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予防法務と立ち退き案件への専門性、家業破たんが出発点 ~ 法律事務所アルシエン・坪井僚哉弁護士インタビュー ~

 米国テスラ社の国内法人であるTesla Japan合同会社(TSRコード:298360276、東京都港区、以下テスラ社)の社員が、解雇の撤回と解雇期間中の給与相当額(バックペイ)の支払いを求めていた訴訟で、被告側が「請求を認諾する」と宣言した。今年2月に原告側が会見で明らかにすると、大きな話題となった。
 この訴訟で原告代理人を務めた坪井僚哉弁護士(法律事務所アルシエン)は、プロボクサーライセンスを持つ異色の弁護士だ。
 専門分野は労働法にとどまらず、不動産立ち退きや中小企業の顧問を強みにしているという。東京商工リサーチ(TSR)は、坪井弁護士に弁護に取り組む姿勢などを聞いた。

坪井僚哉(つぼいりょうすけ)弁護士
 2012年5月プロボクサーライセンス取得
 2017年3月神戸大学法科大学院卒業
  立ち退き案件における立退料の増額などを手掛ける。多くの中小企業の顧問などを務める。

―事務所の特色は

 「一人ひとりが専門分野を持つ職人集団」のコンセプトを掲げる事務所で、現在約20名の弁護士が所属している。それぞれ専門分野を持ち、その分野で法律知識だけでなく業界慣習などの周辺知識を豊富に有し、周辺業種とも連携している。専門分野でベストを尽くす職人集団と自負している。
 形式的な回答ではなく、相談者の根本の問題は何か、実質的な解決は何かを考え、ベストな解決を提案するように各人が考えていることが強みだ。

―プロボクサーとして活動していたと聞く

 私は高校一の落ちこぼれだったが、15歳の頃にプロボクサーと弁護士という夢を持った。  
 大学在学中にプロボクサーとして後楽園ホールのリングに上がり、デビュー戦はTKO勝ちし、新人王トーナメントの優勝候補にまで進んだ。しかし、2戦目の直前、トラブルで左拳の機能に支障をきたした。そこからはほぼ右腕一本で戦い、2戦目も3-0の判定で勝利したが、二本の腕のみで戦うボクシングで片腕を使えないハンデは埋め難く、ボクシングに区切りをつけた。引退後は司法試験の勉強に打ち込み、試験に一発合格することが出来た。ボクシングは引退したが、今は弁護士として依頼者や顧問先企業のために戦い抜く事をモットーとしている。

取材に応じる坪井弁護士

取材に応じる坪井弁護士


―弁護士を目指したきっかけは

 理由の一つは、家業の経営破たんを経験したことだ。幼い頃、祖父が経営していた従業員5名程の工務店が詐欺まがいのトラブルに遭遇し、会社がダメになってしまった。家族が連帯保証していたため、住んでいた家も取られてしまった。幼い頃ではあったが、大きな無力感に苛まれた。会社が傾くと、役員だけでなく従業員やその家族も露頭に迷ってしまうと身をもって経験したことで、弁護士となり中小零細企業に親身に寄り添っていきたいと思った。
 もし、当時の祖父の会社に顧問弁護士がいて、契約内容を確認していたら、当時の出来事は防げたのではないかと今になっても思う。

―中小企業顧問の具体的取り組みは

 中小企業顧問では、家業の破たんの経験から予防法務を重視している。そのため、契約書の整備、人事労務、取適法改訂の対応など実務面での支援を大切にしている。中小企業は余裕のある大手企業と比較すると、どうしてもリーガルチェックに後れを取り、契約書などの抜け漏れで大きなトラブルになるケースもある。
 顧問料は月額6万円から対応し、6万円のプランの場合、契約書や就業規則などのチェックや相談を含めて 3 時間まで標準対応としている。超過分は1時間3万円とし、費用体系を明朗に運用している。追加料金を請求する時には、行った業務とかかった時間をしっかりと報告し、弁護士費用がブラックボックス化しないようにしている。
 予防法務の観点から、事前に契約書の内容をチェックしていたことで、約1億円の損害賠償を回避できたケースや、会社の金員を横領した従業員の保証人から被害額を回収できたことなどがあった。また、従業員向けの契約書類などを加筆修正し、情報漏洩や競業行為といった裏切り行為を未然に阻止できる仕組構築なども力を入れて取り組んでいる。

―立ち退き案件の具体的取り組みは

 立ち退き案件や不動産関係の分野に注力するのは、自身も幼い頃に家を取られた経験があったため、専門分野を模索していた際に、興味が向かったことが理由の一つだ。
 貸主や都市再開発組合などから立ち退きを求められた依頼者の味方となり、立退料を増額することに注力している。立ち退き案件では、貸主や再開発組合の提示金額を鵜呑みにし、不当な価格で買い叩かれて慣れ親しんだ住処(すみか)や職場を追い出される人が後を絶たず、一種の消費者被害であるとすら考えている。
 ビルの一室で店舗経営していた依頼者が、建物の建て替えなどを理由に貸主から立退きを求められたケースがあった。他の専門家などとも連携し、借主側として立退料の専門的な証拠資料などを作成し、貸主に提示すると共に、裁判例の知識を駆使して交渉した。当初貸主から提示された立退料は約 50 万円(引越相当額)だったが、原状回復工事費用を免除の上で約 5,300 万円に増額成功した。
 現在、立ち退き案件の対応は相談料、着手金共に0 円の初期費用無料で依頼を受けている。成功報酬型を採用し、依頼者のリスクを抑える仕組みを原則としている。成功報酬は、立退料総額ではなく、実際に増額した分など受任後に実際に獲得した経済的利益の35%のみである。

―テスラ社の訴訟を振り返ると

 普段中小企業の顧問を行うなかで、問題のある従業員への対応を経営者から相談を受けることがある。中小企業にとって、こうした問題は大きく企業体力を消耗する。そのため、そうしたシチュエーションの際には企業の代理人として矢面に立ち、円満な解決を目指しつつ、毅然とした態度で戦い抜く。また、私の強みは、労使双方の視点から労働事件を俯瞰できる点だ。相手方の主張・立証を先読みした戦略立案は、労使双方の立場を経験してきたからこそ成せることだ。普段は企業側の代理人となることが多いが、テスラ社の件では、不当な整理解雇に直面した従業員の代理人として提訴。法的要件の欠如を鋭く突き、全面勝利することが出来た。



 今後も、情報や知識に乏しいことで立ち退きの際、買い叩かれることを防ぎ、消費者被害を是正したいと語る坪井弁護士。また、異色の弁護士は、顧問先の中小企業の発展に力を尽くす熱意にも溢れている。
 中小企業に特化したリーガルアドバイスは、専門の弁護士も少なく、経営者の大切な拠り所になるだろう。
 今後も“戦う弁護士”として坪井弁護士の存在感はますます高まりそうだ。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年3月30日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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