創光科学の「破産開始決定」が取消しに ~上場子会社、複雑に絡まり合う利害関係 ~
東証プライム上場の医療機器メーカー、日機装(株)(TSRコード:291148239、渋谷区)は5月15日、連結子会社の創光科学(株)(TSRコード:402542177、渋谷区)の破産開始決定の取消しに関する経過を開示した。
日機装は、2024年12月に東京高裁が下した創光科学の破産取消しを不服として最高裁へ特別抗告を申し立てていたが、4月21日に抗告棄却が決定。同月28日に破産管財人による財産管理が終了したことを明らかにした。
破産手続きを巡り、2年にわたる親会社VS創業者の異例の抗告合戦へと発展した事件は、最高裁の判断でようやく決着した。
事業撤退で子会社の破産を決断
発端は、日機装による連結子会社への創光科学の破産手続きだった。創光科学は除菌作用などが期待される深紫外線LED事業を目的に2006年7月に設立。大学内ベンチャーとして研究開発の実用化を目的にスタートした。
2012年3月、創光科学の将来性を高く評価した日機装が株式を取得、連結子会社(持株比率79.0%)となり、2015年10月に深紫外線LEDの開発に成功した。
だが、創光科学の業績は伸び悩み、売上高は2013年12月期の1億7,452万円をピークに、その後は不振が続き債務超過に陥った。
創光科学は深紫外線LED製品に係る特許維持管理を主な業務としていたが、債務超過がさらに膨らみ、日機装は深紫外線LED事業からの撤退を決断した。こうして2023年5月11日、東京地裁に創光科学の破産手続を申し立て、同年5月17日、破産手続開始決定を受けた。負債総額は14億4,100万円だった。
創業者による破産取消しが認められる
この破産申請に対し、創光科学の創業者らが、株主の立場で東京高裁へ破産手続きの取消しを求めて即時抗告を申し立てた。
取消しを求めた理由は、下記の2点をあげている。
1.両社で合意した契約に基づき、創光科学は日機装から深紫外線LED事業で得た相応の対価を受け取ることができたが、これが支払われなかった。もし、対価を受け取ると債務超過ではなく、支払い不能状態とは言えない。
2.破産の申し立ては創光科学が保持する特許を確保したうえで、創業者を排除する不当な目的で行われた。
即時抗告に対し、東京高裁は主張の一部を認め、2024年12月24日に創光科学の破産手続開始決定を取り消した。
一方、日機装側はこの決定を不服として2025年1月14日、東京高裁に特別抗告を申し立てたが、同月31日に高裁は特別抗告を不許可とした。さらに2月7日、最高裁へ特別抗告を申し立てたが、4月21日に特別抗告も棄却された。
日機装は「当社は深紫外線LED事業からの撤退を表明し、現在事業整理を進めている。創光科学の破産手続開始決定は取り消されたが、今後については、関係者と協議を進めたうえで適切に対応する」と開示し、今期連結業績に与える影響は軽微としている。東京商工リサーチは日機装に取材を申し込んだが、対応は得られなかった。
日機装の入居ビル
破産手続開始決定が取消されるのは極めて稀だ。最近の事例では、2025年2月に東京地裁から破産開始決定を受けた船井電機(株)(TSRコード:697425274、大東市)に対し、登記上の代表らが破産取消しと民事再生法の適用を申し立てたが、いずれも棄却された。
今回のケースは、上場企業の事業撤退による子会社整理という単純な構図にとどまらず、ベンチャー企業との資本提携に絡む創業者との関係、知的財産権も絡めた対価の取り扱いなど、複雑な要素が入り混じる。
破産手続開始決定の取消しの判断が下されたことは、子会社側の主張が法的に認められたことを示す。ただ、裁判所の判断が確定するまでに要した期間や、その間に失われた事業機会や信頼関係の損失は小さくない。破産取消しを勝ち取った創業者サイドは今後、日機装に対し一連の責任を問うとして、法的措置なども検討しており、親会社の対応を含め、引き続き今後の展開が注目される。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年5月29日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)