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2025年「クマリスク」高まる、 企業の6.5%が「影響あり」 地区別では東北が28.9%と突出、全国に影響広がる

~2025年「クマ出没と企業活動への影響」調査~
 熊(クマ)による被害と出没情報が後を絶たない。クマの目撃事例は、山間部だけでなく、住宅地周辺でも相次ぎ、各地の企業活動に影響が広がっていることがわかった。
 東京商工リサーチ(TSR)が12月1日~8日にインターネットで実施した「クマ出没と企業活動への影響」の調査で、実際に従業員がクマに襲われる被害もあることがわかった。今回の調査で、企業の6.5%(414社)がクマ出没の影響があると回答した。このうち、業種別でクマの影響が「出ている」と回答した企業の割合が高かったのは、宿泊業の39.1%(23社中、9社)だった。
 地区別は、東北が28.9%(553社中、160社)と最も多く、次いで北海道が15.4%(362社中、56社)と続く。クマの絶滅宣言が出ている九州でも0.9%(538社中、5社)の回答があった。クマの被害は、直接・間接を問わず全国に広がり、企業活動へのリスクになっている。

 環境省が12月5日発表の「クマ類による人身被害について(速報値)」によると、ことし11月末時点で被害人数は全国で230人、このうち東北は154人(構成比66.9%)と突出している。
 本州や四国に広く生息するツキノワグマ、北海道に生息するヒグマの個体数が増え、温暖化とエサ不足で住宅地への出没が急増している。自治体では、有害捕獲に要する人員確保、わな設置費用、農作物などへの対策に追われ、財政への負担も軽くはない。また、国もクマ対策に総額34億円の補正予算案を提出。このうち、狩猟団体等への委託費や人材育成のための研修費等を含む交付金事業は28億円を計上している。
 山林地域の高齢化などで、被害対策への人材不足は深刻だ。このため、AIによるクマ検知システム、地域住民向けの危険エリア通知アプリなどの開発や、ガバメントハンター(狩猟免許を持ち、野生動物の管理や捕獲を行う自治体職員)の増員を急ぐ自治体も出ている。
 国や自治体が連携し、科学的データに基づく個体管理の強化、農地と森林の境界管理の徹底などで、生活圏でのクマ被害減少が急がれる。ただ、現実問題として、企業は従業員の生命と事業継続を同時に求められており、クマ被害は地域産業の継続性リスクにも拡大している。

※ 本調査は、インターネットによるアンケート調査で、有効回答6,309社を集計、分析した。調査は今回が初めて。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。



Q1.クマの出没が相次いでいます。貴社の業務に影響は出ていますか?(択一回答)

 影響が「出ている」との回答が6.5%(414社)
 6,309社のうち、クマによる日頃の業務への影響が「出ている」との回答は6.5%(6,309社中、414社)で、「出ていない」は93.4%(5,895社)だった。
 規模別では、影響が「出ている」との回答は、大企業が7.8%(498社中、39社)、中小企業が6.4%(5,811社中、375社)で、大企業が1.4ポイント上回った。





業種別 宿泊業が最多
業種別でクマの影響が「出ている」と回答した企業の割合が高かったのは、宿泊業の39.1%(23社中、9社)だった。
以下、電気・ガス・熱供給・水道業の21.7%(23社中、5社)、飲食料品小売業の21.2%(47社中、10社)、農・林・漁・鉱業の21.0%(57社中、12社)の順で、4業種が20%を超えた。
このほか、通信・放送業と織物・衣服・身の回り品小売業が各16.6%、生活関連サービス業,娯楽業が12.6%、その他の小売業が11.5%で続いており、幅広い業種で影響が出ていることが分かる。


地区別 東北が3割弱で突出
 地区別では、影響が「出ている」と回答したのは、東北が28.9%(553社中、160社)で突出した。次いで、北海道15.4%(362社中、56社)、北陸8.6%(196社中、17社)、中部4.7%(797社中、38社)が続く。
環境省の発表によれば、11月末時点で東北のクマ被害の人数は154人(66.9%)と、他エリアを圧倒している。
一方で、クマが生息していない九州でも0.9%(538社中、5社)あった。間接的にもクマ被害の影響は広がっており、企業にとって看過できないリスクとなりつつある。


Q2. Q1で影響が「出ている」と回答された方に伺います。どのような影響がありましたか?(複数回答)

 「従業員への周知・啓蒙に迫られた」が47.0%
 クマ被害の影響があると回答した企業(385社)に、どのような影響があるかを聞いた。
最多は、「従業員への周知・啓蒙に迫られた」が47.0%(181社)で半数近くを占めた。特に、建設業64.3%、金融・保険業60.0%、運輸業52.9%の3産業で、50%を超えた。次いで、「被害防止のための投資が必要になった」が27.5%(106社)だった。
 この他では、「イベントの延期・中止」、「訪問の取りやめ」、「来客・受注が減った」、「郵便・配送に支障」など。




「その他」では以下のような回答があった。(一部抜粋)
・従業員がクマに襲われた(群馬県、道路貨物運送業、中小企業)
・従業員が出勤不可となった(秋田県、飲食料品小売業、中小企業)
・クマによる食害(山形県、飲食料品卸売業、中小企業)
・電気牧柵による防衛(長野県、農業、中小企業)
・対策グッズの用意(長野県、その他の小売業、大企業)
・従業員が学校の送り迎えをするため勤務時間中に離席(秋田県、サービス業、中小企業)
・熊の被害の修繕(山形県、卸売業、中小企業)
・パトロール・点検作業等、複数人体制とした(静岡県、建築材料等卸売業、中小企業)など

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