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【独自取材】3,800人の投資家が見守るソーシャルレンディングの破産申し立て

 個人投資家などから集めた資金を中小企業などに融資するファンドを組成するソーシャルレンディング。金融機関以外からの資金調達スキームとして一時ブームになったが、今、その信頼が足元から揺らいでいる。


 ソーシャルレンディング最大手だった第2種金融商品取引業のmaneoマーケット(株)(TSR企業コード:297202863、千代田区、以下マネオ)と、マネオのプラットフォームを使いパチンコ店の遊技台などの設備資金を集めていた(株)Crowd Lease(TSR企業コード:016377834、東京都港区、以下クラウドリース)は、ソーシャルレンディングブームに乗り、年利10%を超える投資利回りで人気を集めた。成立したローン総額は約160億円に達する。
 だが、2018年7月、マネオが関東財務局からファンドの取得勧誘に関して「虚偽の表示」などで業務改善命令を受けると状況が一変する。2019年4月、クラウドリースは手がけていた全ファンドの出資金の返済停止をマネオに通知。クラウドリースのファンドから返済の延滞が続くとマネオは東京地裁にクラウドリースの破産を申し立てた。今年1月7日、保全管理命令が下り、今も破産手続開始の審査が続いている。
 破産申し立てで、両社は真っ向から対立している。
 個人投資家を巻き込み、泥沼化した裁判から明らかになる「ソーシャルレンディングの闇」を、東京商工リサーチ(TSR)情報部が追った。

マネオとクラウドリースのスキーム

 クラウドリースのソーシャルレンディングは、マネオに匿名組合の私募を委託し、マネオのプラットフォームを使い出資を集めるスキームだ。
 集めた出資金は、(株)Crowd Capital(TSR企業コード:016749740、東京都港区、以下CC社)と、(株)Crowd Fund(TSR企業コード: 017233968、東京都港区、以下CF社)の2社を経由して、社名が非公開の企業に融資する。CC社とCF社はともにクラウドリースの100%子会社だ。
 クラウドリースは、「神奈川県で建設業を手がけている年商1億8,000万円の企業」のように、企業名を特定できない情報で出資金を集め、子会社を経由して融資する。投資家は、融資先の社名や担保など保全状況の「詳細」を把握できない。
 CC社はパチンコ店向けに融資し、CF社はクラウドリースの関連会社からパチンコ店や飲食店などの設備を購入。この設備について、匿名の融資先の企業と割賦販売契約を締結する。この販売に信用を供与するスキームだ。クラウドリースのホームページの「ローンファンド一覧」によると、ファンド数は3,000件を上回る。

破産を申し立てたマネオの主張

 TSR情報部が独自入手した裁判資料や関係者への取材によると、マネオは売掛債権やシステム使用料など約9,000万円を裏付けとして、今年1月にクラウドリースの破産を申し立てた。投資家を中心にクラウドリースの債権者は約3,800人にのぼり、ファンドの延滞総額は56億円に達する。
 マネオは、2019年4月、クラウドリースが公表した「全ファンドの支払いを停止する」が、継続的に弁済することができない状態の「支払停止」に該当することなどを破産申し立ての理由としてあげている。
 マネオとクラウドリースは2015年12月に業務提携の合意を締結しているが、この中でマネオは一定のルールでクラウドリースとの業務提携を終了でき、その際は別の業者に引き継がせるか、全額を投資家に返還する契約となっている。
 マネオは、2019年1月に監督官庁の関東財務局から投資家保護を図る必要があると指摘を受け、これをクラウドリースに要請した。
 しかし、マネオはクラウドリースが「投資家に対する責任の放棄」や「十分な情報を提供していない」として、2019年4月に業務提携合意に基づく業務の終了を通知した。
 クラウドリースは7カ月後の12月13日になっても一切の業務を引き継がせておらず、業務終了を通知したという。

クラウドリースが全ファンドの支払いを停止した通知書

‌クラウドリースが全ファンドの支払いを停止した通知書

クラウドリースの抗弁

 一方、クラウドリースは、マネオが債権者として破産を申し立てた債権額全額を1月10日までに全額弁済しており、マネオはすでに申立権者の資格はなく、早急に(破産申立が)却下されるべきと主張している。
また、マネオが申し立て理由にあげている「情報提供、具体的な計画すら策定していない」はまったくの虚偽と否認している。
 クラウドリースは、債務不履行については「間違いない」と認めている。「ファンド募集時に投資家へ説明した担保権等の実行を粛々とやればいいと投資家は考えるだろう」とクラウドリースが提出した裁判資料に記載されている。また、「実際、それがベストの回収手段であると判断した案件については強制執行等を行っている」とも記載されている。

担保は「実効性がないものも多い」

 クラウドリースは抗弁書で、「実際には募集時に説明した担保権や回収手段は、確かに存在し、実行すること自体は可能である」と主張。しかし、回収額を経済的合理性から考えると、「実効性がないものも多い」と全額回収の難しさを明らかにしている。
 クラウドリースが「個別のファンドごとに募集時にアナウンスした担保権等には実効性のないものもあったことを説明すべきとも提案したが、マネオはこれらをいずれもかたくなに拒み続けた」という。
 また、マネオがクラウドリースの債務超過を主張していることは、全投資家に対する約55.4億円の債務を計上している点を「仮装」と反論。
 業務提携の終了に対し、投資家への返還は2019年4月15日に早々に履行した。投資家に損害を与えることなく、分配するというマネオの主張は「元本保証」に他ならず、第2種金融取引業者として営業者(クラウドリース)に強いてはならないと主張した。

保全管理人の報告書

 1月27日、TSR情報部は裁判所より選任された保全管理人の報告書を独自入手した。報告書では、「保全管理命令取り消しの可能性、破産原因の存否等の争いも考慮し、債務者の財産の管理処分等については現状維持及び調査が中心になると思われ、処分的なものは原則として、結論を待って処理する」と示しており、破産審査などの手続きには相当な時間を費やしそうだ。

クラウドリース武谷社長がブログで反論

 1月26日、沈黙を続けていたクラウドリースの武谷勝法社長が突然、「投資家の皆様へ」と題したブログを公表した。ブログには「僅かな信頼関係も完全に消滅した」と、マネオの破産申し立てに徹底反論している。
 2019年9月、東証2部のJトラスト(株)(TSR企業コード:570303931、東京都港区)のグループがマネオの大株主になり、マネオは事実上、同社の傘下入りしている。これを念頭に、武谷社長はブログで「Jトラストグループがマネオのオーナーとなって以降、マネオは弊社に対し、債権回収業務を関連のパルティール債権回収株式会社に全件業務委託する旨を要請。過去にJトラストグループが、多くの破綻したノンバンクが保有する不良債権を安く買いたたいて成長してきたと言われる経緯などを考えると、弊社から回収委託をうけ各債権を値踏みし、その後各債権を極めて安価で取得し、その安価な代金を皆様へ配当することで、投資家との関係を終わらせたい意図が私にとっては、見え見えの前記要請だった」として、2カ月間回答を留保したという。
 さらに武谷社長はマネオによる破産申し立てについて、「東京地裁の再度の考案を促す上申書の提出、東京高裁に対して即時抗告の申立、そして不当にでっち上げた債権だと承知で、マネオの主張する債権全額を弊社の子会社をして第3者弁済させた。でっち上げられた債権約8,000万円をマネオマーケットに支払いましたが、その原資のほとんどはいくつかの最終貸付先からのリスケ等によって回収したもの、すなわち、最終的に当該ファンドに出資をされた皆様に配当されなければならないもの」と、投資家の配当金にすべき資金でマネオに支払ったと告白した。
 その上で、「架空の債権を受領したとして不当利得返還請求訴訟を提起し、全額を取り戻す予定」と主張した。
 武谷社長は2月13日にもブログを更新。その中で、1月30日の裁判所の審尋では破産申し立てに関する判断が持ち越されたことを明らかにした。また、投資家82名が1月29日、東京地裁にクラウドリースへ債権者破産を申し立てたこともブログで公表した。


 マネオの破産申し立てに対し、クラウドリースはマネオの債務を全額弁済したとして、対抗している。一方、マネオは投資家に債権者破産への参加を要請。1月29日のブログの通りであれば、すでに一部が賛同したようだ。マネオによると、個人投資家の債権者破産手続き費用はマネオが負担するという。
 これに対し、クラウドリースは、マネオが債権者破産を促している行為は損失補填に当たり、弁護士費用の負担を約束することも投資家への特別の利益供与にあたると指摘。関東財務局に厳重な指導・監督及び処罰を求める事態に発展している。
 クラウドリースの延滞しているファンドの投資家の一人はTSRの取材に対し、「投資家を無視したマネオとクラウドリースの争いに非常に憤りを感じている」と話す。TSRはマネオ、クラウドリースに取材を申し込んだが、期日までに回答は得られなかった。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年2月18日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

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