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「中小企業 賃上げアンケート 」調査 6割が賃上げを実施

 2014年春、中小企業の64.2%が賃上げを実施したことがわかった。大手企業は円安や景気回復に伴う好業績で99.2%(5月30日経済産業省調べ)が賃上げを実施したが、雇用のすそ野の広い中小企業でも賃上げの動きが広がっているようだ。ただ、約2割(19.3%)の企業が「先行きの見通し難」から賃上げを見送り、実施企業でも従業員の勤労意欲の維持や人材流出の防止、新たな人材確保に腐心している実態も浮き彫りになった。

  • 本アンケートは2014年5月28日~6月10日の間、インターネットで実施し、有効回答を得たもので中小企業3,319社に絞り集計した。中小企業の賃上げに関するアンケート調査は今回が初めて。
  • 集計基準:中小企業基本法に基づく中小企業に当てはまる企業を対象に実施した。

8割が賃上げを検討、6割が賃上げを実施

 アンケート調査で、賃上げを検討した中小企業数は2,563社(構成比77.2%)だった。賃上げを検討しなかった企業数は756社(同22.7%)にとどまり、有効回答を得られた企業全体の約8割が賃上げを検討していた。
一方、賃上げを実施した企業数は2,132社(同64.2%)で、6割以上が賃上げを実施し、中小企業に対しても内外からの賃上げ圧力の強さがうかがえる結果となった。

賃上げを検討、賃上げの実施

賃上げは定昇&ベアが最多、実施時期は4月が6割

 賃上げを実施した中小企業(2,132社)では、「定昇&ベースアップ」が430社(構成比20.1%)で最多だった。次いで、「定昇のみ」419社(同19.6%)、「定昇&賞与・一時金」413社(同19.3%)の順。「定昇&ベア&賞与・一時金」の“高待遇”企業も382社(同17.9%)あった。賃上げを実施した企業のうち、1,644社(同77.1%)が「定昇」を中心にした賃上げで、「賞与・一時金」のみは69社(同3.2%)にとどまった。
賃上げを実施した時期は、4月が1,302社(同61.0%)で最多だった。3月以前は260社(同12.1%)、5月238社(同11.1%)、6月161社(同7.5%)の順。新年度に入り賃上げの実施に踏み切った企業が多かった。

賃上げ実施の内容

「先行きの見通し難」50%以上が賃上げ見送り

 賃上げを見送った企業1,187社の理由は、「先行きの見通し難」が643社(構成比54.1%)と半数を上回り最多だった。次いで、「その他」284社(同23.9%)、「原資が不足」260社(同21.9%)の順。 景気の先行きが不透明で賃上げに踏み切れなかった企業が、賃上げを見送った企業全体の5割以上を占め、まだ企業業績に力強さが欠けることがうかがえる。この他、「赤字」(三重・電気機器小売、山形・貸事務所、神奈川・化学機械装置製造ほか)、「売上上昇が見込めないと難しい」(神奈川・受託ソフトウエア開発)、「業績回復が条件」(広島・産業機械卸)など、業績低迷を理由とする企業も多い。また、「政策効果が出ていない」(北海道、建具工事)、「中小企業を取り巻く環境が改善していない」(長崎・冷凍水産食品加工)など、景気の回復遅れを理由とする回答もあった。
こうした外部環境の理由以外に、「賃金はミッション達成度で決定」(東京・投資運用)、「売上比例給与制」(大阪・縫製機械製造)、「成果主義」(秋田・穀物卸)など、評価制度を理由とする回答もあった。

賃上げ見送りの内容

従業員数別 50人以上は約7割が賃上げ

 従業員数別で賃上げを実施した企業の構成比は、50人以上100人未満が73.7%で最高だった。次いで、100人以上72.7%、10人以上50人未満67.1%の順。
5人未満は35.0%にとどまり、従業員規模が大きいほど賃上げを実施している。これは規模に比例して業績改善が先行しているとみられるが、人手不足で従業員をつなぎ留めるために賃上げに踏み切った事情もあると思われる。

売上高別 50億円以上は75.1%が実施

 売上高別でみると、賃上げを実施した企業の構成比は、50億円以上100億円未満が75.1%で最高だった。次いで100億円以上が75.0%、10億円以上50億円未満が71.9%の順。
資本金別では、1億円以上が71.3%で最高。次いで5千万円以上1億円未満が69.2%、1千万円以上5千万円未満が65.7%の順。売上高が1億円未満、資本金が1百万円未満では、賃上げを実施した中小企業はいずれも4割を下回った。売上高、資本金とも金額が大きい企業ほど賃上げを実施している割合が高いことがわかった。

産業別 製造業は7割が賃上げ

 産業別でみると、賃上げを実施した企業の構成比は製造業が69.4%で最高だった。次いで、卸売業65.6%、農・林・漁・鉱業63.6%、建設業62.3%の順。一方、金融・保険業は39.1%、不動産業51.5%、小売業57.0%と、業種間でまだら模様となった。
人手不足の広がりに伴い、製造業や建設業などで技能者不足が深刻さを増しており、職人確保の手段として賃上げを迫られている実態が透けて見える。一方、小売業は価格競争などで収益改善が後手に回り、賃上げに踏み切れない企業も多いようだ。

損益別 黒字決算の8割が賃上げ

 賃上げを実施した企業のうち、最新決算で「黒字決算」は1,761社(構成比82.6%)、「赤字決算」は231社(同10.8%)だった。「不明」は140社(同6.5%)。
黒字決算の企業は賃上げを実施したが、業績改善が遅れた企業ほど実施を見送ったことが鮮明になった。

損益別の状況

地区別 中部、近畿、北陸で賃上げが目立つ

 地区別で、賃上げを実施した企業の構成比は中部(構成比69.7%)、近畿(同69.2%)、北陸(同67.1%)が全国平均(64.2%)を大きく上回った。自動車産業をはじめ製造業が比較的多い中部では、賃上げが中小企業にも波及している。また、飲食業などサービス業が多い近畿も、賃上げした企業が多かった。
一方、全国平均を大きく下回った地区は、九州(同59.0%)、東北(同59.2%)の2地区で、賃上げを実施した企業の割合は6割を下回った。

まとめ

 “賃上げ”が大きなテーマになった今春闘だったが、大手だけでなく中小企業も6割が賃上げを実施したことがわかった。景気回復が業績に緩やかに反映するなか、雇用確保のためにも定期昇給やベア、賞与など、できる範囲で手段を駆使し賃上げに取り組んでいる姿勢がみえる。 賃上げが個人消費を喚起して購買力を高め、消費税率引き上げの影響を早期に沈静化する方向には向いているようだ。
ただ、中小企業は生産性などに課題も多く、経営体質が脆弱な企業が多い。こうした企業でも赤字決算ながら賃上げに踏み切った企業は5割(51.1%)を超えた。
コストアップ要因として無視できない賃上げには慎重にならざるを得ない事情もある。業績回復の兆しが見えても、先行きの景気減速に備えて手元資金を取り崩す余裕はない。
賃上げの定着には、こうした懸念材料を払拭することが必要で、賃上げが場当たり的な対応に終わらないためにも、今後の景気拡大の浸透が試されている。

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