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ホテル業界 インバウンド需要と旅行客で絶好調 稼働率が高水準、客室単価は過去最高が続出

上場ビジネス・シティホテル「客室単価・稼働率」調査


 コロナ明けのインバウンド急回復と旅行需要の高まりで、ホテル需要が高水準を持続している。ホテル運営の上場13社(15ブランド)の2024年10-12月期の客室単価と稼働率は、インバウンド需要の高い都心や地方都市を中心に、前年同期を上回った。コロナ禍の2021年と比べ、客室単価は平均69.2%上昇し、最高を更新したホテルも相次いでいる。
 日本政府観光局によると、2025年2月の訪日外国人数は、前年同月比16.9%増の325万8,100人で、2月の過去最高を更新した。訪日外客数がコロナ禍前の水準を超え、国内客の延べ宿泊者数も堅調に推移し、客室単価はさらなる上昇が見込まれる。

 2024年10—12月期の客室単価は、コロナ禍と比較可能な12ブランド(11社)で平均1万6,289円(前年同期比17.8%増)に上昇した。コロナ禍で最安値の2021年の平均8,171円から99.3%増と約2倍に上昇した。12ブランド全て2023年の客室単価を上回り、さらに上昇が見込まれる。
 2024年10-12月期の客室稼働率は、12ブランドすべてで70%を超えた。このうち、7ブランドは80%以上の稼働率と絶好調だ。円安がインバウンド需要の追い風となり、ホテルの客室予約は国内旅行客と訪日観光客で争奪戦が激しさを増す見通しだ。

※本調査は、国内の上場ホテル運営会社13社の客室単価と稼働率を集計した。調査は2024年12月に次いで5回目で、稼働率・客室単価は開示資料をもとに集計した。
※集計対象の企業・ブランドは以下の通り。藤田観光(株)(ワシントンホテル)、東日本旅客鉄道(株)(ホテルメッツ、メトロポリタンホテルズ)、相鉄ホールディングス(株)(相鉄フレッサ・サンルート)、東急不動産ホールディングス(株)(東急ステイ)、(株)共立メンテナンス(ドーミーイン)、(株)グリーンズ(コンフォートホテル、ホテルエコノなど)、西日本鉄道(株)(西鉄ホテル)、ポラリス・ホールディングス(株)(ベストウェスタン)、大和ハウス工業(株)(ダイワロイネットホテル)、(株)西武ホールディングス(プリンスホテル)、阪急阪神ホールディングス(株)(阪急阪神ホテルズ)、三井不動産(株)(三井ガーデンホテル)、九州旅客鉄道(株)(THE BLOSSOMなど)


客室単価(前年同期比) 1.5倍以上の上昇も

 2024年10-12月期と前年同期の客室単価を比較した。2期比較が可能な13社(15ブランド)は、すべて客室単価が前年同期より上昇した。
 上昇率の最多レンジは、10%以上15%未満で7ブランド。以下、20%以上50%未満が4ブランド、15%以上20%未満が2ブランドと続く。
 前年同期は、主力需要は国内観光客が占めていた。最も上昇したのは、三井不動産が運営する「三井ガーデンホテル」で60.7%の上昇。

2023年同期比 客室単価値上げ率別(10-12月)

客室単価(2020年同期比)コロナ禍超えが顕著

 コロナ禍の2020年10-12月期と2024年同期の5年間で客室単価を比較した。比較可能な12ブランド中、12ブランド全てで客室単価が上昇した。
 コロナ禍からの上昇率で最多レンジは、50%以上100%未満の5ブランド。次いで、100%以上の4ブランド、20%以上30%未満が2ブランド、30%以上50%未満が1ブランドだった。
 大半のホテルは、コロナ禍より客室単価が大幅に上昇した。上昇幅の最大は、相鉄フレッサ・サンルート(相鉄グループ)で174.8%の上昇率だった。

2020年同期比 客室単価値上げ率別(10-12月)

ビジネスホテル8ブランドの客室単価 コロナ禍の2倍超

 コロナ禍の2020年10-12月期から、2024年同期までの稼働率、客室単価を比較した。
 ビジネスホテルでコロナ禍前と比較可能な8ブランドの稼働率は、最低は2020年10-12月の58.0%だった。一方、客室単価は2021年の6,794円が最安値だった。
 度重なる緊急事態宣言や行動制限などで稼働率は長く低迷したが、客室単価を抑えて営業を継続するホテルが多く、単価を押し下げた。
 2023年10-12月期は、5月の新型コロナ5類移行で国内需要が回復、1万2,161円となった。2024年10—12月の客室単価も上昇が続き、1万3,986円とコロナ禍の2021年の6,794円を7,192円(105.8%)も上回った。

ビジネスホテルの稼働率と客室単価(10-12月)

シティホテル4ブランドの稼働率 80%超

 ファミリー層や観光利用が多いシティホテル4ブランドは、2020年10-12月期の稼働率は26.1%と20%台まで低下した。コロナ罹患者の療養先として施設を提供したビジネスホテルに比べ、シティホテルの稼働率は大幅に落ち込んだ。
 一方、2024年はコロナ禍だった2020年と比べ54.3ポイント改善し、稼働率は80.4%まで上昇した。
 客室単価は2021年10—12月に1万904円まで低下したが、2024年の客室単価は2万897円で、コロナ禍の2020年の1万904円を9,993円(91.6%)上回り、2万円台に乗った。

シティホテルの稼働率と客室単価(10-12月)



 2024年の年間平均のドル・円為替レートは151.37円だった。円安で海外からの長期滞在者が増え、ビジネスホテルやシティホテルの需要が高まっている。
 大手旅行代理店のJTBは、2025年の旅行動向について訪日外国人客数が過去最多だった2024年の3,687万人を上回り、4,020万人が日本を訪れると予想している。
 コロナ禍で痛手を負ったホテル業界だが、2022年秋の外国人観光客の入国基準の緩和で観光需要が急回復し、都心部を中心にホテル稼働率は上昇を続けている。ビジネスホテルは、行動制限が解除された2022年10-12月期に客室稼働率が80.4%まで回復、2024年同期も82.2%と高水準を持続している。
 一方、サービス従事者の人件費やエネルギー価格が上昇を続けるなか、2024年10-12月期の客室単価は上場ホテル12ブランド全てで上昇が続いた。観光・ビジネス需要の急回復や訪日外国人客数の急拡大で、ビジネスホテル、シティホテルの客室稼働率・客室単価の上昇は続きそうだ。
 また、人手不足が解消されないまま、インバウンド需要増で軋みも生じている。増え続けるインバウンド需要に対し、従業員の積極的な採用、賃金改定、定着率の向上などを求められている。ビジネスホテル、シティホテル業界は、早急な待遇改善が急浮上している。
 新規のホテル開業も増え、人材獲得競争は激化している。一方で、人手不足で従業員を確保できず、稼働率を上げられない施設も出ている。持続的な成長には人員確保が欠かせず、ビジネスホテル・シティホテル各社の大きな課題となっており、需要に応じた人員の適正配置など管理部門や現場でのデジタル変革(DX)や省人化対応も急がれる。

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