マイスHDがM&A総研側を提訴~M&A総研側は「全面的に争っていく」と反論~
続発するM&Aトラブルへの対応を念頭に、中小企業庁は2026年度にM&Aに関するアドバイザリー資格を創設する。こうしたなか、M&A仲介大手が提案したスキームで損害を受けたとしてマイスホールディング(株)(TSRコード697622010、大阪府、以下、マイスHD)が2025年11月、損害賠償約1億2,000万円の支払いを求め、東京地裁に提訴したことが東京商工リサーチ(TSR)の取材でわかった。
M&A業界の関係者は、「業界のイメージに関わる訴訟だ」と語る。M&Aの現場で何が起きているのか…。
マイスHDが提訴したのは(株)クオンツ総研ホールディングス(TSRコード:033812225、千代田区)で、(株)M&A総合研究所(TSRコード: 697709230、千代田区、以下、M&A総研)を傘下に持っている。
原告であるマイスHDの元代表取締役・森秀幸氏は、TSRの取材に「M&A総研が提案したLBOによるスキームが不適切で、結果として譲受企業(彩貴工業(株)(TSRコード: 300309139、板橋区、以下、彩貴))は事実上の倒産に追い込まれた」と、M&A総研の責任を追求する。一方、M&A総研は、「スキームを主導したのはマイスHD側であり、全面的に争う」と徹底抗戦の構えをみせる。
訴訟は、買収先の資金を買収の原資とするLBOを用いたスキームをどちらが提案したかが争点になっている。
原告のマイスHDは、2023年3月の創業で、M&Aを積極的に展開。買収先のコンサルティングなども手掛けていた。これまで約20社以上を買収したが、ほとんどが仲介業者からの紹介だった。
今回の訴訟とは別に、マイスHDは2024年8月にもM&A総研から紹介を受けた企業と株式譲渡契約の直前、M&A総研がアドバイザリー契約を解約した案件がある。M&A総研を介さずマイスHDと買収先が株式譲渡契約を進めたが、買収先からマイスHDなどに資金が送金されたことで訴訟に発展。その後、原告側が訴訟を取下げている。
マイスHDが提訴した背景
TSRの取材に応じたマイスHDの森元代表は、告訴に至った背景を次のように語った。
2023年12月頃、M&A総研HDと都内で水道工事業の彩貴の買収に関するアドバイザリー業務契約を締結した。
彩貴の買収では、彩貴の株主に支払う株式譲渡代金は11億円とされたが、マイスHDは11億円全額を支払う能力がなかった。そのため、M&A総研は、譲渡代金11億円を彩貴からマイスHDに対する融資金で賄うことを提案し、マイスは彩貴からの融資金で彩貴の株主に譲渡代金を支払った。
2024年1月、マイスHDはM&A総研が用意した契約書を用いて、彩貴に関する株式譲渡契約を締結。同日、彩貴からマイスHDへ4億円、同年6月にも7億円の融資が行われ、マイスHDから彩貴の株主に支払われた。
しかし、当時の彩貴は11億円に及ぶキャッシュがなく、彩貴が契約している金融機関の当座貸越が利用された。
なお、マイスHDはM&A総研に対し、報酬として株式譲渡契約の締結日などに計約1億2,000万円を支払っている。
M&A総研の提案したスキームに沿って彩貴の株式譲渡を実施したが、彩貴は当座貸越期限までに金融機関に返済できず、水道工事代金の約1億6,000万円を差押えられた。結果的に、彩貴は資金繰りが回らなくなり事実上の倒産を余儀なくされた。
当座貸越契約は、企業が資金繰り上の緊急事態に対応するためのつなぎ資金として利用されるものだ。それを逸脱する目的外利用は、金融機関との信頼関係を失墜させるだけにとどまらず、契約上の義務違反に該当する。金融機関から当座貸越契約の解除がなされ、融資金の一括返済を求められることになる。M&A総研に対する1億円超の報酬についても、彩貴からの融資金によって支払われていることを鑑みれば、提案スキーム自体に違法性を帯びていることを知りつつ故意に提案したと言わざるを得ない。
また、M&A総研が用意した彩貴に関する株式譲渡契約書の「対象会社に係る表明保証事項」には、通常ではみられない「ただし、当座貸越による借入れは除く」という記載がある。彩貴の当座貸越だけ除外する条項が敢えて記載されていることも違法性を認識していたことを示している。
M&A総研に報酬の返金を求めたが、期日までに返金がなされず、提訴することとなった。M&A総研に支払った金額が裁判を通して返金されたなら、彩貴工業の運転資金に充てる。
M&A総研の方針は
M&A総研はTSRの取材に、「当該案件に係るスキームを主導、提案したのはマイスHDであった。それにも関わらず、当社がスキームを主導、提案したことになっているなど、マイスHDの主張は多くの点で客観的事実に反し、その請求には理由がないと考えている。全面的に争っていく」とコメントした。
お互いの言い分は大きく異なっている。
TSRが2025年10月に実施したM&Aに関するアンケート調査で、中小企業の5.2%が自社売却を検討していると回答した。
また、過去にM&A仲介業者から何らかの形でアプローチを受けた企業は82.6%(6,347社中、5,246社)に及ぶ。
M&Aは、事業基盤や従業員の雇用などが確保される場合、地域経済の活性化につながる。だが、M&A仲介には、売り手と買い手の双方から手数料を受け取る利益相反問題、不透明な手数料、買収後の経営者保証の解除、資金流出への対応など、明示すべき課題も山積している。
急激に拡大するマーケットに多くのM&A仲介業者が参入し、一部の「悪意ある買い手」が社会問題になっている。こうした業者の排除がM&Aマーケットの課題でもあるが、M&Aの手法の1つであるLBOに絡む今回の訴訟は、M&Aのあり方を示すものとして動向が注目される。