倒産データからみる「倒産が多い住所」 ~ 一等地のイメージと与信リスク ~
円安、物価高、人件費の高騰が企業収益を直撃し、過去からの過剰債務も絡み合い、企業倒産は増勢が続いている。
同一住所で複数企業が倒産しているケースに遭遇する。「新宿区西新宿」や「港区浜松町」、「中央区銀座」など国内でも有数の繁華街やビジネス街にある企業の倒産を取材している際に、感じることが多い。
住所の「風格」からは有力企業が点在していると錯覚しそうになるが、その一角に「倒産が多い住所」が紛れ込んでいる。
現地を訪れると、企業の看板はどこにもない。多くはバーチャルオフィスが入居するビルだ。エントランス横の壁には、整然と並んだ無数の郵便受けと、無機質な受付のタッチパネルがある。人の出入りを感じられないビルも少なくない。
1年間で14社が倒産したビル
東京商工リサーチ(TSR)が保有する企業倒産データから、2025年度(4-3月)に発生したものを抽出し、取材での「実感」を検証した。同一住所で2件以上の倒産があったケースは798件だった。この中には、親・子、関連会社の倒産も含まれる。
1つの住所で1年間に5社以上の倒産は、全国で8カ所(東京都7カ所、大阪市1カ所)だ。
この「倒産が多い住所」の最多は西新宿3丁目のビルで14社だった。都庁から徒歩数分の大通りに面した雑居ビルだ。
以下、浜松町2丁目のビルは8社、銀座7丁目のビルは7社と続く。倒産の時期や経営者、業種はバラバラで、特に関連性は見当たらない。

小・零細企業の倒産が目立つ
同一住所で倒産した798社は、資本金100万円未満が758社(構成比94.9%)で小・零細規模の企業が大半を占める。負債総額は、1億円未満が523社(同65.5%)で、やはり小・零細企業が多いことを裏付ける。
設立年のうち、設立10年未満は284社(構成比35.5%)で、3割を超える。ほぼ個人企業に近い小規模資本など、業歴の浅い企業が特徴だ。
原因別では、「販売不振」が375社(構成比46.9%)で最も多かった。また、「不況型」倒産(既往のシワ寄せ+販売不振+売掛金回収難)は452社(同56.6%)と約6割を占めた。新興企業の事業が軌道に乗らないまま、倒産に至るケースが透けてみえる。
産業別では、多額の設備を持たないことが多いサービス業他が318社(構成比39.8%)、卸売業が118社(同14.7%)、小売業が80社(同10.0%)と続く。
さらに業種をこまかくみると、ソフトウェア開発や経営コンサルタント、無店舗小売が多い。PCとネット環境の整備など少額の初期投資で事業が成立する特性を持つ。
ランキングトップの西新宿3丁目で倒産した企業(14社)は、業種は情報通信業、サービス業他、小売業、資本金は100万円未満の小・零細企業が大半だった。
登記多数住所との重複
TSRは2024年12月、「法人登記の多い住所」を調査した。それによると、最多は港区南青山2丁目の雑居ビルで4,535社だった。1,000社以上が登記している住所は14カ所で、上位10位までを東京都の「港区」、「渋谷区」、「中央区」、「千代田区」が占めた。
都心の一等地で、同じビルの中に数千社もの本社がひしめき合う法人登記のジャングルだ。こうした「法人登記が多い住所」と「倒産が多い住所」は重複することもある。

利便性の裏で悪用も
近年、合同会社など低コストで会社設立が可能になり、新設法人数は増加傾向(※1)にある。過去にはコンサルティング会社が実体のない会社を大量に設立し、給付金や支援金などを吸い上げ、すぐに破産する悪質なケースもみられた。犯罪や消費トラブルに悪用されるケースも後を絶たない。
同じ住所で、短期間に社名を次々と変えることを繰り返し、追及の手が及ぶと煙のように消える。そういった企業の見極めは難しさもある。
これまでの与信調査は、支払遅延や業界内の噂、現地の稼働状況などで、動向を察知することが可能だった。だが、バーチャルオフィスに紛れたペーパーカンパニーは、活動実態がみえない。何の前触れもなく、債務整理の通知が届くこともある。
※1 TSRの集計によると、2025年に全国で新しく設立された法人は15万7,011社(前年比1.9%増、3,073社増)で、2008年に統計を開始以降、最多を更新。2023年から3年連続で最多が続いている
ビジネスシーンで「相手がバーチャルオフィスだから」と、一括りで判断すべきではない。スタートアップ、個人事業主が初期費用を抑えながら、一等地のブランドを名刺に刷り込めるバーチャルオフィスは、存在価値があるからだ。
組織に縛られないフリーランスの働き方が増えると、利用はまだ増えるだろう。
ただ、同一住所に数千社がひしめき、その中から1年間で10社以上が倒産している。
「倒産が多発する住所」は、現代のビジネスモデルの結果だ。ネット全盛期のいま、企業の実体が見えにくいのは普通なのかも知れない。だが、そんな風潮のなか、登記上住所の一等地に惑わされず、経営実体をいかに見極めるか。ここでもまた、外形に惑わされない“目利き力”が問われている。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年7月3日号掲載「取材の周辺」を再編集)