• TSRデータインサイト

Xアイコン
facebookアイコン

泥臭い再生支援と粉飾決算、銀行員の「違和感」~ 「実務家座談会」を開催(後編)~

―印象に残っている事例は

(きらぼし銀行・牧岡氏)あるメーカーでは、先代社長から御子息への事業承継のタイミングで不適切会計が発覚した。メインバンクとして責任を果たすべく、新たに経営を担うことになった御子息に伴走しながら、事業再生支援に取り組んだ。初期段階では、不採算拠点の閉鎖やコスト削減を実施し、案件毎の採算管理や資金管理体制の整備を進めた。
 また、DIPファイナンスによる資金繰り支援を行い、マーケティング会社を招聘してホームページの刷新や記事広告の展開など、集客力向上に向けた施策を実施した。その結果、損益分岐点は大幅に下がり、ホームページへのアクセス数も改善したものの、受注状況の回復には至らなかった。
 さらに、法改正や地政学リスクの発生といった外部要因が重なり、資金繰りが急速に悪化した。厳しい状況が続き、一時は破産もやむを得ない局面もあった。こうした状況を踏まえ、自主再建を断念し、スポンサー型再生へ移行することを決断した。スポンサー探索を進めた結果、スポンサーへの事業譲渡が実現し、事業と雇用を維持することができた。
 本件では、地域経済や雇用、取引先をはじめとするステークホルダー全体への影響を強く意識しながら再生支援に取り組んだ。難しい判断や利害調整を求められたが、関係者一人ひとりがそれぞれの立場で知恵を出し、最後まで諦めることなく汗をかいた結果として、再生の実現につながった。事業再生は多くの関係者の力を結集することで初めて実現できるものであることを改めて実感した。同時に、金融機関として事業再生実務を担う社会的使命の大きさを強く認識した事例であった。


きらぼし銀行・牧岡大介氏
きらぼし銀行・牧岡大介氏

(横浜銀行・二宮氏)横浜銀行がメイン行として関与していたが、当行への事前相談は無く第三者への株式譲渡が実施された事例がある。事前相談の無い株式譲渡後、わずか1年程度で、急速に財務状況が悪化し、抜本的な再生支援に踏み切ることになった事例だ。
 新オーナーは複数の企業を経営しており、グループ全体の実態把握に時間を要していたなか、株式譲渡から半年後には買主グループの資金繰り悪化やグループ会社への資金流失が判明した。本来であれば早期に不採算事業を整理し、切り離すべきだったが、経営者が自主再建を望み、事業継続の可否や廃業支援などに時間を要したことで抜本支援の着手が後手に回る結果となってしまい、グループ全体の事業価値の毀損が広がってしまった。
 前経営者に対しては、当行としては日ごろから一定の関係性を構築出来ているとの認識であったが、事業承継に悩んでいる点や株式譲渡を検討している点は把握できておらず、真の意味でのリレーションの構築が出来ていなかった。また、決算書上は黒字を維持していたため、将来の資金繰りや事業構想、グループ全体の経営状態に対するモニタリングが不十分だった。

(日本政策金融公庫・井上氏)M&Aが実施される際、買い手企業の経営者の資質も重要だ。

(牧岡氏)一時期急増していた悪質な買い手は減少してきた印象があるが、M&Aによって急速に事業を拡大したものの、裏目に出るケースも少なくない。

(東日本銀行・吉田氏)日用品メーカーの事例では、数年前から複雑な財務に違和感があったが、取引を継続していた。その後、調査を実施し、財務の動きや商流を徹底的に分析した。まず着目したのが「循環取引」の有無だ。循環取引は一旦支払った資金が数社を巡って後に戻ってくる。
 調査の結果、グループ企業だけでなく、グループ外の販売会社も絡めて、商取引を逐次変化させ、資金を融通し合っていることが分かった。販売会社発行の手形が繁閑によらず多額だったことや、販売会社とグループ企業が業務委託契約を使って実質的な貸付を行っていたことなどが判明した。
 調査内容を経営者に率直に説明したうえで、第三者による財務デューデリジェンス(DD)の実施を要請。財務DDにより実態を明確にして、そこから再生に向けて舵を切るべきだと説得したが、残念ながら固辞されてしまった。このため、止む無く取引解消に向け縮小せざるを得なかった。

(商工組合中央金庫・高橋氏)粉飾決算を見抜くのは難しいが、現場の営業担当者が不自然さを感じたことがきっかけで粉飾決算を見抜けた事例もある。例えば、年商100億円規模の企業が少額の定期預金を解約しに来店。解約理由は経費の支払いのためとされたが、社長自ら突然に定期預金の解約に来るだろうか。違和感を覚え、過去の決算書を精査した結果、粉飾決算が発覚した。

(牧岡氏)粉飾決算を見抜くのは難しい。粉飾を見抜く目を養う人材育成も課題だろう。

(吉田氏)資金繰りの違和感から粉飾決算を見抜いた事例もあるが、20年以上見抜けなかった事例もある。定性的な違和感や財務諸表の整合性など注意深く確認している。


東日本銀行・吉田一紀氏
東日本銀行・吉田一紀氏

―事業再生において重要なことは

(高橋氏)経営改善、事業再生、いずれのフェーズでも、早期の着手が大事だ。早期段階であれば必ず打ち手はある。その入口は経営者との対話だ。事業再生フェーズでは事業価値が残存する早期の段階で着手することが重要。事業を継続させ雇用とサプライチェーンを守ることが地域経済を支えることになる。この認識を持ち日々取り組んでいる。

(井上氏)事業再生案件に対してスピード感を持って取り組む必要がある点は当然ながら、昨今は、コンプライアンス違反の案件や粉飾決算などの事例も目立っている。これらの企業が私的整理を進めるとなった際に、法的整理に進むべきではないかと感じることもある。私的整理案件について一律に再生案に賛同することはせず、お互いに言いたいことは言いながら案件を進めることが重要だ。透明性や衡平性、経済合理性などを総合的に勘案して進めるべきだ。

(牧岡氏)事業再生を早期に進めるうえで、その前提として重要なのは、経営者の事業改善意欲を醸成することである。日頃からのリレーション構築はもちろん、経営者自身の意識変革を促すような対話や提言を重ねることこそ、再生実務に携わる金融機関職員の最も重要な役割ではないだろうか。
 また、自行だけで経営者の意識変革や改善意欲の醸成を進めることが難しい場面も少なくない。金融機関同士が連携し、経営者との建設的な対話を積み重ねることが重要だ。
 事業再生局面では、自行の経済合理性だけを追求するのではなく、従業員や取引先、地域社会を含めた多様なステークホルダーへの影響を意識しながら、関係者が協調して最善のゴールを目指していくことが求められる。 
 今後もその姿勢を大切にし、事業者の再生と地域経済の持続的な発展に貢献したい。

(二宮氏)財務をみるだけではなく、事業をみることが大事だ。業績が悪化しているなかであっても、その会社ならではの強みや顧客に選ばれる理由、将来的な成長可能性があるはずだ。そのうえで、経営者と対話を重ねて、課題を共有し、何を残していくのかを議論している。事業再生は銀行だけで実現できるものではなく、弁護士や会計士、従業員などと方向性を一致させて同じ目標に向かって進むことが大事だ。本当の事業再生は企業が再び自ら成長できる状態を取り戻すことだ。

(吉田氏)事業再生の現場においては、金融機関同士は競合関係ではなく、協働関係だ。私的整理の場面では金融機関が一枚岩にならないと案件が進んでいかない。自分たちの意見を主張したうえで、他行の意見も聞きながらお互いに納得し、進めていくことが必要だ。
 事業再生では、経営者に非常に重たい決断をしていただかなくてはならない局面がある。経営者も銀行員も最後は人対人で、誠心誠意話すことが大事だ。また、経営幹部や従業員とのコミュニケーションも大事だ。経営者は従業員に対して会社の窮状を伝えることに躊躇するケースも多いが、現状と将来展望をしっかり伝え、再生計画に腹落ちしてもらうことでより実現性の高いものになる。



 抜本的な再生計画の策定が必要な企業や事業が増えている。企業を取り巻く環境の変化に伴い、金融支援やモニタリング、伴走支援を提供できる金融機関の重要性は増す。
 だが、単なる財務面の枠組み調整だけでなく、企業の強みや将来を見極め、経営者の意識変革まで促せるかが問われる。金融機関が利害を超えて連携し、対話を通じた誠実な伴走を果たすことが、地域の雇用と経済を支える真の事業再生につながる。

【座談会出席者】(金融機関コード順)

きらぼし銀行
・牧岡大介氏(融資管理部部長)
横浜銀行
・二宮裕樹氏(融資部経営サポート室室長) 
東日本銀行
・吉田一紀氏(融資部副部長兼経営サポート室室長)
商工組合中央金庫
・高橋大輔氏(執行役員ターンアラウンド事業本部経営サポート部部長) 
日本政策金融公庫
・井上賢二氏(中小企業事業本部東京企業サポート第二室室長) 


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年9月2日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

Xアイコン
facebookアイコン

人気記事ランキング

ランキング1位
  • TSRデータインサイト

「モームリ」前社長らに有罪判決、退職代行サービスは転機に

 8月28日、東京地裁は報酬目的で業務を弁護士に紹介した容疑などに問われていた退職代行サービス「モームリ」運営の(株)アルバトロス(TSRコード:694377686、横浜市、以下モームリ)の法人と前社長の谷本慎二被告らに有罪判決を言い渡した。

2

  • TSRデータインサイト

「マッサージ業界」の倒産増加 ~ 1-7月は過去最多、低価格台頭と施術者確保 ~

2026年1-7月の「マッサージ業」(接骨院・鍼灸院を含む)倒産が68件(前年同期比7.9%増)に達し、同期間では過去15年間で最多を更新した。

3

  • TSRデータインサイト

失業なき労働力移動の行方 ~窮境状態にある業種と「人手不足倒産」発生率の相関~

経営資源の配分は、各企業がその時々の最適を探っている。赤字法人率が6割を超え(※1)、人手不足に陥る企業も少なくない。今回は4つの経営資源のうち、「ヒト」「カネ」に注目し、業績が窮境状態に置かれ、かつ人手不足にも悩まされる業種に迫った。

4

  • TSRデータインサイト

芸能事務所に異変、倒産が相次ぐ

メディアの多様化で芸能事務所(プロダクション)が転換期を迎えている。2025年(1-12月)は倒産が26件発生し、2014年以降で過去最多だった。2026年も7月までに12件発生し、倒産が相次いでいる。

5

  • TSRデータインサイト

「焼肉店」の倒産が高止まり、「ヤキニクの日」食べる支援も一案

換気能力の高さから、コロナ禍で脚光を浴びた「焼肉店」が淘汰の波に揉まれている。2026年1-8月(20日まで)の「焼肉店」倒産は29件に達した。年間最多(59件)を記録した前年同期の35件に次ぎ、2009年以降、2024年同期と並ぶ2番目の高水準だ。

TOPへ