• TSRデータインサイト

10月の「物価高」倒産は57件、 前年同月の1.6倍  3月から8カ月連続で50件台と高止まりが続く

2023年10月 「物価高」倒産


  2023年10月の「物価高」が起因の倒産は57件(前年同月比67.6%増)で、前年同月の1.6倍増と大幅に増加した。3月から8カ月連続で50件台で推移し、2023年1-10月累計は534件(前年同期比181.0%増、前年同期190件)に達した。
 ゼロゼロ融資の返済が本格化するなか、人材確保や定着のための賃上げを迫られる一方、円安で原材料やエネルギー価格が上昇し、物価高が企業収益に大きな負担となっている。

 業種別では、最多が食料品製造業(前年同月2件)と道路貨物運送業(同6件)の各10件。人件費の上昇は各業界の重しになっているが、食料品製造業は食材費や光熱費の上昇、運送業は燃料費の高止まりが続いている。
 負債額別では、最多が1億円以上5億円未満の25件(前年同月比31.5%増)。次いで、1千万円以上5千万円未満の14件(同100.0%増)と中小・零細規模が中心だが、10億円以上も2件(前年同月ゼロ)発生しており、物価高倒産は事業規模を問わず発生している。
 形態別では、破産が44件(前年同月比46.6%増、構成比77.1%)で最多。コストアップが業績回復の足かせになり、先行きの見通しが立たないまま事業継続をあきらめるケースが多い。

 日本銀行は10月の金融政策決定会合で、長期金利の上限1%超を容認した。その一方、11月1日に一時、為替が1ドル=151円台に下落し、その後も150円を挟んだ推移で円安が続いている。
 物価高は幅広い産業で収益悪化と資金負担を増大させており、資金余力が乏しい企業を中心に倒産を押し上げることが危惧される。

※本調査は、2023年10月の企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、①仕入コストや資源・原材料の上昇、②価格上昇分を価格転嫁できなかった、等により倒産(私的・法的)した企業を集計、分析した。


10月の「物価高」倒産57件、前年同月の1.6倍

 2023年10月の「物価高」倒産は57件(前年同月比67.6%増)で、3月から8カ月連続で50件台の高水準が続く。11月1日に一時、外国為替相場が1ドル=151円台に下落し、その後も円安で推移している。
 このため、輸入財の穀物や原材料、資材、燃料、電気などの価格上昇が続き、アフターコロナに向けた経済活動の本格化に伴い、仕入の増加などで企業の運転資金の需要も押し上げられている。ただ、業績回復が遅れ、過剰債務を抱えた企業は新たな資金調達が難しい。価格転嫁が進まない企業には「物価高」が、重くのしかかる状況が続く。

「物価高」倒産月次推移

【産業別】最多が製造業の16件

 産業別は、建設業、製造業、運輸業、サービス業他の4産業が前年同月を上回った。
 最多は、製造業の16件(前年同月比433.3%増、前年同月3件)で、前年同月の5.3倍に増加した。
 以下、建設業11件(同37.5%増、同8件)、運輸業(同42.8%増、同7件)とサービス業他(同233.3%増、同3件)が各10件の順。
 11月1日に一時、1ドル=151円台に円安が進み、その後も150円前後で推移。円安は、原材料から製品まで幅広く価格上昇を引き起こし、多くの産業に影響を与える。

産業別状況(10月)

【業種別】食料品製造業が5倍に増加

 業種別(業種中分類)では、最多が食料品製造業(前年同月2件)と道路貨物運送業(同6件)の各10件。次いで、総合工事業の8件(同5件)、飲食店の5件(同1件)、持ち帰り・配達飲食サービス業の4件(同ゼロ)と続く。
 食品製造業や飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業などは、食材や光熱費が上昇しているが、一般消費者がエンドユーザーとあって、なかなか価格転嫁が進んでいないようだ。

【形態別】消滅型の破産が約8割

 形態別は、破産が44件(前年同月比46.6%増)で、「物価高」倒産の約8割(77.1%)を占めた。
 このほか、取引停止処分が9件(前年同月比200.0%増)、民事再生法が3件(同200.0%増)、特別清算が1件(前年同月ゼロ)で、会社更生法の発生はなかった。
 ゼロゼロ融資の返済が本格化し、物価高や人手確保のためのコストアップで、資金繰りは厳しさを増している。業績回復が遅れ、新たな資金調達も難しい企業が破産を選択している。

【負債額別】1億円以上が5割超

 負債額別は、最多が1億円以上5億円未満の25件(前年同月比31.5%増、構成比43.8%)。
 以下、1千万円以上5千万円未満が14件(前年同月比100.0%増)、5千万円以上1億円未満が11件(同120.0%増)の順。
 前年同月発生しなかった10億円以上(2件)を含む1億円以上が32件(前年同月比45.4%増)で、全体の56.1%を占めている。

負債額別状況(10月)

【資本金別】1千万円未満が5割超

 資本金別は、最多が1千万円以上5千万円未満の22件(前年同月比69.2%増、構成比38.5%)。
 次いで、1百万円以上5百万円未満の15件(前年同月比7.1%増)、5百万円以上1千万円未満の9件(同80.0%増)と続く。
 1千万円未満が30件(前年同月比50.0%増、前年同月20件)で、「物価高」倒産の半数以上(52.6%)を占めた。


【地区別】6地区で前年同月を上回る

 地区別は、9地区のうち、北海道、東北、北陸を除く、6地区で前年同月を上回った。
 増加率の最大は、九州の前年同月比300.0%増(2→8件)。次いで、近畿と中国の同150.0%増(2→5件)、関東の同75.0%増(12→21件)と続く。また、前年同月に発生がなかった四国が1件だった。
 都道府県別の最多は、東京の7件(前年同月2件)。次いで、福岡6件(同2件)、北海道(同5件)と埼玉(同1件)が各5件と続く。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年1-6月「負債1,000万円未満」倒産 261件 2010年以降で3番目の高水準「破産」が約98%

2024年上半期(1‐6月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)は4,931件で、年間1万件を超えるペースで増勢をたどっている。また、負債1,000万円未満の小規模倒産も261件(前年同期比6.9%増)で、2010年以降では3番目の高水準となった。

2

  • TSRデータインサイト

2024年上半期「バー」「キャバクラ」等の倒産47件 過去10年で最多、コロナ禍と物価高で変わる夜の街

コロナ禍が落ち着き、街にはインバウンド需要で外国人観光客が増え、人出が戻ってきた。だが、通い慣れたお店のドアは馴染み客には重いようだ。2024年上半期(1-6月)の「バー,キャバレー,ナイトクラブ」の倒産は、過去10年間で最多の47件(前年同期比161.1%増)に急増した。

3

  • TSRデータインサイト

上半期の「飲食業倒産」、過去最多の493件 淘汰が加速し、「バー・キャバレー」「すし店」は2倍に

飲食業の倒産が増勢を強めている。2024年上半期(1-6月)の飲食業倒産(負債1,000万円以上)は493件(前年同期比16.2%増、前年同期424件)で、2年連続で過去最多を更新した。現在のペースで推移すると、年間では初めて1,000件超えとなる可能性も出てきた。

4

  • TSRデータインサイト

2023年の「個人情報漏えい・紛失事故」が年間最多 件数175件、流出・紛失情報も最多の4,090万人分

2023年に上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏えい・紛失事故は、175件(前年比6.0%増)だった。漏えいした個人情報は前年(592万7,057人分)の約7倍の4,090万8,718人分(同590.2%増)と大幅に増えた。社数は147社で、前年から3社減少し、過去2番目だった。

5

  • TSRデータインサイト

「想定為替レート」 平均は1ドル=143.5円 3期連続で最安値を更新

株式上場する主要メーカー109社の2024年度決算(2025年3月期)の期首の対ドル想定為替レートは、1ドル=145円が54社(構成比49.5%)と約半数にのぼることがわかった。 平均値は1ドル=143.5円で、前期から14.5円の円安設定だった。期首レートでは2023年3月期決算から3期連続で最安値を更新した。

TOPへ