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上場企業 「雇用調整助成金」調査(2021年2月末時点)

 新型コロナ感染拡大に伴い2020年4月に始まった雇用調整助成金(以下雇調金)の特例措置が、2021年2月末で11カ月を経過した。この間、決算資料などに雇調金を計上、または申請が判明した上場企業は690社にのぼることがわかった。前回調査の2021年1月末の648社から42社増え、全上場企業3852社のうち、17.9%が雇調金の特例措置を活用していることがわかった。
 690社の雇調金の計上額は合計3558億5110万円に達し、1月末の2878億4610万円から680億500万円(23.6%増)増加した。増加幅は1月末(前月比408億5690万円増)を上回った。
 航空、鉄道などの交通インフラ、観光・レジャーを中心に、助成金を追加計上した企業が相次ぎ、計上額を押し上げた。
  政府は3月21日、1都3県の緊急事態宣言を解除した。ただ、飲食店への時短要請は「午後9時まで」とするなど、段階的に緩和する。このため、外出自粛やテレワークなどの緊急事態宣言下での生活習慣が、急にコロナ禍以前の状態に戻ることは考えにくい。
 当面、BtoC業種を中心に、非製造業の業績回復は時間を要するとみられ、4月末(一部地域・業種により6月末)の特例措置終了に向け、上場企業の受給がさらに増える可能性が高い。

【申請社数】2月は新たに42社判明

 2021年2月末で判明した上場企業の雇調金申請社数は690社で、計上額は3558億5110万円にのぼった。前回(2021年1月末)から42社、680億500万円増えた。
 2月に新たに申請・計上が判明したのは42社。このうち、計上額が1億円以上なのは、ワタミ(10億9000万円)、TBSホールディングス(7億7700万円)など15社だった。

【業種別】社数、サービスが小売抜く

 690社の業種別では、製造業が268社(計上額763億5200万円)で最多だった。
 次いで、観光を含むサービス業134社(同709億1210万円)、小売業131社(同614億770万円)、運送業44社(同1158億4820万円)の順。
 全上場企業に対する利用率は、小売業が36.7%でトップ。次いで、運送業35.2%、サービス業25.4%と続き、製造業は17.9%だった。
 コロナ禍が直撃したBtoCの業種で、申請が目立つ。利用客が落ち込んだ航空・鉄道などは1社あたりの計上額が大きいのが特徴。これらの関連業種では急激な需要回復にはまだ時間を要するとみられ、特例措置期限の4月末に向けてさらなる追加計上も見込まれる。

【計上額別】「100億円以上」が3社に

 690社中、計上額別では最多が1億円未満で274社(構成比39.7%)だった。社数は1月末(289社)から15社減った。
 一方、1億円以上5億円未満が222社(同32.2%)と34社増えた。1億円未満にとどまっていた中堅企業などが追加計上し、計上額が1億円を超えたことが要因。
 1月末と比べ社数が減少したのは、1億円未満のみ。それ以外は、記載なしを除き、1億円以上5億円未満、5億円以上10億円未満(55社→61社)、10億円以上50億円未満(51社→59社)、50億円以上100億円未満(7社→9社)、100億円以上(1社→3社)と増加した。

 1月に11都府県で再発令された緊急事態宣言は、3月21日の1都3県を最後に解除された。ただ当面は都などが独自で時短営業を要請し、春の歓送迎会・宴席の開催は難しい状況が続く。また、Go Toトラベルも再開延期され、外食や交通インフラ、観光関連を中心とした業種では需要回復に時間を要する。
 現行の雇調金の特例措置は、全国的に4月末(一部地域、業種により6月末)で終了の予定だ。緊急事態宣言の発令地域を対象に、飲食店や催事関連の大企業も助成率が10割まで引き上げられ、この間の雇用維持を下支えした。しかし、三密回避・外出自粛の影響は、BtoC業種を中心に深刻化し、その影響は上場企業も例外ではない。
 3月19日、ブライダル大手で東証1部上場のワタベウェディングが事業再生ADRを申請したが、同社は2月末時点で雇調金等の助成金を23億円を計上していた。2020年秋に希望退職者募集を行い、126人が12月末に退職したが、長引くコロナ禍で雇用維持に苦慮していた。
 上場企業の早期・希望退職もハイペースで、今年1月から3月18日までに前年同期を19社上回る40社で実施を発表。募集人数は、前年同期(4497人)の2倍以上となる9314人を数える。
 2020年度の雇調金の予算額は、補正予算や予備費、雇用保険事業等からの充当額を含め3兆5882億円が計上された。2021年度予算では、雇調金6117億円のほか、週20時間未満で働くパートを対象に、緊急雇用安定助成金124億円が計上されている。ただ、感染リスクの回避や外出自粛で消費マインドの急回復は期待できない。このため、コロナ前の業績回復が難しいBtoC業種や労働集約型の企業を中心に、最後まで雇調金の特例措置を活用する企業は増えるとみられる。

雇調金202103

‌上場企業の雇調金計上は3000億円を超えた

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