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もしトランプ氏就任なら、業績予想は「マイナス」? 米国大統領選は、「為替」と「地政学リスク」に注目

2024年8月「ドナルド・トランプ氏」に関するアンケート調査


 2024年11月、米国大統領選挙が行われる。再選を目指すドナルド・トランプ元大統領は、ペンシルベニア州での選挙集会中に銃撃を受けたが、力強さをアピールし支持率アップにつなげた。一方の現職ジョー・バイデン大統領は、カマラ・ハリス副大統領を次期大統領候補として推薦し、熾烈な選挙活動が展開されている。
 今回、国内企業にトランプ氏が米国大統領選で勝利した場合の業績への影響を尋ねたところ、「分からない」が50.6%で半数を占め、「影響はなさそうだ」も25.6%だった。ただ、トランプ氏の掲げる保護主義的な政策を懸念し、「マイナス」と捉える企業は16.3%に対し、「プラス」は7.4%で、「マイナス」が8.9ポイント上回った。

 東京商工リサーチは2024年8月、もしトランプ氏が米国大統領になったらどのような影響があるか企業向けアンケート調査を実施した。
 産業別では、10産業すべてで「マイナス」が「プラス」を上回った。特に、農・林・漁・鉱業22.4%、製造業21.0%で「マイナス」回答率が高く、トランプ氏の掲げる保護主義的な政策への懸念が強いことがわかった。

 次期米国大統領の政策で注目する点は、最高が「通貨・為替政策の在り方」の60.3%だった。次いで、「台湾有事を含めた中国との関係性」50.7%、「ウクライナ情勢を含めたロシアとの関係性」47.3%が続く。輸出産業を中心に、「為替」や「地政学リスク」の注目度の高さが表れた。
 狙撃事件後、一時はトランプ氏が優勢とみられたが、民主党の大統領候補者がハリス氏に交代し、接戦を繰り広げている。製造業を重視し、保護主義、拡張的な財政政策を掲げるトランプ氏に対し、ハリス氏は物価高騰の抑制や生活費の負担軽減策などを打ち出す。防衛や貿易政策などの姿勢変化は、日本経済への影響が大きく、今後の動向が注目される。

※ 本調査は、2024年8月1日~13日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,956社を集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(資本金がない法人・個人企業を含む)を中小企業と定義した。


Q1.今年11月の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選した場合、貴社の業績にはどのような影響があると予想しますか?(単一回答)

◇「マイナス」が16.3%で「プラス」7.4%を上回る
 トランプ氏が米国大統領選で当選した場合の影響は、「分からない」が50.6%(5,956社中、3,017社)で半数を占めた。現時点では影響を測りかねる企業が多い。
 「プラス」と回答した企業は7.4%(442社)で、内訳は「大いにプラス」が1.6%(96社)、「少しプラス」が5.8%(346社)だった。
 一方、「大いにマイナス」3.4%と「少しマイナス」12.8%を合計した「マイナス」は16.3%(971社)にのぼり、「プラス」を8.9ポイント上回った。規模別の「マイナス」は、大企業が18.0%(626社中、113社)で、中小企業の16.0%(5,330社中、858社)を2.0ポイント上回った。

Q1.アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選した場合、貴社の業績にはどのような影響があると予想しますか? ◇「マイナス」が16.3%で「プラス」7.4%を上回る

【産業別】全産業で「マイナス」が「プラス」を上回る

 産業別では、10産業すべてで「分からない」の構成比が最高だった。次いで、製造業と運輸業は「マイナス」の構成比が高く、その他の8産業では「影響なし」が高かった。
 10産業のうち、「プラス」構成比が最も高い産業は、運輸業の11.8%(261社中、31社)だった。次いで、不動産業が10.9%(192社中、21社)で続き、「プラス」が1割を超えたのは2産業にとどまった。
 一方、「マイナス」構成比が最も高い産業は、農・林・漁・鉱業の22.4%(58社中、13社)。次いで、製造業が21.0%(1,434社中、302社)、運輸業が20.6%(261社、54社)と続き、3産業で構成比が2割を超えた。
 10産業すべてで「マイナス」が「プラス」を上回った。運輸業では、「プラス」、「マイナス」どちらも構成比が高い。為替や米国のエネルギー供給方針が、燃料費などのコストに直結することもあり、もしトランプ氏が当選すると保護主義的な政策などにより業績へ何らかの影響が出ると考える企業が多いようだ。

全産業で「マイナス」が「プラス」を上回る

【業種別】「プラス」は各種商品卸売業、「マイナス」は宿泊業がトップ

 産業を細分化した業種別(回答母数10以上)では、「プラス」の最高は、各種商品卸売業の34.4%(29社中、10社)だった。
 次いで、道路旅客運送業26.3%(19社中、5社)、洗濯・理容・美容・浴場業19.0%(21社中、4社)、情報通信機械器具製造業17.6%(17社中、3社)が続く。
 「プラス」回答が2割を超えた業種は2業種にとどまった。
 「マイナス」では、宿泊業が30.7%(26社中、8社)でトップだった。
 次いで、情報通信機械器具製造業が29.4%(17社中、5社)、運輸に附帯するサービス業(54社中、14社)と飲料・たばこ・飼料製造業(27社中、7社)が各25.9%で続く。
 「マイナス」回答が2割を超えた業種は、22業種あった。上位10業種では、7業種が製造業だった。

左:「プラスの影響」業種別 右:「マイナスの影響」業種別(上位15業種)

Q2.次期米国大統領の政策で注目することは何ですか?(複数回答)

◇政策の注目点は「通貨・為替政策の在り方」が60.3%でトップ
 次期米国大統領の政策で注目することを聞き、4,941社から回答を得た。
 構成比の最高は、「通貨・為替政策の在り方」の60.3%(4,941社中、2,982社)だった。10産業すべてで構成比が最高となり、全産業で為替動向に関心が高いことがわかった。
 また、Q1「トランプ氏当選時の影響」についての回答が「プラス」、「マイナス」どちらであっても、構成比が最高だった。
 次いで、「台湾有事を含めた中国との関係性」が50.7%(2,507社)、「ウクライナ情勢を含めたロシアとの関係性」が47.3%(2,340社)で続き、エネルギーや物流網などに影響を与える地政学リスクにも注目する企業が多くみられた。
 Q1の回答で政策注目点を比較すると、「マイナス」では「保護主義政策・貿易協定の在り方」が48.1%で、「プラス」の27.2%と比べて20.9ポイント高かった。
 トランプ氏は、一律関税の導入など保護主義的な政策を掲げており、国内製品の対米輸出量や価格競争力などに与える影響を懸念する企業が多いとみられる。


Q2.次期アメリカ大統領の政策で注目することは何ですか? ◇政策の注目点は「通貨・為替政策の在り方」が60.3%でトップ


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