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「GC注記」、「重要事象」記載の上場企業は77社 コロナ禍以降で最少、記載の定着化進む

 2023年9月中間決算を発表した上場企業約2,340社のうち、決算短信で「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン注記)」(以下、GC注記)を記載したのは24社だった。
 また、GC注記に至らないが、事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある場合に記載する「継続企業に関する重要事象」(以下、重要事象)は53社だった。
 GC注記と重要事象を記載した企業数は合計77社で、コロナ禍以降で最多の2022年3月期本決算(94社)から17社減少し、4年ぶりに80社を下回った。
 当中間決算期中の2023年5月、新型コロナが5類に移行した。経済活動の本格再開に伴い、消費関連産業を中心に企業業績の回復が広がった。このため、GC注記・重要事象の要因にコロナ禍の影響をあげた企業数の減少が顕著となった。
 一方で、原燃料や人件費などのコストアップ要因で利益が圧迫され、継続的に業績不振が続く企業も存在する。円安の影響を受けやすい内需型の中堅企業などが苦境に立たされるケースが目立ち、引き続き不振企業の動向が注目される。
※ 本調査は、全証券取引所に株式上場する3月期決算企業を対象に、12月7日までに発表した2023年9月中間決算(2024年3月期第2四半期決算)の決算短信に「GC注記」及び「重要事象」を記載した企業の内容、業種などを分析した。


GC注記企業のプロルート丸光が倒産 
 GC注記と重要事象を記載した上場企業は合計77社だった。コロナ禍以降でピークだった2022年3月期本決算(94社)から約2割(18.0%)減少した。
 GC注記企業は24社で、前年度本決算(2023年3月期)から1社減少した。事業再生ADRに沿った再生計画に取り組んでいる曙ブレーキ工業は「コロナ禍による部品不足や完成車メーカーの減産、各種コスト上昇の影響を受け、安定的な資金創出に至っていない」ことなどを理由に、当中間決算でGC注記を記載した。
 また、前年度本決算でGC注記を記載していたプロルート丸光は12月5日、大阪地裁に会社更生法を申請した。雇用調整助成金の不正受給などの不祥事が発覚したほか、今年11月に金融商品取引法違反の嫌疑で元代表らが逮捕されるなど経営が混乱し、決算未発表の状態が続いていた。
 重要事象の記載企業は2023年3月期本決算の56社から3社減少し、53社となった。再建に取り組んでいた企業が黒字転換を果たして解消するケースが目立った。

3月期決算企業 GC・重要事象件数推移

債務超過が4社

 GC注記・重要事象を記載した77社を理由別に分類した。65社(構成比84.4%)が重要・継続的な売上減や損失計上、営業キャッシュ・フローのマイナスなどの「本業不振」を理由としている。原燃料価格や人件費などの上昇によるコスト増が深刻化し、採算性が悪化した企業が目立った。

 次いで、「新型コロナ影響あり」を理由としたのが16社(同20.7%)、「資金繰り悪化・調達難」が10社(同12.9%)、「財務制限条項に抵触」が8社(同10.3%)、「債務支払条件変更・遅延」が6社(同7.7%)と続く。
 債務超過に転落したのは、2023年3月期本決算の3社から1社増えて4社だった(一部、個別決算含む)。債務超過は上場廃止基準にも抵触するため、利益確保や増資などによる早急な資本増強策が求められる。
 ※重複記載のため、構成比合計は100%とならない

GC注記・重要事象記載企業 理由別


製造、サービス、小売の3業種で75.3%
 GC注記・重要事象を記載した77社の業種別では、製造業が29社(構成比37.6%)と最多で約4割を占めた。電気機器などの機械製品のほか食料品、化学、医薬品など扱い品は多岐にわたる。
 以下、外食業者9社を含む小売業が17社(同22.0%)、サービス業が12社(同15.5%)、情報・通信業が9社(同11.6%)と続く。
 母数が多い製造業のほか、小売業とサービス業が全体を押し上げ、上位3業種で58社(同75.3%)にのぼった。

GC注記・重要事象記載企業 業種別

東証スタンダードが6割
 上場区分別では、東証スタンダードが47社(構成比61.0%)で最多。以下、東証グロースが17社(同22.0%)、東証プライムが9社(同11.6%)と続く。このほか、名証や札証などの地方上場が合計4社だった。
 上場企業でも中堅クラスが集中する東証スタンダードが全体の6割を占めた。名門で実績がありながらも不振が続き、ビジネスモデルが揺らいでいる中堅企業や、業歴が浅く経営基盤が定まらない新興勢が多い。

GC注記・重要事象記載企業 上場区分別



「新型コロナ影響あり」は16社 ピークの約3分の1 
 新型コロナによる影響を要因の一つに挙げた企業は16社で、2023年3月期本決算の31社から半減した。
 「新型コロナ影響あり」とした企業数はピークの2021年3月期には46社だったが、その後徐々に減少推移を辿り、5類感染症への移行が重なった当中間決算ではさらに減少した。コロナ禍の悪影響が次第に薄れつつある傾向がわかる。
 ただ、業種別では、16社のうち小売業が8社と半数を占め、このうち外食産業が6社だった。顧客の働き方や生活スタイルの変化に対応できず、需要回復に至っていない状況もうかがえる。



 GC注記・重要事象の記載企業は4年ぶりに80社を下回り、減少傾向を強めた。アフターコロナを迎えて事業環境が回復し、コロナ禍の影響から脱却しつつある企業が増えている。
 一方で、ビジネスモデルの陳腐化等により事業好転の見通しが立たず、GC注記・重要事象の記載が定着化している企業も目立つ。経営不振の深刻度が高いGC注記企業24社のうち、要因に新型コロナの影響を挙げた企業は3社にとどまり、不振の原因が一過性ではなく、根本的な収益構造に起因している点が透けて見える。
 12月5日にはGC注記企業のプロルート丸光が会社更生法を申請し、1年4カ月ぶりに上場企業の倒産が発生した。新型コロナの余波に加え、原材料調達や固定費などのコストアップなどで業績の二極化が進み、引き続き上場企業のGC注記・重要事象の状況は経営悪化のシグナルとして注目される。

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