再生支援とファイナンス、金融機関が徹底討論! ~ 「実務家座談会」を開催(前編)~
ことし5月25日、企業の総資産を一体として担保対象にする企業価値担保権(事業性融資の推進等に関する法律)が施行された。
12月には金融債権者の4分の3以上の同意による多数決と裁判所の認可で債務調整が可能な早期事業再生法も施行される。
金利上昇や、物価高、人件費の高騰など経営環境の潮目が変わり、事業再生を取り巻く環境も変化しつつある。2025年度の企業倒産は1万505件(前年度比3.5%増)と、2013年度以来、12年ぶりの高水準となった。
こうしたなか、事業再生に携わる金融機関は企業にどう向き合うのか。東京商工リサーチ(TSR)は、事業再生に携わる金融機関の担当者に、取り組みの現状や事例、特色、留意点などを聞いた。
【座談会出席者】(金融機関コード順)
きらぼし銀行
・牧岡大介氏(融資管理部部長)
横浜銀行
・二宮裕樹氏(融資部経営サポート室室長)
東日本銀行
・吉田一紀氏(融資部副部長兼経営サポート室室長)
商工組合中央金庫
・高橋大輔氏(執行役員ターンアラウンド事業本部経営サポート部部長)
日本政策金融公庫
・井上賢二氏(中小企業事業本部東京企業サポート第二室室長)
―再生支援の特色は
(横浜銀行・二宮氏)横浜銀行では単なる金融支援にとどまらず、企業の将来価値を高める企業価値向上を目指して取り組んでいる。顧客の事業内容や強み、業界のポジションや成長可能性などを丁寧に見極め、事業性の評価を重視している。そのうえで、経営改善計画の策定や実行のほか、デジタル化支援、人材確保支援など企業ごとの課題に応じた最適なソリューションを組み合わせながら再生を支援している。
地域金融機関として長年に亘り顧客の事業を理解しているからこそ、財務情報だけではない企業の強みや可能性を把握することができると考えている。再生計画にとどまらず、長期的な視点で企業の未来を考えることが横浜銀行らしい事業再生支援だと考えている。
横浜銀行・二宮裕樹氏
(商工組合中央金庫・高橋氏)商工中金は全国47都道府県に支店を持ち、海外にも5拠点を構えている。中小企業専門の金融機関として、ライフステージ(段階)に応じた総合的な金融支援に取り組んでいる。
事業再生分野では、2004年に経営改善支援を担う経営支援室を立ち上げ、その後、コンサルティング業務やDIPファイナンスを行う専門部署を創設し、支援業務を拡大。今年4月から当庫の注力分野として『ターンアラウンド事業本部』となり、今まで以上に事業再生、経営改善に取り組む体制とした。
全国ネットワークを活用し、経営改善から事業再生まで一貫した支援を高度化させていく。社内専門人材(会計士や弁護士など)による深く入り込んだ早期ハンズオン支援、再生ファンド(サザンカファンド)を活用した早期・成長型の事業再生にも取り組んでいる。
また、経営サポーターという社内認定制度で、経営改善に長けた人材育成を進めている。2019年の導入以降、400名を超える営業店で法人営業を担う社員が経営サポーターの認定を受けた。経営改善人材の層を厚くしている。
(きらぼし銀行・牧岡氏)きらぼし銀行では、融資管理部が中心となって事業再生支援に取り組んでいる。与信管理と事業再生を一体的に捉え、早期に事業者の経営悪化の予兆を把握し、経営改善支援の着手につなげている。
事業再生と一口に言っても、事業者の課題やステータスによって支援内容は多岐にわたる。リスケや経営改善計画の策定支援にとどまらず、DIPファイナンス、スポンサー探索、事業譲渡、廃業支援など、多様な課題にワンストップで対応できる体制の構築を進めている。
また、自行だけでは対応が難しい領域については、積極的に外部リソースを活用している。例えば、飲料メーカーと連携し、飲食店の不採算店舗の退店支援を実施したほか、ECコンサルティング会社の知見を活用し、自社ECの構築や広告運用支援を行っている。こうした外部専門家との連携を通じて、顧客の課題解決と事業価値の向上を後押ししている。
(日本政策金融公庫・井上氏)日本政策金融公庫は、2008年に国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫の3つの政府系金融機関が統合して発足した。現在、全国に約120万の取引先を抱えており、必然的に事業再生に取り組む企業の実数も多い。中小企業活性化協議会の抜本再生案件の6割から7割くらいには関与しているのではないか。
当公庫は全国に展開しているため、地方の特色も把握しつつ、全国の動きをウォッチしている。政府系金融機関として経済産業省、金融庁、財務省などとも相談しながら、今の時流に合った政策パッケージを実行している点も特徴だ。

日本政策金融公庫・井上賢二氏
(東日本銀行・吉田氏)東日本銀行では、融資部内の経営サポート室で事業再生支援を行っている。2016年4月に当行は、横浜銀行と経営統合し、2019年11月に経営サポート室を設置して本格的に事業者支援を開始した。
当行の特色として、経営サポート室内に、「経営改善支援先担当」(現4名)と「特定管理先担当」(現2名)を設けている。さらに、「企業サポート担当者」(現18名)を各営業店に配置し、本部と支店で連携しながら早期に変調を察知できるように努めている。
顧客の窮状を早い段階で把握することが重要だと考えており、特に資金繰りを重視している。例えば、試算表を入手した際に、それをキャッシュフローに落とし込み、手元資金の状況などを確認している。
(高橋氏)事業再生支援に早期に着手することは『言うは易し行うは難し』だ。フロントの営業担当は顧客と近い距離にいるがゆえに、顧客の変調に気づいても耳の痛いことは言い難い。さらに、早期の段階だと顧客も危機感を感じにくく、経営改善に踏み出せない点は各行の共通の課題だと考えている。事業再生局面では、金融機関同士で連携し、経営者に危機感を持ってもらうことが重要だ。

商工組合中央金庫・高橋大輔氏
(吉田氏)経営者に深く納得してもらうことが不可欠だ。当行では、経営陣に現況をご納得いただくため、時にはディスカッションペーパーを20枚から30枚程度作成し、徹底的に財務分析を進める。10期程度決算書類を遡り、損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)は勿論のこと、キャッシュフロー計算書(C/F)、労働分配率など、あらゆる観点からファクトを並べていく。
―印象に残っている案件は
(高橋氏)支援対象企業の顧問税理士から「当社がここまで悪化したのはメイン行の商工中金の責任だ」とはっきり言われたことがある。
支援対象は年商4億円規模の運送業を営む企業だったが、赤字決算が常態化していた。当庫はリスケ対応を実施し、一旦、資金繰りは安定したが、却って抜本的な再生への取り組みが遅れてしまった。結局、リスケ期間が長引き、必要な設備投資が遅れ、結果として事業競争力が徐々に弱くなり、突然に資金繰りに窮する状況に陥った。その時に、前述の顧問税理士から鋭いご指摘を頂いた。
その後、経営サポーターが運行管理や車両別の採算など、数値面を深く把握し、改善策を提案。毎月経営会議に参加し、改善策を進めたことで、半年で赤字から黒字に転換することができた。この事例では、高度な再生手法を使っているわけではない。いかに経営者と深く対話し、早く改善策を進めていくかがハンズオン支援の本質だ。
(井上氏)ある事業再生の事例を紹介したい。当初は債権カットを想定していたが、後に債務の株式化(DES)を実施し、当公庫が株主の立場になった事例だ。以前は、代表者の個人的支出と会社の支出の区別が曖昧で、ガバナンスが上手く機能していなかった。
その後、株主に就任し、財務内容も改善、社外から同業の方も役員に就任いただいたが、得意先から「今まではガバナンス面で不安のある会社だったため、仕事を積極的に依頼していなかった。(新たに就任した)新社長なら仕事を進んで任せたい」と打ち明けられた。
実は得意先は、財務諸表からは見えない普段の振る舞いなどの定性的な部分もよくみている。財務面の改善だけではなく、企業体質や普段の付き合い方まで包括的に企業を見なくてはならないと感じた。
私的整理は金融機関同士で足並みをそろえる必要があるうえ、経営陣の理解も必要で、意見をまとめていくのが難しい。当公庫は再生支援が必要な取引先については、中小企業活性化協議会等とも連携して、顧客に対して早い段階で相談にいくように働きかけている。
(続く)
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年9月1日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)