• TSRデータインサイト

事業再生ADR、3年連続で申請件数が増加

 私的再生スキームとして注目される事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)の2019年度(4-3月)の申請数は9件(14社)で、件数は3年連続で増加したことが東京商工リサーチの取材でわかった。

 事業再生ADRは2008年11月、私的再生スキームの一つとして運用が始まった。産業競争力強化法に基づき、経済産業大臣から特定認証紛争解決事業者として認定を受け機関が仲立ちする。国内では、一般社団法人・事業再生実務家協会(JATP)が唯一の認証機関となっている。
 事業再生ADRは商取引債権を対象とせず、申請後のプレDIPファイナンス(つなぎ融資)は優先弁済となる。このため法的倒産と異なり、手続きを申請した企業だけでなく、取引先や金融機関のメリットも多いのが特徴だ。事業再生にグループ全体で取り組む必要がある場合、1案件で複数の企業の申請もあり、社数が大幅に増加することもある。

 2019年度は、2019年6月に(株)文教堂グループホールディングス(TSR企業コード:350391742)、12月に(株)倉元製作所(TSR企業コード:140133909)、2020年1月に児玉化学工業(株)(TSR企業コード:290051312)が申請し、年度を通じて利用が活発だった。2020年度は4月から8月末までで、6月に申請したサンデンホールディングス(株)(TSR企業コード:270023828)と関連4社の1件(5社)にとどまっている。
 これは「新型コロナウイルス」感染拡大に伴い、政府や民間金融機関の手厚い金融支援が一定の効果をあげる一方、コロナ禍で再生計画の蓋然性の見極めが困難なことが影響しているとみられる。ただ、金融支援で資金繰りを繋ぐ企業の多くは、いずれは抜本的な再生が必要になる。事業再生ADRを所管する経済産業省の担当者は、「コロナが収束し、見通しが立てやすくなれば、申請が徐々に増える可能性がある」と今後の見通しを示す。
 だが、アフターコロナが不透明な今、事業価値の算定は暗中模索に等しい。コロナ禍は、企業、再生実務者のいずれにも共通の難解な課題を投げかけている。

ADR利用推移


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年9月7日号掲載予定「SPOT情報」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

建材販売業の倒産 コロナ禍の2倍のハイペース コスト増や在庫の高値掴みで小規模企業に集中

木材や鉄鋼製品などの建材販売業の倒産が、ジワリと増えてきた。2025年1-7月の倒産は93件で、前年同期(75件)から2割(24.0%)増加した。2年連続の増加で、コロナ禍の資金繰り支援策で倒産が抑制された2021-2023年同期に比べると約2倍のハイペースをたどっている。

2

  • TSRデータインサイト

「転勤」で従業員退職、大企業の38.0%が経験 柔軟な転勤制度の導入 全企業の約1割止まり

異動や出向などに伴う「転勤」を理由にした退職を、直近3年で企業の30.1%が経験していることがわかった。大企業では38.0%と異動範囲が全国に及ぶほど高くなっている。

3

  • TSRデータインサイト

女性初の地銀頭取、高知銀行・河合祐子頭取インタビュー ~「外国人材の活用」、「海外販路開拓支援」でアジア諸国との連携を強化~

ことし6月、高知銀行(本店・高知市)の新しい頭取に河合祐子氏が就任した。全国の地方銀行で女性の頭取就任は初めてで、大きな話題となった。 異色のキャリアを経て、高知銀行頭取に就任した河合頭取にインタビューした。

4

  • TSRデータインサイト

ダイヤモンドグループ、複数先への債務不履行~蔑ろにされた「地域イベントの想い」 ~

ライブやフェスティバルなどの企画やチケット販売を手掛けるダイヤモンドグループ(株)(TSRコード:298291827、東京都、以下ダイヤモンドG)の周辺が騒がしい。

5

  • TSRデータインサイト

2025年1-8月の「人手不足」倒産が237件 8月は“賃上げ疲れ“で、「人件費高騰」が2.7倍増

2025年8月の「人手不足」が一因の倒産は22件(前年同月比37.5%増)で、8月では初めて20件台に乗せた。1-8月累計は237件(前年同期比21.5%増)に達し、2024年(1-12月)の292件を上回り、年間で初めて300件台に乗せる勢いで推移している。

TOPへ