• TSRデータインサイト

Xアイコン
facebookアイコン

守りたい「街の銭湯」1,493軒 ~ 利益確保への自助努力、後継者問題解決への支援~

 一日の疲れを癒し、明日への活力を養う銭湯。時代が変わっても、銭湯の心象風景は変わらない。だが、コロナ禍の次は物価高、燃料費高騰に見舞われ、高齢化する経営者の後継者がいない銭湯も少なくない。昔ながらの「銭湯」文化が存続の危機に立たされている。



 街の銭湯で構成する全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会(全浴連)によると、2026年4月時点の銭湯(一般公衆浴場業)は全国で1,493軒。ピークだった1968年の1万7,999軒から9割減少している。
 家庭風呂の普及で、銭湯の役割は大きく変わった。さらに、燃料費や水道光熱費の上昇、建物・設備の老朽化、後継者不足だけでなく、健康ランドやスパ施設などの台頭もあり、銭湯数は減少が続く。
 だが、近年はこの流れを逆手にとってサウナブームやレトロブームに乗り、若年層を取り込む動きもみられる。また、インバウンド観光客向けに「日本文化体験」として銭湯の魅力を発信し、新たなファン層拡大を狙う銭湯も出てきた。
 「一般公衆浴場」の銭湯は、物価統制令に基づき、入浴料金は都道府県ごとに決められている。このため、燃料費が急騰したからといって自由に値上げはできない。この構造が生き残りの足かせになっている。

組合加入銭湯数の推移(全浴連調べ)

2024年、25年と利益は減少

 東京商工リサーチ(TSR)の企業データから、主な銭湯運営会社48社の売上高、最終利益を7期連続で分析した。
 48社の2019年(1-12月期)の売上高合計は634億6,800万円、利益は16億3,400万円だった。コロナ禍の影響を受けた2021年の売上高は455億100万円と約3割(前年比28.3%減)落ち込み、利益は39億3,100万円の赤字に転落した。
 新型コロナが5類移行した2023年には、人流が戻るなかでサウナブームが重なり、売上高は601億4,400万円とコロナ禍前を超えた。利益も84億9,600万円と、2019年以降の7期で最高を記録した。
 だが、息を吹き返したかにみえた銭湯に、今度は水道・光熱費などの物価高が襲った。2025年は売上高こそ670億6,700万円と増収だったが、利益は41億8,500万円(同28.7%減)と大きく落ち込んだ。

「銭湯」の業績推移

原油高が営業に支障きたすことも

 2026年は、米国とイスラエルによるイラン攻撃で中東情勢が緊迫化し、原油価格の高騰や調達不安が銭湯に押し寄せた。
 銭湯は、湯を沸かす燃料にガスや薪、重油などを使用する。燃料を単体で使用するところもあれば、複数の燃料を組み合わせて使用するところもある。重油を使用する銭湯は「全国の銭湯の約35%」(全浴連)で、3社に1社が重油を使用している。
 営業時間内は常に湯を沸かし続けるため、やむを得ず時短営業や休業日を増やす銭湯もある。

利益確保へ、銭湯の取り組み

 こうした厳しい環境でも、銭湯は利益確保に工夫を凝らしている。ラムネなどの昔懐かしい瓶ジュースやスポーツドリンク、アルコールなどを用意し、客単価のUPにつなげる銭湯もある。また、銭湯ファンを増やすため、オリジナルグッズを企画、販売する銭湯もあり、経営維持への涙ぐましい努力を続けている。

自治体支援で銭湯存続も

 小・零細規模が多い銭湯は家族経営が大半で、後継者問題が深刻になっている。こうしたなか、東京都では「公衆浴場承継マッチング事業」を2025年度から開始した。
 経営相談から始まり、事業承継までをサポートする。東京都の担当者によると、「25年度は27件の経営相談があり、(家族以外に)事業承継に至ったケースもあった」という。この取り組みは26年度も継続され、後継者が負担する賃料や改修費などを補助する「公衆浴場後継者支援事業」も行っている。



 銭湯は住民の入浴施設だけでなく、交流の場や地域コミュニティの拠点の役目も果たす。また、世間の喧騒と一線を画す別空間にもなっている。
 こうした癒しを求める人も多いが、銭湯が減るのは仕方ない時代背景もある。それだけに、存続を実現するには行政と地域の熱量が問われている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年6月2日号掲載「取材の周辺」を再編集)




Xアイコン
facebookアイコン

人気記事ランキング

ランキング1位
  • TSRデータインサイト

「最低賃金」改定で、51.3%の企業が「給与変更」 2020年代の1,500円 「対応不可能」が4割切る

厚生労働省は9月3日、2026年度の全国の最低賃金額(平均)を1,177円(56円増)に引き上げた。 1978年度に目安制度が始まって以降、平均引き上げ額56円は前年度に続き2番目の高さで、これを受けて給与改定を迫られる企業が半数に達することがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

1-9月「医療機関」倒産 過去最多の59件 身近なクリニック、歯科医院で苦境が鮮明

医療機関の倒産が再び勢いを増している。2026年1月-9月に倒産した病院・クリニック(診療所)・歯科医院などの「医療機関」は59件(前年同期比28.2%増)と、過去最多を更新した。

3

  • TSRデータインサイト

「税金滞納」倒産が168件、前年同期の2倍に大幅増 2026年度上半期の「税金滞納」倒産 破産が97.6%

2026年度上半期(4-9月)の「税金滞納(社会保険を含む)」倒産は、168件(前年同期比100.0%増)と、前年同期の2倍に達し、この10年で最多を記録した。物価や人件費などのコストアップが企業収益を圧迫し、納税原資を確保できない小・零細企業の行き詰まりに拍車を掛けている。

4

  • TSRデータインサイト

「社会保険の適用拡大」 中小・零細企業ほど負担増 企業の44.9%が「働き控え」懸念、「未対応」も半数

2026年10月から非正規従業員にも社会保険の適用が拡大された。「月収8万8,000円以上」の賃金要件が撤廃され給与額に関わらず条件を満たす社員は、新たに厚生年金や健康保険の加入対象となる。10月1~8日企業を対象に「社会保険適用の基準変更」に関するアンケート調査を実施した。

5

  • TSRデータインサイト

2026年1-9月「デイサービス」倒産47件 同期間で過去最多、介護業界の苦境鮮明

デイサービスなど「通所・短期入所介護事業」の倒産が増加している。2026年は9月までに47件(前年同期比34.2%増)と大幅に増加し、1-9月で過去最多を更新した。多様化するサービスなど、他社との競争が激化するほか、物価高に人手不足も重なり、苦境が深まっている。

TOPへ