• TSRデータインサイト

2月の「人手不足」倒産が急増 今年は前年同期の2.6倍増に

~ 2023年(1-2月)「人手不足」関連倒産の状況 ~


 コロナ禍から経済活動の本格化に伴い、2023年に入り「人手不足」関連倒産が急増している。今年1-2月の「人手不足」関連倒産は合計21件(前年同期比162.5%増)で、前年同期の2.6倍に急増している。
 内訳は、「求人難」が10件(同100.0%増)、「従業員退職」が6件(同100.0%増)で、この2要因で全体の76.1%と8割近くに達する。また、人件費高騰も5件(前年同期ゼロ)発生している。


 産業別では、最多がサービス業他の8件(前年同期比60.0%増)。次いで、運輸業5件(前年同期ゼロ)、建設業3件(同50.0%増)と続き、労働集約型の産業を中心に、7産業で増えている。
 資本金別は1千万円未満が12件(構成比57.1%)、負債額別は1億円未満が13件(同61.9%)と、小・零細規模が半数を超える。「人手不足」関連倒産は、形態別で「破産」が20件(同95.2%)を占め、人手不足で事業継続が困難になった企業が多いことを裏付けた。
 コロナ禍で急激に経済活動が停滞・縮小し、従業員の雇用問題が浮上した。政府は雇用調整金の特例措置で雇用維持に努めたことで、「人手不足」関連倒産は2021年後半から減少をたどった。
 だが、2022年後半からインバウンドや経済活動が再開し、一気に人手不足が深刻化。同時に、急激な物価上昇による賃上げ機運も高まり、就労条件の良い企業への人材の流出も懸念されている。このため、業績回復が遅れ、過剰債務を抱えた中小企業が最近の賃上げの波に乗り遅れると、人手不足に起因する倒産が再び増勢に向かうことが現実味を帯びてきている。

※ 本調査は、2023年1-2月の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)


「人手不足」倒産21件、前年同期の2.6倍に急増


 2023年1-2月の「人手不足」関連倒産は合計21件(前年同期比162.5%増)で、同期間としては3年ぶりに前年を上回った。
 人手不足が深刻さを増した2019年は156件と、調査を開始した2013年以降で最多を記録した。その後、新型コロナ感染拡大で瞬く間に経済活動が停滞すると、2020年は95件、2021年は56件と、「人手不足」関連倒産は急速に減少した。だが、2022年の後半から経済活動が本格的な再開に向けて動き出すと、コロナ禍で離職した労働力が戻らずに人手不足が顕在化した。
 2022年の「人手不足」関連倒産の内訳は、「求人難」が27件(前年20件)、「従業員退職」が28件(同26件)、「人件費高騰」が7件(同10件)の62件に達し、3年ぶりに増加した。
 2023年春闘は賃上げ機運が高まり、「5%賃上げ」が標榜されるなか、大手企業では賃上げの発表が相次いでいる。だが、収益力や財務基盤が脆弱な中小企業は、容易に賃上げをできる状況にはない。物価高が広がるなか、人手不足が受注の機会損失を招く事態も想定されている。


「人手不足」関連倒産推移

【要因別】最多が「求人難」の10件


 要因別では、最多は「求人難」の10件(前年同期比100.0%増)で、2年連続で前年同期を上回った。「人手不足」関連倒産の47.6%と、ほぼ半数を占めている。
 次いで、「従業員退職」が6件(同100.0%増、構成比28.5%)で、3年ぶりに前年同期を上回った。
 従業員の採用難に起因する「求人難」、人材流出に起因する「従業員退職」は合計16件(同100.0%増)で、全体の76.1%を占め、4年ぶりに前年同期を上回った。
 また、人材確保のため賃金上昇が避けられないが、「人件費高騰」も5件(前年同期ゼロ)発生し、3年ぶりに前年同期を上回った。
 中小企業は福利厚生面で大手企業に劣り、賃上げも容易でない。しかし、賃上げに消極的な企業では従業員の退職問題が浮上し、求人も苦戦を強いられる。現在の人手不足は、企業価値を映す側面もあり、今後は人手不足に起因する倒産が増勢に転じる可能性が高まっている。


「人手不足」関連倒産 要因別

【産業別】10産業のうち、7産業で増加


 産業別では、10産業のうち、農・林・漁・鉱業、金融・保険業、不動産業を除く7産業で前年同期を上回った。
 最多は、サービス業他の8件(前年同期比60.0%増)で、全体の38.0%と約4割を占め、2年連続で前年同期を上回った。また、建設業が3件(同50.0%増)で2年連続、情報通信業が2件(同100.0%増)で2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 このほか、製造業が1件で2年ぶり、卸売業1件と運輸業5件が3年ぶり、小売業が1件で5年ぶりに、それぞれ発生した。
 農・林・漁・鉱業と不動産業が3年連続、金融・保険業は調査を開始した2013年以降、発生がない。

 業種別では、一般貨物自動車運送業3件(前年同期ゼロ)、土木工事業、受託開発ソフトウェア業、訪問介護事業が各2件(同1件)、舗装工事業、野菜漬物製造業、一般貸切旅客自動車運送業、倉庫業、織物卸売業、各種食料品小売業、広告業、酒場,ビヤホール、エステティック業、介護老人保健施設が各1件(同ゼロ)だった。


「人手不足」関連倒産 産業別

【形態別】破産が9割超


 形態別では、「破産」が20件(前年同期比150.0%増)で、3年ぶりに前年同期を上回った。構成比は95.2%と大半を占めた。
 一方、再建型の「民事再生法」は3年連続、「会社更生法」は調査を開始した2013年以降、それぞれ発生がなかった。
 業績不振に陥った企業は、資金的に従業員の雇用、増員が難しく、また福利厚生や待遇面から従業員をつなぎとめることが難しいケースが多い。このため、コロナ禍から経済活動が再開する一方で、受注機会の逸失でますます業績回復が遅れ、破産を選択するケースが増えている。


「人手不足」関連倒産 形態別

【負債額別】1億円未満が約6割


 負債額では、「1億円未満」が13件(前年同期比116.6%増)で、全体の61.9%を占めた。
 1億円未満では、「1千万円以上5千万円未満」が10件(同150.0%増)で3年ぶり、「5千万円以上1億円未満」が3件(同50.0%増)で4年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 このほか、「1億円以上5億円未満」が5件(同150.0%増)で4年ぶり、「5億円以上10億円未満」が3件(前年同期ゼロ)で3年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 「10億円以上」は、4年連続で発生がなかった。


「人手不足」関連倒産 負債額別

【地区別】9地区のうち6地区で増加


 地区別では、9地区のうち、6地区で前年同期を上回った。減少は四国の1地区、同件数は北陸と中国の2地区だった。
 北海道2件(前年同期比100.0%増)と関東10件(同100.0%増)、近畿4件(同300.0%増)が2年連続、東北1件(前年同期ゼロ)が3年ぶり、中部1件(同ゼロ)と九州3件(同ゼロ)が4年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 北陸と中国は2年連続、四国は6年ぶりに、それぞれ発生がなかった。


「人手不足」関連倒産 地区別

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ