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上場企業「内部統制の不備」は過去最多の58社

2024年度 全上場企業「内部統制不備の開示企業」調査


 2024年度(4-3月)に自社の内部管理体制の不備を開示した上場企業は58社(58件)だった。2012年度以降で最多だった2023年度の57社(58件)を抜き、社数は最多を更新した。
 自社や子会社で、不適切会計が発生するなどの内部統制の不備を開示した企業が増加した。また、決算・財務報告プロセスでの決算処理の誤りを発見できなかったケースも増えており、内部統制の実態と課題の見直しが急務になっている。

 上場企業は、自社の財務諸表やその他の財務情報の適正性を確保するため、必要な内部統制体制について評価した内部統制報告書を事業年度ごとに金融庁に提出することが金融商品取引法で義務付けられている。内部統制報告書は、投資家保護の観点から2006年に義務化された。
 財務情報を正しく管理する体制が構築されているか自己評価し、「有効」、「開示すべき重要な不備があり、内部統制は有効ではない」、「表明できない」のいずれにあたるかを記載し、内部統制の有効性を外部監査人が監査する。
 2024年度の58社では、内容別でみると自社や子会社などの「不適切会計」の判明など「全社的内部統制の不備」が30社(構成比51.7%)で最多だった。次いで、経理や会計処理ミスなどの「決算・財務報告プロセスの不備」が24社(同41.3%)と続く。
 上場企業の内部統制不備の開示は高水準が続いている。金融庁や東証はガバナンス向上に向けた指針整備を進めているが、企業側も内部統制不備を防ぐ体制の構築が急がれる。

※本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料に基づく。上場企業、有価証券報告書提出企業を対象に、「財務 報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備」について開示した企業を集計した。
※同一企業が調査期間内に内容を異にした開示を行った場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証プライム、スタンダード、グロース、名証プレミア、メイン、ネクスト、札証、アンビシャス、福証、Q-Boardを対象にした。

「内部統制不備」開示数 社数推移(年度)


「全社的な内部統制不備」が30社で最多

 2024年度に内部統制の不備を開示した58社では、内容別の最多は自社や子会社などによる「不適切会計」の判明など、「全社的な内部統制の不備」の30社(前年度比11.1%増)で、全体の51.7%を占めて半数を超えた。
 次いで、経理や会計処理ミスなど「決算・財務報告プロセスの不備」の24社(同20.0%増)、商流ルールが形骸化したなど「業務プロセスの不備」の4社(同63.6%減)と続く。
 コロナ禍は落ち着いたが、意図したものかどうかに関わらず上場・未上場企業で粉飾決算の発覚が目立つ。これを反映して「決算・財務報告プロセスの不備」が前年度から1.2倍増と「全社的な内部統括の不備」を増加率で上回った。

「内部統制不備」内容別 年度推移

市場別 最多は東証スタンダードの27社

 市場別では、東証スタンダードが27社(構成比46.5%)で最多。次いで、東証プライムが20社(同34.4%)、東証グロースが9社(同15.5%)で続く。
 2023年度に内部統制不備について2回リリースした東証スタンダードの(株)ヤシマキザイ(TSRコード:291010776)は2024年6月、海外子会社での会計処理の誤りで決算財務報告プロセスに係る内部統制の不備について記載した。

「内部統制不備」市場別 年度推移

業種別 最多は製造業の18社

 産業別では、製造業が18社(構成比31.0%)で最も多かった。製造業は、国内外の子会社、関連会社の経理処理や販売管理の体制不備に起因するものが多い。
 次いで、サービス業の14社(同24.1%)、卸売業の8社(同13.7%)、情報通信業の6社(同10.3%)、小売業の5社(同8.6%)と続く。

「内部統制不備」業種別 年度推移



 (株)エイチ・アイ・エス(TSRコード:292203993、東証プライム)は2025年3月31日、過年度の有価証券報告書等の訂正報告書を提出したことに伴い、過年度の内部統制報告書について内部統制不備を記載した。連結子会社で雇用調整金の不正受給が判明し、過年度の決算を訂正して有価証券報告書等の訂正報告書を提出した。グループ全体で助成金に係る不祥事リスクへの認識が高まらず、子会社管理部門等の体制・権限強化が進んでいなかったと結論付けた。
 また、「内部統制報告書」の訂正も増えている。企業が財務局に報告書を提出後、不適切な会計処理や粉飾決算などが発覚し、内部統制に問題があったと訂正するケースが多い。

 不祥事の原因は会計処理に関する体制不備や専門性欠如、コンプライアンス(法令順守)意識の低さなどのほか、本社の管理が届きにくい子会社や関連会社、日本の規範意識が通用しにくい海外拠点での不正で内部統制不備を開示する企業が後を絶たない。
 経営者による内部統制の評価範囲外で開示すべき重要な不備の開示が増えたことを受け、金融庁は2023年4月、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」等の改定を公表。2024年4月からの事業年度で基準の改定が適用された。この改定で上場企業は、より会計監査人と内部統制について協議することが求められる。上場各社はコーポレートガバナンスやコンプライアンスの意識を徹底し、内部統制不備を防ぐ風通しの良い組織の構築が急務となっている。


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