“包丁“人気が広がる 輸出とインバウンドが背景
~2026年「調理用包丁製造業」業績動向~
世界的な人気の日本刀を起源とする鍛造技術、そして食材の味を生かす日本の包丁が活況を呈している。
東京商工リサーチの企業データベースから調理用包丁メーカーのうち、5期連続の業績比較が可能な38社の最新決算(2024年9月-2025年8月期)は、売上高167億3,300万円(前期比2.5%増)、利益6億2,300万円(同44.5%増)と、いずれも最高を記録したことがわかった。
家庭の根強い需要に加え、ふるさと納税や過去最高の訪日外客数が日本の包丁人気に追い風になっている。 農林水産省によると、海外の日本食レストラン数は2025年に約18万1,000店に達し、2015年の約8万9,000店から2倍以上に増えた。
また、日本の包丁は海外でも人気が高く、輸出に注力するメーカーも出てきた。レストランに限らず、家庭の調理も需要が根強い。特に、コロナ禍の「巣ごもり需要」で人気が再燃して売上を大幅に伸ばしたメーカーや、輸出人気で注文量が生産能力を超えるメーカーもある。
近年はインバウンド客が増加し、消費者が日本の小売店で自らモノを確認する、または体験した上で購入するケースも目立つ。訪日客に人気のある繁華街での量販店で販売するほか、海鮮市場に店舗を併設したり、調理体験で購入を促すなど、多様な販売チャネルの構築で売上を伸ばしている。
コロナ禍の巣ごもり需要で国内外で人気が高まったほか、国内向けでは各メーカーは利用者が増加するふるさと納税の返礼品として売上機会の獲得にも注力する。
※東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースから、主業種が「利器工匠具・手道具製造業」「洋食器製造業」の企業を抽出し、主な扱い品が調理用包丁の企業のなかで5期連続で売上高と利益が比較可能な38社を分析した。
※売上高が10億円以上の企業は、統計全体に占める1社あたりの影響が大きくなるため、売上高・利益全体のうち、開示情報やTSRの企業データベースから判明した調理用包丁の構成比分を集計対象とした。
売上高・利益ともに過去5年で最多
全国の調理用包丁メーカー38社の最新期は、売上高が167億3,300万円(前期比2.5%増)と増収だった。利益も6億2,300万円(同44.5%増)と大幅増益だった。
増収や増益の企業数は増加する一方、減収や減益の企業数は減少し、業界全体では活況が明らかになった。
巣ごもり需要の一巡で、売上の伸びの鈍化や原材料高による減益傾向の企業もある。だが、消費者の価値観がモノからコトに変化し、各社とも訪日客をターゲットにした体験(コト)による購買意欲の促進など、創意工夫を凝らしている。物価高の逆風はあるが、創意工夫による価値創造と価格転嫁、円安を背景にした輸出増などが、利益を押し上げている。

売上高都道府県別 東京都がトップ、次いで関市がある岐阜県
集計対象となった企業の売上高合計を都道府県別にみると、トップは東京都で70億1,400万円(構成比41.9%)だった。売上高が最も大きい1社が全体を押し上げた。
「世界三大刃物産地」の1つに数えられる関市がある岐阜県は東京都に次ぐ多さで、53億2,100万円(同31.8%)だった。なお、関市以外の2つは、英国のシェフィールド、ドイツのゾーリンゲンである。
また、洋食器や金属加工で有名な燕市、三条市がある新潟県が3番目で、28億200万円(同16.7%)、「土佐打刃物」を伝統工芸とする高知県が7億5,000万円(同4.4%)、「堺打刃物」で知られる堺市がある大阪府が5億8,500万円(同3.5%)だった。

業歴別 50~100年未満が最多
業歴別は、最多が50~100年未満で28社(構成比73.6%)だった。100年以上も6社(同15.7%)だった。
刃物が伝統工芸である地域も多く、老舗企業の多さが目立った。
集計対象となった企業で最も業歴が長い企業は1903年創業の(株)坂源(三条市)だった。2番目に長い企業は1908年創業の貝印(株)(千代田区、創業の地は関市)だった。

従業員別 10人未満が6割超え
従業員別は、最多が5人未満で13社(構成比34.2%)だった。次いで5~10人未満で12社(同31.5%)だった。
5人未満と5~10人未満を合わせると65.7%に達した。一方、100人以上も2社(同5.2%)あった。
老舗企業が多く、今後は経営者や職人の高齢化が進み、経営者、職人ともに後継者の確保が課題となる企業が増加することが予想される。もちろん、自社で解決に向けた動きに早期に着手することも重要だが、各自治体や地域金融機関の支援策にも注目だ。

後継者難への支援の形は多様化
包丁・刃物に限らず、伝統工芸品を手がける企業では、経営の持続性という共通の課題を抱えているが、企業の支援への動きが様々な主体で活発になっている。
買収や事業譲渡を前提としないマイノリティ出資を基本にした支援も増えてきた。出資先の販路拡大やブランドストーリーの構築支援のほか、経営者交代で社内の変革に伴う資金調達を一時的に支援する方法も台頭している。
業界を取り巻く環境は良好な要素が多い。今後、業界各社は多方面のステークホルダーの経営に関するノウハウを取り入れながら、経営の持続性を高めることが必要だろう。