「円安適応」に企業間格差 ~ 「為替アンケート」で透ける苦悩 ~
1ドル=163円台と約40年ぶりの円安となるなか、企業の「希望為替レート」との乖離が大きくなっている。
東京商工リサーチ(TSR)が定期的に実施している「為替に関するアンケート調査」の結果(2022年6月~26年6月)を分析すると、企業間の格差や苦悩、危機感が浮かび上がる。
円安影響の「マイナス」が低下
過去のアンケート結果を時系列で比較した。「調査実施の前月末のドル円水準が経営に与える影響」をみると、1ドル=130円を突破した2022年6月の調査では、この水準を「マイナス」とした企業は46.7%と半数に届かなかった。規模別では、大企業(資本金1億円以上)が37.7%、中小企業(同未満、個人企業含む)が48.2%で、規模により回答に大きな差が生じた。
1ドル=156円前後まで下落した2024年6月の調査では、「マイナス」と回答した企業は54.4%と過去最高を更新した。規模別では大企業49.5%、中小企業55.0%で、大企業の方が増加幅が大きかった。
ところが、1ドル=159円前後まで円安が加速した2026年6月の調査では、経営に「マイナス」と答えた企業は40.7%へ低下した。1ドル156円だった24年6月と比べ円が3円下落したが、「マイナス」の影響は13.7ポイント改善した。規模別でみると、「マイナス」の回答は大企業41.1%、中小企業40.6%と、調査を開始以来、初めて大企業が中小企業を上回った。
規模が大きい企業ほど精緻な経営計画を練っているケースが多く、為替の変動も考慮されている。ただ、急速かつ下落幅が大きすぎたことで、想定していた変動のバッファを超え、大企業の加速度的な「マイナス」回答の増加に繋がった可能性がある。政府や業界団体の主導で進む価格転嫁への取り組みも、大企業によりシビアな状況を生んでいる。



内需型・労働集約型産業に影響が拡大
2026年6月調査で、海外から原材料や製品の輸入が多い「卸売業」は、「マイナス」と回答した企業が52.6%と半数を超え、10産業で最大だった。ただ、24年6月の調査(61.4%)から8.8ポイント下落した。価格転嫁の浸透に加え、業種柄、為替変動への適応自体がビジネスの根幹を為すため、時間の経過とともに経営計画への織り込みが進んだようだ。
明暗が分かれたのが消費者サイドに近い「小売業」だ。2024年6月の45.3%から26年6月の調査では49.8%に4.5ポイント上昇し、約半数が「マイナス」と認識した。仕入価格の上昇が続く一方で、購買意欲への影響を避けたい小売店側が仕入上昇分を店頭価格に転嫁しきれていない可能性がある。
希望レート「130~140円」の攻防
円安への適応は、「希望為替レート」の変遷にも現れている。2022年6月調査の中央値は、「1ドル=110円」だった。これが24年6月の調査は「125円」、25年12月は「135円」と円安に段階的にシフトした。そして、26年6月の中央値は「140円」まで上昇した。
企業間物価の上昇など円安進行によるコスト高は常態化しており、相互作用しあうように希望為替も下落している。ただ、足元の実勢レート(1ドル=163円前後)との間には、依然として20円以上の乖離がある。
2026年6月の調査結果を産業別でみると、仕入や燃料費の上昇が直接損益を直撃する内需型のほか、人件費などの上昇が負担を増す労働集約型では、「1ドル=130円」(中央値)と大幅な円高是正を求めている。「小売業」は、「1ドル=120円~135円未満」を望む割合が45.7%にのぼり、「120円未満」を合わせると、53.1%の企業が「135円未満」を求めている。物価高で実質賃金が目減りすると消費者の購買意欲が落ち込むため、販売価格への転嫁が難しい。
また、燃料費高騰が大きなコスト上昇に直結する「運輸業」も、「1ドル=120円~135円未満」が44.3%に達した。「120円未満」を合わせると55.6%が「135円未満」で、全産業で最も円高を求める声が多い。
「建設業」、「金融・保険業」、「製造業」は中央値が「140円」で、「150円以上」を回答した企業は建設業が41.6%、金融・保険業が37.9%、製造業が29.2%を占めた。
建設業では、元請業者を中心に、円安を成長機会に変える企業が存在感を示している。また、150円前後の水準を前提とした契約・積算が定着している。製造業では、時間の経過とともに企業間取引で価格転嫁や取引条件の見直しが進展しつつある。
ただ、建設業でも、消費者に近いリフォーム工事業などは円安水準への受け止め方が異なる。こうしたことも背景に、3割以上(36.3%)が135円未満を求めている。同一産業でも、円安への受け止め方は二極化がみられる。


これまでの円安局面では、輸出企業=プラス、内需企業=マイナスという単純な構造で語られることが多かった。
しかし、円安が長期化・常態化する中で、明暗を分けた背景には、コスト上昇分を最終価格に反映させやすい(BtoB)か、消費者の購買意欲に影響するため転嫁しにくい(BtoC)か、という取引構造の違いが存在する。
今後さらに円安が加速した場合、企業の価格転嫁への取り組みは限界を突破する恐れさえある。現在の円安局面への対応は、もはや一企業や一個人の自助努力でカバーできる範囲を超えている。この構造的な課題が解消されない限り、適応力の高い企業・産業との二極化は、拡大・深刻化するだろう。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年7月27日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)