも活用いただき事業者支援につなげ、窮境状態が重くなる事業者は協議会が支援する構図だ。
(本澤)大きな方向転換にみえてしまう面もあったようで「(支援の)入口を狭めたのでは」との声はあった。検討会の委員からは、「入口は変わらず広く維持した上で、最適な支援制度を選択・活用し、早期に実効性の高い事業再生の方向に導くことが重要である」と提言があった。

(図)再生支援の方向性(中小企業庁提供)
―プレ再生は手間とお金がかかる
(白井)専門家費用を補助しているので、予算措置も必要になるだろう。今後、小規模事業者のプレ再生支援が多くなると見込んでいるが、全ての支援においてフルスペックでのDDをすべきなのか。事案ごとに金融機関の顔ぶれや事業者の置かれている状況を分析し、関係者でよくコミュニケーションを図りながら、最適な支援に取り組んでもらいたい。
―報告書では固有債務(※8)の問題にも触れた
(白井)既にリスケしていたり財務状況が厳しいことから事業者(法人)に貸せず、代わりに経営者である保証人(個人)に貸すことで法人の資金繰りに充当する「事業資金」が、事業者の債務整理の段階で経営者の「固有債務」となり、再生を決断する阻害要因となっているという指摘が検討会であった。
債務整理の実務では債務者代理人(弁護士)が交渉して、固有債務の性質をみて、保証債務整理の対象債権に入れて処理することも多い。こうした融資への考え方は様々だが、事業再生の阻害要因の一つになっているという認識だ。
※8 ここでは、融資が困難な法人に対して金融機関が、融資の代替として経営者個人への貸出した債務を指す
―今後の中小企業支援の方向性は
(白井)ポイントは「成長型再生」だ。リスケ継続の厳格化(回数、期間の上限設定)のように規律を強化しつつ、協議会負担や補助上限の拡充など伴走支援を強化する。
また、財務状況が悪い事業者は自力再生を志向しても元の状態に戻る負のスパイラルに陥りがちだ。そのため、スポンサー型再生(再生M&A)も促し、成長に乗せていくことが重要だ。「成長型再生」をキーワードに、今後の施策を進めていく。

債務整理の実務を解説する白井課長補佐
―リスケ継続の厳格化や再生M&Aは「社長の椅子の数が減る」と捉える向きもある。進めるべきは、企業再生なのか、事業再生なのか
(佐藤)企業(法人)という“器”を守ること自体に価値があるわけではなく、企業が有する経営資源を適切に評価し、それらを最も有効に活かす道を探すことが重要である。経営資源の毀損を防ぐには早期の再生が重要であるし、経営状況に応じては再生M&Aの選択が重要となってくる。国内人口が減少し労働供給が制約される社会において、従業員がやりがいをもって働くことができ、生産性が向上し、賃上げ等の好循環を実現するよう取り組んでいきたい。
―金融課はこれまで、支援機関や金融機関の支援の在り方に焦点を当て施策を作り上げてきた。今回の報告書では事業者(経営者)のリテラシーにも踏み込んでいるようにみえる
(本澤)検討会の委員から、事業者(経営者)側にも課題があり、規律立った経営を実現できていない面があると指摘があった。中小企業の経営者も、財務内容や現状把握などにリテラシーをしっかり高め、責任をもって経営していくべきとの提言があった。
「中小企業の駆け込み寺」である協議会は中小企業庁の委託事業として長年歩んできた。支援メニューや人員が拡充されるなかで、地域差や用意された支援策の趣旨とは必ずしもそぐわない実態があったことも事実だろう。
今回の報告書は、自己批判も厭わない内容にも映る。企業をより細かくケアして、最適な支援メニューがより良い環境で提供できる仕組みへ変化させる。
抜本再生と成長力強化への決意が報告書から滲み出る。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年7月16日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)