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全東信の粉飾、資本と営業権と不動産から読み解く

 大手決済代行の(株)全東信(TSRコード:575448075、大阪府)の粉飾は見抜けたのか。破産したいま、過去の決算書を基に違和感を指摘するのは難しくない。預金残高の水増しや債権の架空計上など、全東信はありきたりの手口に手を染めていた。ただ、コンプライアンス意識の高まりで金融機関間の間で情報連携は難しくなり、債権の実在性への疑義は上場企業でも度々発生している。取引金融機関の審査能力を一方的に指摘するだけでは得るものがない。
 東京商工リサーチ(TSR)の取材や関連資料を基に、気付きのポイントを探った。



資本金と出資者

 まず、資本金の推移に注目した。2006年9月、全東信の設立当初の資本金は9,000万円だった。代表者は、設立から破産まで同一人物だ。増資を重ね、15年2月に3億6,000万円、17年12月に9億7,000万円、18年9月に15億円、19年11月に20億円、21年6月に35億円、22年3月に45億円(発行済み株式6万1,800株)と推移している。
 出資者の推移を完全に追うことは難しいが、代表者が他社(者)からマネジメントを強く受けていた形跡は確認されず、独資だったと推測される。
 TSRが入手した「同族会社等の判定に関する明細書」(2025年3月期)によると、代表者が6万1,800株を保有し、同族判定となっている。翌年度(26年3月期)の明細書も同様だ。現物出資なども考慮する必要があるが、多額の資本金に裏打ちされた株を保有するだけの資力を代表者は持ち合わせていたのか。全東信の役員報酬明細を遡ると、代表の報酬額は年間数千万円で、これが背景とは到底思えない。


全東信の資本金

 では、関係会社など兼職から多額の報酬を得ていたのか。TSRの企業データベースを検索すると、役員兼務など関係性が伺わる企業は複数ある。例えば、全東信飲食事業(協)(TSRコード:571539440、大阪府)、(株)全東信システムソリューションズ(TSRコード:576545147、大阪府)、(株)東信キャピタル(TSRコード:575955872、大阪府)、(株)東信クレジットサービス(TSRコード:571272967、大阪府)などだ。
 ただ、いずれも本体の全東信より大きな業容は築けていなかったようだ。東信クレジットサービスの2019年3月期の資産合計は5,683万円、全東信システムソリューションズの19年3月期の資産合計は1億972万円に過ぎない。ともに数百万円の最終赤字に沈んでいる。
 2006年に全東信を設立(法人化)する以前の資力はどうか。TSRの過去の信用調査によると、代表者は設立前に個人事業を営んでいた履歴が確認される。ただ、業容は大きくなかったようだ。

多額の営業権

 ほかの資金ねん出方法も検討したい。TSRが入手した全東信の2026年3月期の決算書をみると、貸借対照表の無形固定資産に88億2,000万円が計上されている。営業権は他社のブランドやノウハウなどを取得した際、長期にわたって利益を生み出すことを前提に計上される。TSRが入手した減価償却資産の明細によると、営業権は定額法による償却で、取得価額は151億2,000万円。1年に7億5,600万円を償却している。取得は2017年12月だ。
 この営業権の取得先はどこか。全東信の代表者が経営する関係会社が浮かび上がる。関係筋によると、営業権の対価を原資として、多額の配当をしたという。TSRの企業データでは、この企業の株式は全東信の代表者が保有している。

不動産の所有権移転

 さらに取材を進めると、興味深い不動産売買もある。東信クレジットサービス名義だった不動産が全東信に売却されているのだ。しかも住所の異なる複数の物件が確認される。そのうちの1つは、2017年8月に新築され、同年10月に東信クレジットサービス名義で所有権保存登記され、同年12月に全東信に売却されている。TSRのデータベースによると、東信クレジットサービスの代表者も株主も全東信の代表者と同一だ。
 株式配当は課税対象のため、グループ企業の役員と株主が同一である場合、広義での資金流出を招く。また、グループ内での不動産の売買にも諸費用は発生する。グループ内での(無形を含む)資産の移動は得策とは言えない面もある。複数の会社を設立し、営業権や不動産売買を経由した先に資金はどこに流れたのか。
欲望の主体が不明確な先への与信――。実務の現場では直面しがちの問いだが、誤解を恐れずに書くと、判断は経営風土により左右される。短期収益へのコミット度合い、地域の経済合理性への理解、経営トップの経営姿勢、様々な要素が絡み合い、与信が判断される。
今回のように一企業の破たんが社会への影響が大きい場合、まずは金融機関へ相談、私的整理、再建型法的整理が検討される。多くの取引金融機関で保全出来ていないことを鑑みると、こうした事前調整なしに突然死したとみえる。私的整理や再建型法的整理ではデューデリジェンス(資産査定、DD)を経るが、避けたい理由があったのか。


全東信赤坂ビル

粉飾は決算書のみにあらず

 全東信のケースも含めて、巨額の粉飾が明るみになった際は、事後的に判明した勘定科目の操作を指摘しながら金融機関の審査力を問う声が噴出する。ただ、粉飾の実態を精緻に捉えるのは途方もない作業だ。資金の流れは重層的で、結果を示す決算書だけでは立体感がない。今回、営業権と関係会社の資本背景や業容、不動産の売買履歴、配当などを基に検証した。これでも粉飾を見抜く作業量としては全く足りない。
 こうした作業を融資先全てに求めるのか。貸出競争が厳しい中、金融機関の責務は深まるばかりだ。


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